地域と世界のきずな 沖縄から発信!活力ある漁村づくり 沖縄県

海に囲まれた島国にとって、水産資源の減少は切実な問題だ。
沖縄県では、資源の持続的な利用を目指して、養殖業の開発や加工・販売の強化などに取り組んできた。
この知見や技術を他の島国にも伝えようとJICA沖縄が実施している研修に密着した。

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漁業研修で釣った魚をさばく研修員たち。この魚を材料に、それぞれの国や地域の伝統料理を作った

日本発祥の処理手法で 魚の鮮度を保つ

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沖縄県

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約4時間で合計33匹の魚を釣り上げた。この日、一番の大物は体長70センチ前後のカンパチだ

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研修員の指導に当たる金城船長。「初めてこの研修に関わりましたが、教えるのは楽しいですね」と笑顔で語っていたのが印象的だ

沖縄県那覇市の気温は、10月頭でも30度を超えていた。港から船を走らせること約40分。さんさんと降り注ぐ太陽の光の下で、一本釣り漁が始まった。

「魚の頭の方から針を刺して、尻尾がブルブルとふるえたら正しく刺し込めた証拠です」。地元の漁師から指導を受けるのは、太平洋、インド洋、カリブ海の島国から来日した11人の行政官たち。彼らは母国で水産業や海洋環境保全に関する業務を担当しており、JICA沖縄が実施する約2カ月間の水産研修コースに参加しているのだ。

この日、研修員は2つのグループに分かれて沿岸漁業を体験した。朝9時に漁が始まると、すぐにニザダイやウメイロといった体長40センチ前後の魚が掛かり、そのたびに歓声が上がった。しかし、この研修は魚を釣り上げた後が本番。鮮度を保つために、魚の眼の上あたりを針で突き刺して即死状態にする"活け締め"と呼ばれる処理に挑戦した。激しく動く魚に悪戦苦闘していた研修員も、何度も挑戦するうちに要領をつかみ、慣れた手つきへと変わっていった。

魚を締めた後は生臭くなるのを防ぐために、エラを切り、水を張ったバケツに入れて"血抜き"を行う。最後に、氷の入ったクーラーボックスに魚を入れる際にもひと工夫が。「船の揺れでうろこが剥がれないように、魚の腹を上にして、向きをそろえて入れます」。船長の金城元士(もとし)さんが熱の入った指導を行っていた。

10年以上にわたり研修実施を担当している、有限会社琉球環境マネジメントサービス・代表取締役の吉田透さんは、「釣った魚をそのまま何時間も船の上に放置している国もあるので、魚をおいしく食べるための鮮度保持の手法を知ってもらうことがこの実習の狙いです。また、魚を処理した後は、汚れた船の床をすぐに海水で洗うといった衛生管理の大切さも伝えるようにしています」と説明する。

漁師の技能向上から 漁村の活性化に比重

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完成したツナフレークを手にする研修員たちと吉田さん(左端)

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試食会には、JICA沖縄の職員や、他の研修コースに参加中の研修員など多くの人が集まった

JICA沖縄の水産研修は2006年に始まり、2年前からは県の水産海洋技術センターと漁業士会の協力の下、"水産業の多様化"に焦点を当てた研修を行っている。1970年ごろから、乱獲や地域開発による環境悪化に伴い、水産資源の減少が課題となってきた沖縄県では、海藻・貝類の養殖業や、人工漁礁を海面に浮かべる"パヤオ漁業"など代替収入源の開発、加工品の製造・販売の強化など、水産業の多様化を進めてきた。

「日々の生活を営む漁業者にとって資源管理は簡単ではありません。そこで、捕った魚を無駄なく、付加価値を高めて販売する仕組みづくりを通じて、漁業者が資源管理の取り組みに参加しやすい環境を整えることも行政官の大切な役割です。研修では、沖縄県で行われている鮮度保持、輸送、加工、販売などさまざまな工程や工夫を体験し、そのヒントを得てもらいたいのです」と吉田さん。フィリピンの研修員、サバル・オマールさんは、「糸満市の漁協の女性グループから教わったツナフレーク作りが印象に残っています。蒸したマグロの身をほぐして真空包装するというシンプルな作り方なので、母国でも取り入れられそうです。また、パッケージのデザインも、商品の付加価値を高める大切な要素だと学びました」とこれまでの研修を振り返る。

研修では、実際に釣り上げた魚を使った調理実習も行われた。作るのは、研修員が暮らす国や地域の伝統料理。グループごとに協力し合いながら料理を仕上げていった。「これは、サモアで日曜日に家族や友達と食べる特別な料理なんだ」とシオモア・アゲルさんが紹介してくれたのは、生魚と野菜をココナツミルクで和えた「オカ」。他にも、フィリピンの家庭料理「アドボ」や、魚を唐辛子やトマトソースで味付けしたモルディブ料理「チリーフィッシュ」など、全6品が完成した。

その日の夕方、JICA沖縄では完成した料理の試食会が開催され、職員をはじめ大勢の人たちが集まった。「魚が新鮮でおいしい」「ご飯が進みそう」とどの料理も好評だ。途中、研修員によるマグロの解体ショーも行われ、試食会は大いに盛り上がった。ドミニカの研修員、スタウト・バルシナ・キャンディさんは、「沖縄県では、政府と漁業者の距離が近いと感じました。私も母国に帰ったら、今回の経験を漁師たちに直接伝えていきたいと思います」と意気込む。

水産資源を大切に活用し、活力ある漁村づくりを−そんな沖縄の心が、同じ課題に取り組む世界の島国に広がっている。

沖縄県

面積約2,281平方キロメートル、人口は2016年10月時点で約144万人。広大な海域に散在する琉球諸島の島々から成る。サンゴ礁沿岸域では諸々の漁業やモズク、クルマエビ、海ブドウなどの養殖が盛んで、沖合ではカツオ・マグロなどの回遊性魚類や、ソデイカ、マチ類、ハタ類などの底魚を対象とする漁業が行われている。2016年の海面漁業・養殖業生産量は3万2,000トンで、このうち養殖業が51.6%、漁業が48.4%を占める。