地方発、世界へ

民間企業、地方自治体、大学、NGOが持つ優れた技術や製品、ノウハウは、すでに日本では当たり前とされているようなものであっても、開発途上国の課題解決に大いに役立つ。
国際協力を通じた海外展開のハードルはけっして高いものではない。
JICAとつながることによって世界が近くなり、視野は広がる。

取材協力:BBT大学准教授 谷中修吾
文:田中 弾

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ABEイニシアティブで留学生14名の受け入れを行ったラミーコーポレーション。ラミネート機材の組み立て、製造、修理技術を学んだ。中小企業の強みと人情に触れる機会を提供した

日本のどんな技術が海外で生きるのか?ソーシャルビジネスの専門家として、地方創生と国際協力の双方に造詣の深い谷中修吾さんは、次のように話す。

「日本の大企業と中小企業の割合は1対99。つまり、大部分が地域に根ざした中小企業です。中小企業が生み出す製品やサービスは、自分たちでは『何ら特別ではない』と思っていたとしても、開発途上国では非常に有用である場合が多いと思います」

2017年、谷中さんはJICAの専門家としてインドネシアのボルネオ島の農村を訪問した。現地では「ネット環境が脆弱でITを活用した事業展開が進まない」「違法伐採を取り締まる効果的な手法を模索している」「泥炭地における火災発生への対応に苦慮している」という課題が見て取れた。とはいえ、これらは日本で一般的な「通信技術」「セキュリティ技術」「防災技術」を用いれば、解決の糸口をつかめるものだったと話す。

2016年に訪れたラオスのウドムサイの町では、「観光情報を発信するウェブの作り方がわからない」という声を聞いた。日本の一般的なウェブ制作会社が持っているようなノウハウをノドから手が出るほど欲しいという現実があった。

「世界の開発途上国に目を向けると、同様の構造があらゆる分野で見つかります。日本の技術、製品、サービスはジャンルを問わずに生かせる可能性が高いのです。つまり、事業拡大と国際協力を同時に実現できるチャンスがあるのです。これは、民間企業のみならず、地方自治体、大学、NGOなどにも同じことがいえると思います」

今後、開発途上国の経済成長がより進展していく過程では都市と地方(農村)の二極化が進み、インフラをはじめとする都市問題や、人口減少・高齢化に伴う地方問題が表面化すると考えられている。これは日本が直面してきた社会的課題であるから、地方創生のノウハウが応用できるだろう。また、地球環境問題の深刻化に伴って自然災害の頻発も予測される。地震や豪雨の対策を多く講じてきた日本は、防災や減災というテーマで世界に貢献できる可能性がきわめて高い。

開発途上国に力添えしながら海外に事業を展開するのであれば、谷中さんはJICAとのパートナーシップは大きな強みになると話す。現在、JICAには本部以外に国内に15の拠点があり(注)、相談窓口が開設され、海外展開メニューも多岐にわたって用意されている。国内拠点は海外の96拠点と密に連携しているため開発途上国の情報も確かだ。

「海外事業を始めるにあたって、最初の一歩を踏み出しやすいのが大きな魅力です。それに現地の国・地方自治体などの公的機関に対して、圧倒的な『信頼』と『ネットワーク』を持っていますので、その国のビジネスルールや法規制に円滑な対応ができ、現地のカウンターパート(企業や団体)探しもスムーズだと思います」

JICAには長年培ってきた国際協力の実績があるため、民間の視点で見ると、開発途上国で事業を展開する突破力が明らかに違うと話す。事業がうまく軌道に乗れば、海外拠点同士のつながりを活用して他国への展開も見えてくる。

最後に、谷中さんはもう一つ大切なアドバイスを付け加える。

「地方から世界に出ることを検討するとき、もちろん不安なこともたくさんあると思います。しかし、それ以上にワクワクすることがあるからこそ、検討を始めたはずです。好きな国、人との出会い、未知との遭遇-ワクワクすることであれば、初めての海外事業であったとしても、どんどん話を進めていくことができます。現場を動かす原動力は、個人の内側からくるワクワク感なのです」

教えてくれた人

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谷中修吾さん

BBT(ビジネス・ブレークスルー)大学 准教授
地方創生イノベータープラットフォーム INSPIRE 代表理事
谷中修吾(やなかしゅうご)さん

ソーシャルビジネスの専門家。地方創生まちづくりの事業開発に実績多数。JICAでは「なんとかしなきゃ!プロジェクト」「REDD+プラットフォーム」のオフィシャルサポーターを務め、開発途上国における地域問題の解決にも取り組む。環境省「グッドライフアワード」総合プロデューサー、総務省「地域力創造アドバイザー」、内閣府「地方創生カレッジ」講師なども兼任する。