イラク南部の最大都市バスラには、1982年に日本の協力によって建てられたハルサ発電所がある。この地域一帯の電力供給をまかなう重要な施設で、運用や維持管理は日本人技術者から学んだイラク人技術者が行っていた。しかし湾岸戦争による損害を受けた後、老朽化も進み、経済制裁の影響による資材不足のためメンテナンスも十分でなく、発電能力が低下していた。この現状の解消にイラクは、2015年からJICAの協力を得て発電所内の四つの発電設備のうち4号機の改修を実施(2017年に終了)。現在は1号機の改修を進めている。
「4号機では建屋の屋台骨など残せそうなものは残しつつ、発電の要となる部品はほぼ交換しました。イラク人熔接士や機械工を日本に招いて技術トレーニングを行い、現地では保守・運転のための技術教育を行っています」と話すのは、プロジェクトを担当する三菱日立パワーシステムズの山口雅義さん。電力の安定供給のために導入した電子制御システムは、扱いやすいと現場でも好評だ。近隣の工科大学から学生の研修を受け入れ、日本の最新技術を学ぶ場も提供した。
作業中には税関や国内で大きな資材の運搬が足止めされることもあったが、その都度スタッフが一丸となって遅れを巻き返した。納期通りの完成にはイラク人関係者から多くの感謝の声が上がった。
そして今、4号機の改修で顔なじみになった人たちは1号機での作業に力を注いでいる。
2019年、イラクと日本は国交樹立80周年を迎えた。その間に多くの日本企業がイラクの発展に協力してきた。確かな実績の積み重ねが、強固な信頼を築き上げている。
2015年から改修事業を担当。「イラク電力省の関係者や現地職人とよく食事を一緒にし、コミュニケーションをとっています。フットサルやバスケットボールで一緒に汗を流すスタッフもいます」。長年、仕事をしてきたマフムード・アブドゥルラザック・イブラヒムさんと。
イラクは度重なる戦争、イスラム国(ISIL)の侵攻などにより、老朽化するインフラ施設の更新が進んでいない。
JICAは日本の技術を役立てる本邦技術活用条件(STEP)を適用した協力にも取り組んでいる。