ともに前進を Case3

長く築いた信頼でたがいの教育力を上げる ザンビア

広島大学は約20年にわたり、JICA海外協力隊やプロジェクトなど多様な関わりを通じて、自らも深化しながらザンビアの教育発展に携わっている。

文:久保田 真理

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2019年に開催されたザンビア大学・広島大学合同研究セミナー。

たがいに学び教師の授業力を上げる

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首都:ルサカ

広島大学は2002年から、ザンビア特別教育プログラムを実施している。同大学大学院に入学した学生がJICA海外協力隊の理数科教員としてザンビアで2年間活動・研究し、帰国後に修士論文を執筆して修了できるという他にはない取り組みだ。「ザンビアの教育に協力しながら研究課題を持って実践と向き合うことで、課題を明確に深く分析できたり、実践の質が高まったりと相乗効果が生まれます。これを通じて国際協力分野で活躍できる人材を育成しています」と、2004年からザンビアの教育支援に携わる同大学院教授の馬場卓也さんは説明する。

ほかにも、日本人教師による現地での授業実践や、現地の教育関係者が日本における研修で授業見学をするなどの機会を持ったことで、教え方を改善する必要があるとのザンビア人教師の認識が高まった。これを受けて始まったのが授業研究だ。2007年からは、ザンビア大学・広島大学合同研究セミナーを開催している。「日本人・ザンビア人が教育に関してともに研究発表し、100人ほどが参加します。ザンビア大学はこれを貴重な機会ととらえてたがいに費用を負担しながら今日まで続けており、双方の研究人材の育成にもつなげています」と馬場さんは語る。

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合同研究セミナーは2019年で13回目を迎え、ザンビアの子どもたちの学力向上のために関係者らが努力を重ねている。

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合同研究セミナーは、JICA海外協力隊員として派遣される広島大学大学院生がザンビアの教育について発表を行う場にもなっている。

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JICA海外協力隊の隊員としてザンビアの中等学校で理数科の授業を担当する広島大学大学院生。

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大学院生はザンビアの中等学校で子どもたちに教えることで、理論と実践を関連させながら研究に励んでいる。

つながりを築き教育改革を推し進める

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プロジェクト研究「初等算数課題分析」での調査で、子どもたちの学力の実態を明らかにしていく。

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JICA研修のために広島大学を訪問したザンビアの教育関係者ら。写真右から3人目が、現ザンビア教育省国立科学センター所長のベンソン・バンダさん。

広島大学は学術的な探求とともに、ザンビアの教育政策を担う人材としてベンソン・バンダさんを2009年に留学生として迎えるなどして、ザンビアの教育改革もよりサポートできる基盤を築いてきた。バンダさんは現在、ザンビア教育省国立科学センター所長を務める。「バンダさんを中心にKKチームと呼ばれる教材研究チームを結成し、変革を継続する仕組みを整えました。またJICA研修で来日したザンビア教師教育局長とザンビア教育の現状について議論を重ね、教育方針の基礎を固めることができました」。

さらに、国の教育政策の根幹に関わるカリキュラムを見直す事業に馬場さんは関わることになり、2013年からのJICAによる「授業実践能力強化プロジェクト」で、現地でのワークショップ(体験型講座)や現地関係者の日本研修の実施などを担当した。

広島大学のザンビア教育支援は新たな局面を迎え、2017年からはプロジェクト研究「初等算数課題分析」を受託、開始。ザンビアの子どもたちの低学力問題の根底にある基礎的計算能力を体系的に調査し、解決策を生み出していく。「実態調査から、子どもたちは能力が低いのではなく、計算能力を定着・発展させるための教師のサポートが不足していることがわかりました。今後は、研究に基づいたカリキュラム作りに取り組んでいきます」と馬場さんは今後を語る。

大学院生によるJICA海外協力隊の活動参加を機に始まった約20年にわたるこれまでのさまざまな協力を通じて、広島大学とザンビア教育省・ザンビア大学関係者間の関係構築が進んだことが大きな成果であると馬場さんは総括する。「長期的に見れば、いろいろな意見を取り込みながら自分で考えて問題を解決する力を持ち、国の発展に寄与するザンビア人人材を育成することが重要です。そして、われわれもその過程で大きな学びを得て、日本でも現地に寄り添える教育開発ができる専門家が育ってきました。ザンビアの教育発展がますます進み、日本との友好の架け橋となる人材が育つことを期待しています」。

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研修では日本の小学校で模擬授業を実施。教師の教え方次第で子どもたちの反応が変わる。

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ザンビアの小中学校カリキュラム改訂のため、教育関係者らで会議やワークショップが開かれた。

広島大学大学院人間社会科学研究科 国際教育開発プログラム教授 馬場卓也(ばば・たくや)さん

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馬場卓也さん

研究を積み重ね、さまざまな人とのつながりを築き上げてきたからこそ、より深く実態を知り効果の高い協力ができる段階にたどりつけたのだと感じています。