安心して医療が受けられる未来に向けて ルワンダ

ビッグデータ

ITの技術を活用し、eコマース(電子商取引)をはじめ、フィンテック(注)、デジタルコンテンツ、通信など多岐にわたる分野でサービスを展開している楽天が、アフリカ・ルワンダで自社の技術を生かした取り組みを行っている。

(注)ファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語。ICTを駆使した革新的な金融商品やサービスのこと。

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「保険料が安くて適用範囲が広いものがあればうれしい」とヘアサロンの理容師。

民間保険サービスへの需要の高まり

経済発展を続ける赤道直下のアフリカの国ルワンダでは、国による社会保障サービスは9割近い人々に行き届いているが、それだけでは十分な治療が受けられないケースもある。一方、補完的な役割を果たす民間の保険サービスは保険料が高額で、加入者は多くない。

手頃な保険料で使いやすい医療保険サービスがあれば、医療がより人々に近くなる-そんな未来の社会像を描いて楽天はJICAの中小企業・SDGs ビジネス支援事業に応募し採択された。

複数のIT技術とサービスを組み合わせる

「楽天グループでは、自社が持つサービスやIT関連技術を世界の多様な課題解決に生かすことができないかを常に検討しています。そうしたなかで実現したのが、ルワンダでのJICAの事業です」と語るのは楽天ヨーロッパの山中翔大郎さんだ。「新興国では、保険制度が整備されることで人々が医療を受けやすくなります。ルワンダでは政府がIT化やイノベーションに力を入れているので、弊社が貢献できる部分が大きいと思いました」。

同国では、国と民間保険の保険料には10倍以上の差があるため、手頃な価格の保険を必要としている人は多い。そこで考えたのが、同じ属性を持つ人同士(たとえばがんに備えたい人)でグループをつくり、比較的安価な定額の保険料で医療費の一部が支払われるP2Pマイクロ保険の導入だ。

さらに保険に関する情報の管理は、同一の情報を分散して管理・共有するブロックチェーン技術の活用を想定。情報が安全に運用・共有できるとともに、多様な保険業務の効率化、コスト抑制ができる。また同社の技術を生かし、自宅近くに医療機関がなくても受診や診断を行えるAI診断やモバイル診療を保険と連係させる構想だ。「利用者がアクセスできる携帯電話やスマートフォン、タブレット、パソコンなどで医療も保険サービスも受けられる社会を考えました」。

保険・医療連係の仕組み

P2Pマイクロ保険の加入者は、モバイル診療や病院受診でその費用の一部が保険から直接医療機関に支払われる。診断データは、顧客データとしてサービス提供企業が一括して管理し、保険の審査などにも活用される。お金のやり取りはモバイルバンキングを利用する。

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保険・医療連係の仕組み

楽天ヨーロッパ アフリカ担当シニアマネージャー 山中 翔大郎(やまなか・しょうたろう)さん

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山中 翔大郎さん

「ルワンダでは日本よりもIT技術が生活の中に浸透している分野もあります。弊社の技術とうまくつなげていきたいと思います」

現地との連携を重視

そうしたモデルを描き、山中さんたちは2019年にルワンダでの調査を実施した。現地政府や関連機関、民間企業、地方のコミュニティや保健所などで聞き取り調査を行い、世帯収入ごとに保険の需要や事業の可能性、パートナー候補となる企業などを調べた。「ルワンダは国の社会保障サービスが充実していますが、それでも希望する医療が受けられない人もいることがあらためてわかりました。約900万人と想定される中間層が、特に保険を必要としています」と話す山中さん。

現地でAI診断を事業化している企業はなかったが、モバイル診療はすでに電話などで行われていて、事業に組み込めば地方部に住む人たちが医療サービスを受ける機会を増やせると考えた。

「保険、医療、送金などを一元的に管理することで利便性も上がりますし、医療へのアクセスは格段に向上すると考えられます」と山中さんが話すように、将来的な需要や可能性が感じられるため、今後の展開に向けて時期や方法などさらなる検討を進めている。

世界に目を向ければ、病気やけがをしたときに医療費などの支払いができない、支払いのために家や畑などを売ってしまい生活が成り立たなくなる、仕事を失い家族の生活が立ち行かなくなる-こうした状況に置かれてしまう人は多数存在している。「今回のプロジェクトで構想した保険と医療を連係させる仕組みは、ルワンダ以外の国でも実施できる可能性を感じました。今後も継続的にルワンダの、そしてアフリカの人々の便利で安心できる生活のためにIT技術をどう活用できるのかを探っていきます」。

現地でニーズを調査

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地方のコミュニティでも聞き取り調査を実施した。

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医療の現状を知るために、保健所に赴く。

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農場でも調査を実施。

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アフリカ最大のICT(情報通信技術)のイベント、「トランスフォームアフリカサミット(TAS)」の機会を生かして、政府や民間企業などにヒアリングを行った。

ルワンダ

【画像】国名:ルワンダ共和国
通貨:ルワンダ・フラン
人口:1,230万人(2018年、世界銀行)
公用語:ルワンダ語、英語、フランス語、スワヒリ語

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首都:キガリ

1994年の大虐殺を乗り越え、その後国民融和・和解が進み、政治的には安定している。2010年以降、年平均7%を超える実質経済成長率を維持し、2017年からは年平均9.1%の経済成長を目標に掲げている。