デジタル技術を学び、社会に貢献 タイ/ルワンダ

人財

JICAの人材育成事業を通じて、日本で研究・就業体験を得た途上国出身の留学生たち。
母国と日本をつなぐ人材として活躍が期待される彼らに、活動内容と今後の目標を聞いた。

文:久保田 真理

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ナッタカーン・キッポさん。アメリカの国際会議(2019年開催)で研究成果を発表し、4位に入賞した。「日本での研究や経験をさらに積んで、豊かな社会を目指します!」

タイ 革新的な技術で少子高齢化時代の農業に貢献

ナッタカーン・キッポさん

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首都:バンコク

IoT(物のインターネット)やAI(人工知能)について学べることが魅力的で、イノベーティブ・アジアに志願しました。以前はタイのモンクット王工科大学で、教育支援のウェブサイト開発に携わっていました。

2017年に芝浦工業大学に留学。タイでも日本と同様に少子高齢化が進み、農業人口の減少や農業従事者の高齢化が今後問題になると考え、スマート農業について研究しました。これまで最適な収穫期を知るには経験や勘に頼ることが多く、収穫期を逃して収益を損失することがあったため、IoT技術の活用でこの問題を解決することを検討。具体的には、トマトの収穫期を自動的に、かつリアルタイムで把握できる技術を研究しました。

卒業後は、茨城県にある国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)にてインターンシップ(注)を経験し、研究を深めました。農作物の写真をカメラで自動的に撮影できるプログラムを独自に開発し、研究の成果を同僚と一緒に論文にまとめました。現在は、日本の先端技術をさらに学ぶため、日本企業への就職を目指しています。

ITエンジニアとして、多様な産業で革新的かつ効果的な技術を創造・開発し、社会課題を解決する社会を実現させたい、そしてタイと日本双方に貢献するビジネスで活躍したいです。

(注)就業体験。

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トマトの収穫期予測のため生育状況をカメラで撮影。

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芝浦工業大学の海外研修に助手として参加し、70人以上の学生をサポート。

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2年間を過ごした大学の研究室。研究に励みながら、日本の生活や文化も積極的に吸収した。

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イノベーティブ・アジアの研修生としてキャリアセミナーに参加。他の参加者とも交流を図った。

イノベーティブ・アジアとは

アジアの途上国の対象12か国におけるトップレベル大学(「パートナー校」として指定)出身の若手人材を対象に、日本の理系分野の大学院への留学や、日本企業等でのインターンシップの機会を提供するプログラム。日本とアジア双方のイノベーションに貢献するとともに、母国の産業発展に貢献できる人材の育成を目的とする。2017年の開始から5年間で約1,000人の受け入れを目標としている。

ルワンダ ソフトウェア開発を通じ、若者の仕事をつくりたい

ムガルラ・アミリさん

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ムガルラ・アミリさん。インターンシップ時、雷による電気・電子機器の故障を防ぐ装置を組み立てた。「日本での就業体験をきっかけに、ビジネスのパートナーに!」

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首都:キガリ

フォルマ・キガリ科学技術大学(現ルワンダ大学)でコンピューター工学を勉強中に友人とICT(情報通信技術)企業「データ・エキ」を設立。ソフトウェア開発チームを率い、教育、公共事業、農業などの分野でITによる課題解決に取り組んできました。

ABEイニシアティブに応募したのは、JICAの短期研修で日本を訪れたのがきっかけです。日本でICTを学ぶことで、ルワンダの成長にもっと貢献できると思いました。そして、神戸情報大学院大学に留学して、IoT、データから有益な価値を引き出すデータサイエンス、プログラミングなどを学び、情報システムの修士号を取得しました。兵庫県の音羽電機工業でのインターンシップで日本のビジネスを学び、また、雷検知器の開発チームでデータ分析システムを構築する機会にも恵まれました。日本での学びに、心から感謝しています。

帰国後はデータ・エキに復職。ルワンダの医療分野で、遠隔地の患者を医師が診断するサービスを開発するほか、観光、教育、防災の分野でも課題解決につながる技術を生み出しています。音羽電機工業はJICAの中小企業海外展開支援事業(現:中小企業・SDGsビジネス支援事業)を活用して雷被害対策技術や製品をルワンダで展開することになり、私は同社の現地技術チームとしてサポートや、アフリカの状況に即した技術・製品開発にも携わっています。

将来はより多くの若者に仕事の機会を提供できるようになることが目標です。

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音羽電機工業の社員らとルワンダの大学で雷検知器を設置するアミリさん。同社の現地展開をサポートする。

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神戸情報大学院大学では自律型ロボットの研究を行い、情報システムの修士号を取得した。

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日本に滞在中、日本企業などに向けてルワンダのビジネス環境について発表することもあった。

ABEイニシアティブとは

アフリカの若者を日本に招き、日本の大学院での修士号取得と、日本企業でのインターンシップの機会を提供するプログラム。アフリカの産業人材育成と、日本企業のアフリカビジネスを現地でサポートする水先案内人の育成を目的としている。2014年の開始から5年間で、54か国1,200人以上のアフリカの若者が来日した。