人工衛星が支える高精度の森林モニタリングシステム ペルー

ビッグデータ、デジタル技術

雲がかかっていても地上の様子を観測できる日本のレーダー技術など、多様な衛星技術を使った森林モニタリングシステム。
広大な森林を保全する途上国で成果を上げている。

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森林モニタリングシステム上で変化が検出された箇所を飛行機で空から検証。実際に森の一部が伐採されていた。

森から世界を変える

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JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号(ALOS-2)」のCG画像。©JAXA

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ALOS-2がとらえたアマゾンの様子。JJ-FASTではここから変化のあった部分だけを抽出し、地図情報に落とし込んで提供する。©JAXA

世界規模の課題である地球温暖化において、森林保全は重要な取り組みの一つだ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とJICAは、世界の熱帯林と生物多様性の保全、そして気候変動対策のため、衛星技術を利用して各国の森林管理に貢献する目的で、2016年に「森林ガバナンスイニシアティブ」を立ち上げた。このイニシアティブのもとに開発されたのが、JAXAの人工衛星「だいち2号(ALOS-2)」の画像を活用した森林モニタリングシステム「JJ-FAST」だ。

「JJ-FASTには世界中どこからでも、パソコンやスマートフォンを使って自由にアクセスすることができます」と説明してくれたのはJAXAの田殿武雄さん。国によってはインターネット回線が脆弱で、衛星画像のような容量の大きなデータを扱うには障害が多い。森林被覆の変化があった部分だけを地図に落とし込んでいるJJ-FASTを使えば、データへのアクセスや活用がしやすい。

またシステムの要であるALOS-2の最大の特徴は、宇宙からでも雲の下の森林を観測できることだ。年の半分近くは雲に覆われ頻繁に雨の降るアマゾンのような熱帯林でも、天候に左右されずモニタリングが可能となる。

宇宙航空研究開発機構 田殿武雄(たどの・たけお)さん

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田殿武雄さん

「現在のシステムは監視のためのものなので、変化を検出して初めて行動できます。今後は変化を"予測"できるようなものを開発できたらと思っています」

高度なモニタリングシステムで見えてきたもの

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モニタリングシステムの改善点や活用方法について話し合う伊藤さんとペルーの政府職員の人々。

ペルーはブラジルに次ぐ第2位の面積があるアマゾン熱帯林や、南米太平洋岸で最大規模の乾燥林など広大な森林を有している。しかし同国では違法な伐採が年々増えており、CO2排出量の約4割が森林伐採を含む土地利用の変化によるものともいわれ、森林保全によるCO2排出削減は重要な意味を持つ。JICAは2016年からALOS-2をはじめとする最新の人工衛星画像を使った森林マップや森林モニタリングシステムを整備し、違法森林伐採の取り締まり体制や関係者の能力強化を目的にした技術協力を行ってきた。

「プロジェクトではJJ-FASTを既存のモニタリングシステムに組み込むほか、性質の異なるさまざまな衛星画像を活用して、認識が難しいとされてきた落葉する乾燥林や地面が水に浸かっている浸水林のマッピングやモニタリング方法も開発しています」と、国際航業の小出隆広さんは説明する。プロジェクトの総括を務める日本工営の吉野倫典さんは「プロジェクト活動を通じて、世界的に注目度が高いアマゾン熱帯林と比べてあまり注意が払われてこなかった乾燥林や浸水林の重要性が認識されるようになりました。これも大きな成果だと思います」と語った。

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ペルーで使われている、JJ-FASTが組み込まれた森林モニタリングシステムの実際の画面。

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プロジェクトが新たに開発したモニタリングシステム。森林に変化のあった箇所は赤い線で囲まれている。アマゾン熱帯林の森林減少の様子がより明確に見える。

国際航業 海外コンサルティング部 小出隆広(こいで・たかひろ)さん
リモート・センシング技術センター 研究開発部 伊藤拓弥(いとう・たくや)さん
日本工営 コンサルティング事業統括本部 吉野倫典(よしの・みちのり)さん

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写真左から、小出隆広さん、伊藤拓弥さん、吉野倫典さん

JICAから委託を受けて事業に参加。「デジタル技術の発展でさまざまなデータが取れるようになりました。これらをどう集約し効果的に活用していくかは、ペルーだけでなく日本の課題でもあり経験は貴重だと思います」と伊藤さん。

データを有効活用できる体制づくりを

今後の課題について吉野さんは、「技術の発展により森林伐採の状況を把握する能力は確実に向上していますが、検知された情報を森林保全の現場にどうつなげていくかはまだまだ試行錯誤の段階です。マップやモニタリングデータが現場で有効活用され、森林減少の抑制に結びつかなければ保全を達成したとは言えません」と指摘する。そんななかで、北部海岸乾燥林を有するランバイエケ州では森林保全に関係する複数の組織の調整機関として地方円卓会議を立ち上げた。2020年の3月からは円卓会議と森林所有者である地元コミュニティの連携を強化するための試験的な取り組みが始まった。コミュニティ内で森林の監視、警戒グループをつくり、プロジェクトで作成したマップも活用して森林管理計画の作成なども進めていく予定だ。

現在、新型コロナウイルスの影響で住民の所得が下がり、農地への転換や薪利用などのため、森林の違法伐採のリスクが高まっているという。現地の関係者は、モニタリングから一歩進んで現場での監視、そして警戒に踏み込む今回の新しい取り組みに期待を寄せているそうだ。「森林モニタリングの結果が現場の関係者と住民にきちんと伝わり、啓発や現場での監視、警戒活動と保全に結びつくような“生きた体制”を築くことが今後の目標です」と吉野さんは語る。

システム活用の現場

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データをもとに、今後の監視体制や資源活用の計画を話し合う現地の関係者。

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システムが検出した違法伐採の現場を訪れ、被害状況などを詳しく調査していく。

JJ-FAST(JICA-JAXA熱帯林早期警戒システム)とは

【画像】JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号(ALOS-2)」を使って熱帯林の伐採・変化の状況をモニタリングし、インターネット経由でパソコンやスマートフォンから無償で簡単にアクセスできる形で提供しているサービス。1.5か月おきに、現在77か国の熱帯林を観測することができる。

ペルー

【画像】国名:ペルー共和国
通貨:ソル
人口:約3,199万人(2018年、世界銀行)
公用語:スペイン語(他にケチュア語、アイマラ語等)

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首都:リマ

世界で第4位の熱帯林面積を有し、国土面積の約53%を森林が占める。中南米の中で最も安定した国の一つだが、一方で貧富の格差が大きく、国民の3割以上が貧困層に属している。特に、山岳地域やアマゾン地域における貧困層の割合が高いとされている。