ドローンによる測量がごみ処理の意識を改革 大洋州地域

デジタル技術

廃棄物処分場の測量は複雑で危険を伴う。無人航空機ドローンを使うことで、コストや時間の削減だけでなく、さまざまな解析が可能になった。

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パラオの処分場でドローンの撮影を見守る現地の関係者。

安価で正確なデータ収集

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大洋州地域(J-PRISMII対象国)
サモア、ソロモン諸島、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦

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ドローンの操作や撮影のルートについて説明しながら測量作業を行う。

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上空から数百枚の画像を撮影!

国土が狭く、なおかつ海に散らばって存在するのが島嶼国(とうしょこく)だ。地理的な特徴に加え、伝統的な土地所有制度などが残り、政府が使える国有地が少ないという社会的な事情を抱える国もある。都市化と近代化が進んでごみの種類が多様化し、量も年々増えていくなかで、大洋州地域の島嶼国は廃棄物処理につねに頭を悩ませてきた。JICAはマーシャル諸島やパラオ、ミクロネシア連邦など9か国を対象に廃棄物管理の改善のための技術協力を行っている。

対象国の一つ、マーシャル諸島は1000を超える島からなる。首都のあるマジュロ島内には約3万人が暮らしているが、ごみ処分場は1か所のみだ。さらに、日本の場合はごみを焼却して灰にし、敷地内で埋め立てや重機による転圧作業を行っているが、マジュロの場合は敷地内に積み上げるだけだ。

新しい処分場を造るのが難しいなかで、現在の処分場はあと何年使えるのか、そして既存の処分場をどう改善するのか。現地の政府が意思決定をするためにはまず現状を正しく把握するデータが必要だ。そこで、JICAから委託された国際航業は同国では初の試みとして、ドローンを使った測量とそのデータの効率的な活用を促進している。測量やデータ解析を担当する同社の赤見亜衣さんは、次のように語る。「人が測量機器を使って行う従来の測量は時間と労力がかかり、経費もかさみます。また、大量に積まれたごみ山のあいだを縫って測量することは安全と衛生の面で危険が伴ないます」。

ドローンを使った測量ならば、ごみ山を踏査する必要はない。上空から撮影した数百枚にのぼる画像を取り込んで処分場の3Dモデルを作成することで、さまざまな角度から現在の処分場のごみの高さや量を把握できる。撮影からおよそ1週間以内という短期間で解析を終えられるので、日々変化する処分場の複雑な地形を測量するにも適しており、視覚的にも非常にわかりやすい。またプロジェクトで使用されているドローンは機体だけで1.4キログラム、付属品を含めても数キロ程度に収まる小型で軽いものを採用しており、手軽に持ち運びできる。価格も20万円程度と比較的安価だ。

残余年数の見える化が社会にもたらすもの

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撮影画像を解析し終えたら、現地の関係者に実際に3Dモデルを動かしながら説明する場を設けている。

3Dモデルを使って処分場の容積を割り出し、あと何年使えるかという残余年数を算出すると、マジュロの処分場の場合ごみを30メートルまで積み上げたとしても、残余年数はおよそ3年だという。

「具体的な数字が出てくることで、新規処分場の建設や既存の処分場の敷地の拡張を早急に進める必要があることがよくわかります。ごみが積み上がる視覚的なインパクトで危機感を伝えるだけで終わらず、どんな対策をしていくかという議論のたたき台となるデータを提供することが、現地の人々が具体的な行動を起こすために必要なのです」と、プロジェクトの副総括を務める大石美佐さんはデータ解析の重要性を説明する。

プロジェクトでは、半年から1年に1回程度の頻度で測量と処分場の3Dマッピングを実施し、前回のモデルとの比較により増加量をモニタリングしていく。データを提供するにとどまらず、その利活用について現地の関係者との会議の場を設けてきた。プロジェクト総括の河野一郎さんは、「マーシャルでは、関係機関とともに廃棄物管理計画を策定しました。この計画では、測量データや残余年数の推計をもとに既存処分場の拡張という短・中期的対策なども示されています。具体的な改善案を示せば、現地政府自ら動き出します。現在、公共事業省の主導で既存処分場の拡張工事が開始されました。こうした解決策の実践を通して、現地政府の能力強化や将来的な自立につながっていくでしょう」と、今後の展望を語った。

ドローンで測量したマジュロ処分場の様子

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【等高線図(コンター図)】処分場全体に等高線を引いた画像。ごみ山の頂上は17メートルで、マジュロで最も“標高”が高い。

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【処理場全体の3Dモデル】撮影した画像をもとに制作した処分場の3Dモデル。

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【3Dモデル回転後】360度回せる3Dモデルで、さまざまな角度から処分場の複雑な地形をとらえることができる。

国際航業 河野一郎(こうの・いちろう)さん、大石美佐(おおいし・みさ)さん、赤見亜衣(あかみ・あい)さん

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河野一郎さん(写真右から9人目)、大石美佐さん(写真右から7人目)、赤見亜衣さん(写真左から4人目)

「モニタリングだけでなく、残余年数の推定の精度を上げるため検証も定期的に行っていきます」と赤見さん。写真はJICA拠点の職員を含む、パラオと日本のプロジェクト関係者。