日系社会と深まる交流 CASE1

高齢者ケアの最前線で活躍 パラグアイ/ブラジル

日本国内の現場でも生き生きと働く日系人たち。
日本と中南米地域の課題を解決する活躍がこれからも期待されている。

文:久保田 真理

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槇さんが働く職場で同僚と一緒に。

非常時でも迅速な対応で高齢者をサポート

パラグアイ 槇みつるさん

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槇みつるさん。看護師時代の経験も生かしながら介護の仕事に奮闘中!

パラグアイで准看護師の資格を取得した私には、両親の祖国である日本への憧れと、先進国の医療を学んでパラグアイで役立てたいという両国への思いがありました。そこで1988年4月から2年間、JICAを通じて神奈川県の病院で実務研修に参加。帰国して1年間はパラグアイにある出身地の病院に勤務した後、再来日して姉が暮らす静岡県に行き、製造業や美容関係の仕事に就きました。退職後、日本の看護師資格がなくても自身の経験や知識を生かせる仕事への転職を考えて、失業給付を受けながら高齢化社会に役立つヘルパー1級を取得し、介護老人保健施設で介護の仕事に従事。その後、介護福祉士と介護支援専門員の資格も取得しました。

2007年からは東京都内の居宅介護支援事業所に勤務し、自宅で介護が必要な方のプランを作成する仕事をしています。30人以上の方を担当し、月に1度は訪問して支援の様子を記録する必要があり、いそがしい毎日を送っています。看護の知識や経験は、利用者の症状を適切に把握してアドバイスをするうえで役立っていますね。コロナ禍になり、消毒やマスク着用を徹底したうえで利用者の通所サービスを減らして訪問に切り替えることで、利用者の不安や感染リスクを減らしました。このスピーディな対応はたいへん勉強になりました。

日々の仕事が落ち着き、心に余裕をもてたら将来のことも考えていきたいと思っています。

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【現在の職場】東京都内の居宅介護支援事業所に勤務する槇さん。電話対応や利用者の自宅訪問などいそがしい毎日を送る。

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JICA研修時の仲間と毎年顔を合わせ、2019年は90歳になった当時の先生を囲んだ。

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看護師として病院での実務研修を受けるために来日した際に、同時期にJICA研修を受けた仲間と。

地域活動を通じて日系社会と日本の懸け橋に

ブラジル 堤エリカさん

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堤エリカさん。住み慣れた地域で健康的に暮らすことが高齢社会には重要です!

日本で仕事をしていた母の入院をきっかけに1990年に来日しました。茨城県内の病院に勤務しながら看護学校に通って准看護師になり、その後大学に入学して看護師と保健師の資格を取得しました。しかし、年齢制限から行政の保健師にはなれず、総合病院で訪問診療看護師をして経験を重ねましたが、夢を捨てきれずに退職しました。栃木県の専門学校で講師の職に就き、在宅看護などについて9年間教えました。その後、地域密着型の介護施設での勤務を経て、年齢制限のない条件の関連施設に異動し、2019年12月から栃木県の地域包括支援センターで保健師として働いています。介護、福祉、健康、医療面などから高齢者の自立した生活を支援する仕事で、私は健康管理や介護のアドバイスをしています。

新型コロナウイルス感染症の影響で公共施設での交流を兼ねた介護予防体操ができなくなり、自宅でも取り組むように呼びかけたり、感染対策の指導をしたりしました。自粛生活を経て高齢者の認知機能や運動機能が低下するケースが見られて家族からの相談が相次ぐなか、他者との交流の大切さを再確認。現在は高齢者の体調を把握しながら再開し始めた体操の場で体力測定や健康相談を実施しています。高齢社会を迎えたメキシコやブラジルでも日本と同様の問題が起きているため、私はJICAが開催予定のウェビナー(注)を通じて日本で得た知見を伝え、高齢者が住みやすい日系社会づくりのお手伝いができたらと思っています。

私自身はいろいろな方の支えがあり、保健師の夢をかなえることができました。私が働く地域には日系人約3,000人が暮らし、医療通訳や学生の進学相談を引き受けることがあります。言葉の壁に悩む在日日系人のサポートもしていきたいです。

(注)ウェブとセミナーを組み合わせた造語で、オンラインセミナーのこと。2021年2月にメキシコで高齢者ケアに関するウェビナーの開催を予定している。

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【現在の職場】高齢者の自立支援のため、栃木県那須塩原市が主催する体操教室。

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【現在の職場】担当地域の高齢者の健康状態や生活の様子を把握するため、堤さんは個別訪問を行っている。

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堤さんは来日後に病院に勤務しながら、准看護師になる勉強をしていた。

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保健師の資格を取得するにあたり、大学の授業で高齢者と外出をする実習に参加した。

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研修をともにした看護師教員の仲間と、教員になって1周年を記念して集まった。

コラム 日系社会研修(多文化共生推進/NIKKEI協力型)

「日系社会研修」の目的は、日系社会のさらなる発展と移住先の国づくりに貢献すること。研修では、中南米の日系社会と日本の連携に主導的な役割を果たす人が「日本語教師」や「高齢者介護」など専門分野を学ぶ。2020年より「日系社会研修(多文化共生推進/NIKKEI協力型)」として、在日日系社会の課題解決にも貢献する新たなタイプの研修が始まろうとしている。

現在約24万人の日系人が日本で暮らし、日本経済を支えているが、日本語の理解が十分でないことから子どもの就学、病院などの公共サービス、高齢化への対応などさまざまな困難に直面している。そこで、研修員として学びながらこれらの課題解決にも関わり、中南米日系社会と日本国内の日系社会をつなぐ懸け橋としての新たな役割を担うことが期待されている。

JICAペルー事務所 小谷知之(おだに・ともゆき)さん

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小谷知之さん

日系社会研修は、日本への帰属意識を高める重要な機会としても研修員から評価されています。そして、新たな研修において在日日系人の課題解決に関わることで、その人と周囲の人たちのさらなる喜びにつながることを期待しています。