日系社会と深まる交流 CASE2

日系病院の連携で社会全体の医療の質を上げる ブラジル

ブラジルで始まった日系病院連携協議会。この新たな話し合いの場が、医療サービスの向上を目指す日系病院同士のつながりだけでなく、医療を通じた日本と日系社会との新たな関係をも築いている。

文:坪根育美

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協議会から生まれた「栄養士プロジェクト」で、病院食のレシピ開発を行う日系病院の栄養士たち。

深まる日系病院間の交流

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日系病院間の話し合いでは、さまざまな意見交換が行われる。

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第2回の協議会では、参加日系病院内の視察も実施した。

日系人が設立し運営を行う日系病院は、ペルーやアルゼンチン、ボリビアなど中南米の国に点在している。なかでもブラジルは、国内の日系病院間の連携を強めることでさらなる医療サービスの向上を目指している。その動きの中心となる話し合いの場が日系病院連携協議会だ。「以前JICAの取り組みとして、ブラジルの日系6病院の代表を日本に招いて、日本の医療技術、サービスを見てもらったことがありました。それがきっかけでこれまであまり交流がなかった日系病院同士がつながり、集まって話せる場がもっとほしいという声が日系病院側から上がったのです」と、JICAブラジル事務所長の佐藤洋史さんはふり返る。2018年5月、JICAからこの日系6病院に声をかける形で第1回日系病院連携協議会が開催された。

第2回以降は日系病院が主催となってこれまでに3回実施。プログラムは日系病院間での意見交換がメインの第1部と、医療関連の日本企業や日系企業を交えて提案などを行う第2部で構成されている。日系病院の理事長・理事のほか、サンパウロ日本国総領事館、日本の医療機器メーカー、日本の大学関係者も参加し、第3回の協議会では80名にも上る参加者数となった。協議会にはふたつの大きな目的がある。ひとつ目は日系病院間の協力関係を深めること。ふたつ目はすぐれた製品や技術、知識を日系病院に取り入れるために日本の企業、大学、病院との関係をつくることだ。そのための試みとして、第3回の協議会では日本の医療機器メーカーと医師・看護師がチームを組んで製品のプレゼンテーションを行った。日頃から製品を使用している医師や看護師からの話が聞けるため、使用イメージが湧きやすいと好評だ。これは参加病院のサンタクルス病院でもともと行われていた「ショールーム」というプロジェクトを協議会のプログラムに取り入れたものだという。

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日本の医療機器を紹介する展示会も開かれた。

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第3回の協議会で行われた「ショールーム」の様子。

JICAブラジル事務所長 佐藤洋史(さとう・ひろし)さん

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佐藤洋史さん

「日系6病院が集まる日系病院連携協議会は、市場開拓の場として多くの日本企業が興味を持ってくれています。医療を通じた日本とブラジルの協力関係はこれからも続きます」

社会全体の健康増進を目指して

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サンタクルス病院で提供している和食を取り入れた病院食。

協議会の話し合いのなかから新たに生まれたプロジェクトもある。そのひとつが「栄養士プロジェクト」だ。第1回の協議会でサンタクルス病院が「日本が誇る健康食としての和食をブラジルに普及させることを目指して病院食に和食を取り入れよう」と提案したことから始まった。「サンタクルス病院では以前から和食の病院食を提供しています。質をいまより高めてブラジルだけでなく中南米地域に和食のすばらしさを広めることができれば、社会全体として健康の増進に貢献できると思っています」と、同病院理事長のレナット・イシカワさんは話す。その後、JICAの協力のもとに九州大学で日本の病院食について学ぶ研修が行われ、日系6病院を中心とする7名の栄養士が参加した。現在この栄養士たちと九州大学によって和食の病院食のレシピ開発が行われている。レシピ本が完成した際は、日系病院に限らずブラジル国内のすべての病院と情報を共有することも考えているという。

協議会は今後も定期的に開催し、コロナ禍下における各日系病院の情報交換にも役立てていく。「これからは次世代の日系人医師たちにも呼びかけていくつもりです。彼らの多くは日本語を話さず、日本に滞在した経験もありませんが、ルーツが日本にあるのは確かです。協議会を次世代日系人医師のよりどころにする役目もあると感じています」と、イシカワさんは新たな役割について力強く語った。

サンタクルス病院 理事長 レナット・イシカワさん

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レナット・イシカワさん

「日系病院として日本というルーツを大事にしています。ほかの日系病院とも連携して、和食の病院食をはじめとする日本的なサービスを取り入れ深めたいと考えています」