中南米と手を携えて CASE2

三つのステップで貧困から“卒業” ホンジュラス

5人にひとりが貧困層というホンジュラス。
政府からの給付金をきっかけに生計向上を図り、貧困から"卒業"するモデルが生まれ、いま全土に広がっている。

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家計簿のつけ方を学ぶ家計管理研修。

1日およそ1.9ドル(約214円)未満で暮らす人が人口の約16%を占める(注1)ホンジュラス。最貧困層の貧困脱却を図るための生活保護にあたる条件付き給付金(CCT)はあるが、受給後も貧困から抜け出せない世帯もあった。「CCTを効果的に活用し、極度の貧困から抜け出す仕組みづくりに協力してほしい」という同国からの要請を受け、2015年からJICAの事業が始まった。対象は五つの市でCCTを受け取る約2000世帯。さまざまな国で貧困削減手法として使われてきた"卒業"モデルのホンジュラス版の作成と普及に目標を定めた。

(注1)出典:世界銀行、2018年(金額は2011年の購買力平価に基づく)。

収入の不安定さを解消

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金融機関と連携して貯蓄奨励活動を実施。

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貯蓄を習慣化するために貯蓄額の目標を決めてシートに書き込む。

JICAからプロジェクトを委託された「かいはつマネジメント・コンサルティング」社の塚本明広さんは、「同国の貧困世帯の特徴は不安定さです」と話す。「彼らはまったく仕事がないわけではありませんが、安定した職がない人が多く、月々の収入に差があります。農家も収穫期とそうでない時期で収入が異なります。それなのに、CCTを受け取ったとたんに衝動買いをしてしまったり、食品を買い過ぎてロスを出していたり…。お金を計画的に使っていない人が結構多いんです」。

そうした状況を受け、プロジェクトでは三つのステップで貧困からの"卒業"を目指した。第1のステップは家計管理だ。受給者の大半が家計を預かる女性であることから、まずなににいくら使っているのかが一目でわかるよう家計簿をつけて家計管理を学ぶ研修を開催した。中には、コーラやお菓子に多くのお金を使っていることに気づき驚く人もいたという。

第2のステップは貯蓄。家計管理ができれば、貧困世帯でも貯蓄が可能になる。「貯蓄を習慣づけて先々の出費に備えることで、不安定な収入でもある程度は生活していけることを理解してもらいました」。同時に地域の金融機関に協力を仰ぎ、金融教育や金融機関がない地域への出張口座開設を実施。また口座開設に必要な預け入れ金の引き下げを促し、貯蓄しやすい環境づくりを行った。

かいはつマネジメント・コンサルティング 中小零細企業開発部 部長 塚本明広(つかもと・あきひろ)さん

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塚本明広さん

「プロジェクトの初期には私たちが研修を担当することもありましたが、すぐに各市役所の職員らが中心となって各事業が行われるようになりました」

"卒業"モデルが完成

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開業支援の研修には、大勢の女性が集まった。

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プロジェクトを通して起業しパン店を始めた。

最後のステップは、貯蓄を活用した小規模ビジネスの立ち上げだ。挑む事業はパン店や理容業、住宅用洗剤の宅配などさまざま。「自分でためたお金なので真剣さが違います。たとえ失敗しても、貯蓄の習慣ができているので次の挑戦も可能です」と塚本さん。女性が事業に取り組むことで世帯収入が増え、社会とのつながりや自立を促す効果も生まれている。

あわせて、金融機関には低所得層向けの小規模融資商品の開発を依頼した。全国85の信用組合を統括するホンジュラス信用組合連合会(FACACH)の財務部長のフレディ・モラデルさんは、信用組合が持つ相互扶助の精神から協力したと話す。「プロジェクトで開発した小規模融資と起業家融資は私たちにとっても重要な事業となりました。金融機関として起業家の教育や訓練にも関わり、貧困から抜け出す人を増やしていきます」。これまでに1万3000件以上の貧困層に向けた融資が実現している。

この"卒業"モデルは、現地でACTIVO(アクティーボ)(注2)という愛称で呼ばれている。ホンジュラス政府はACTIVOの効果を認め、2019年から全国に広げている。担当省庁である社会統合副省の副大臣補佐官ミルタ・マラディアガさんは「わずかな収入でもきちんと管理すれば、小規模なビジネスでそれを増やせることがわかりました。貧困世帯のケアを行うソーシャルワーカーや金融機関、NGOなどとの連携を強めて、ふたたび受給者が貧困状態に戻らないように協力していきます。今は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって事業が滞りがちですが、しっかりと進めていきます」と力強く語った。

(注2)「Ahorro, Cuenta financiera,Trabajo e Ingreso para la Vida Optimizada(よりよい生活のための貯蓄、口座、労働、収入)」の略語(スペイン語)。アクティブに資産を形成しようという意味を込めている。

ホンジュラス信用組合連合会 財務部長 フレディ・モラデルさん

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フレディ・モラデルさん

「プロジェクトに取り組み1年が過ぎました。特に金融教育をサポートしたいと思い、金融教育や起業家育成の専門家を新たに雇い入れました」

社会統合副省 副大臣補佐官 ミルタ・マラディアガさん

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ミルタ・マラディアガさん

「2021年にはさらにモデル世帯を増やしていきます。そのためにも、ホンジュラス国内の多くの機関と協力してプロジェクトを進めていきます」

ホンジュラスに広がるACTIVOモデル 88市で普及

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  1. STEP 1 家計管理導入
  2. STEP 2 金融機関への貯蓄の実践
  3. STEP 3 小規模ビジネスによる生計向上
  4. 卒業!