難民との共存を地域の力に ウガンダ

他国では例をみないほど、難民に寛容な受け入れ政策をとっているウガンダ。
しかし、ウガンダ全土で約140万人の難民が長期に滞在して地元の資源が逼迫(ひっぱく)することが、コミュニティの脅威となっている。
JICAはウガンダ政府とともに、難民と受け入れコミュニティ双方が自らの力で安心して共生できる社会を実現し、脅威の連鎖を防ぐ。

文:久保田 真理

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【ウガンダが抱える課題】地域コミュニティからの不満:居住区周辺の保健所や学校を利用する難民に対して、生活に影響が出るようになったウガンダ人の不満が強まった。難民の暮らしの安定のためにも、ウガンダ人へのサポートも必要になっている。

難民と地域住民との軋轢(あつれき)が発生

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首都:カンパラ

"難民に寛容な国"といわれているウガンダでは、難民に国内移動の自由や就業の権利を認めている。その背景には、国内の紛争で難民になった多くのウガンダ人を近隣国が受け入れた歴史がある。またウガンダ北部と近隣国には民族的な親和性があるため、助け合う意識を持っているという。

しかし、紛争という脅威が及ぼす影響は大きい。国内北西部の西ナイル地域には、以前からウガンダ近隣国のコンゴ民主共和国や南スーダンからの難民が流入していたが、2016年にはその数が70万人を超えた。急激な流入により難民居住地での生活環境の整備が追いつかず、難民はウガンダ人が暮らす地域の学校や保健施設、給水施設などの公共サービスを利用するようになった。その結果、今度はウガンダ人が十分な公共サービスを受けられないという事態に。一部のウガンダ人と難民との間に軋轢が生じるだけでなく、「難民ばかりが支援を受けている」とウガンダ人が地域行政にも不満を募らせた。脅威に晒(さら)されている難民自身が、現地コミュニティや地方政府にとっての脅威ととらえられるという、負の連鎖が起きかねない状態だった。

JICA国際協力専門員の小向(こむかい) 絵理さんは、2009年に開始したウガンダ北部における200万人の国内避難民(注1)の帰還支援の経験から、負の連鎖を招かないようにするには、難民を対象とする人道支援と連動した受け入れ地域に対する協力を行う必要があると話す。「難民の滞在が長期化する状況においては、難民が自立して生活できるような協力に加えて、難民を受け入れる側のコミュニティにも同様の協力を行ったり、地方政府の公共サービスの提供能力を高めたりする必要があります。また、難民がウガンダから追い出される状況にならないように、地方政府と一緒になって中央政府を巻き込むことが重要です」。

(注1)20年以上紛争状態に置かれていたウガンダ北部では、社会インフラへの投資が停止して開発が遅れたため、約200万人がウガンダ国内で避難生活を送ることになった。

ウガンダが抱える課題

地域開発の遅れ

難民を多く抱える西ナイル地域は、他の地域に比べて開発が遅れている。道路、橋、井戸の整備など取り組むべき課題が多数あり、難民と地域の生活維持と強化のため、行政の能力を向上させる協力が必要だ。

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道路が未舗装で交通が不便!

受け入れ地域での包括的なアプローチ

難民を受け入れる地域社会全体の対処能力を高めるためには、地域社会が直面している問題を把握することが必要だ。ウガンダでは当初、難民受け入れ地とウガンダの行政区が併記されている地図さえなく、この地域の社会インフラなどの現状もわからなかった。そこで、JICAはまず人口など基礎的な情報を収集した後、教育、保健、水、道路や橋などの状態を確認する調査も実施して統合データを作成。この統合データに基づいて、中央政府や他の国際協力機関も客観的な観点から事業の優先順位をつけられるようになった。地方行政官に対しても、各村の人口や井戸の数などのデータに基づいて事業の優先度を測る研修を行っている。事業の優先度やその理由が明確化されることは、国や地方政府が住民からの信頼を回復することにもつながる。また、JICAと地方政府による米作りの研修にも、難民が地域住民とともに参加し、自らの手で生活の改善に取り組んだ。

一方、難民受け入れによって地域の自然資源消費が急増するという問題もある。たとえば、難民が調理時の燃料や灯として使う薪や炭は、市場で買うこともあるが近くの森林から伐採することもあった。そこで、前述のさまざまなインフラや社会経済データを生かしつつ、人工衛星による森林や土地利用のデータ、解析ソフトなどのICT(情報通信技術)を活用した調査(注2)を2019年から開始した。地域の代替エネルギーの導入や燃料の効率化、それらを手にできる生計の向上までを視野に入れ、地域全体で難民も考慮に入れた自然資源管理と人々の生活を両立させることが期待される。

さまざまな脅威に対応するには、国レベルの取り組みや他の機関との連携が必須だ。ウガンダ北部での教訓をふまえ、地方政府の開発計画策定の際には難民についても配慮することや、開発計画を科学的根拠に基づいて策定するアプローチが、国の定めるガイドラインに反映されることとなった。また人道支援機関との連携に加え、国際機関の資金によってJICAの協力をほかの地域に展開していくなど事業の拡大も推進されている。

帰還できるような体制が難民の母国で整わないなかで難民を追い返したり、別の地域に移動させたりすることは、ウガンダとその周辺地域全体を不安定にする。難民を受け入れる側の住民、地域、そして行政の能力強化によって、難民も地域活性化の力となって、地域住民と共存できる環境を整えること-「人間の安全保障」の視点の重要さがここにある。

(注2)西ナイル地域の持続的森林・自然資源管理に係る情報収集・確認調査。

課題解決のための活動

地方行政能力を向上させる

難民と地域住民の関係をよい状態に保つためにも、地域の課題を客観的に評価して優先度の高い事業から取り組むことが重要。効果的な開発計画を策定する方法を地方行政官が習得した。

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開発計画策定のための方法を学びました!

地域を強くすることで社会を強くする

地域住民が結束して生活を向上させ、社会を強くすることで、難民の生活の保障にもつながっていく。地方行政官が地域をたびたび訪問して、住民との良好な関係を築いている。

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地域住民と難民が取り組む農業に牛耕を導入し、生産性と収入を高める。

データを活用して納得のいく事業を実施

難民居住区と受け入れコミュニティにおける必要情報を集約・解析した結果に基づいて優先して行う事業を決定。その内容を地域に伝えることで行政に対する地域からの信頼を確保して、難民の安定した暮らしにつなげることを目指す。

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必要な情報を手書きで記入した地図。

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人口、保健所などの情報を集約した地図。

ウガンダ

【画像】国名:ウガンダ共和国
通貨:ウガンダ・シリング
人口:4,272万人(2018年、世界銀行)
公用語:英語、スワヒリ語、
ルガンダ語