栄養改善にマルチセクターで取り組む モザンビーク

現在、世界では年間530万人の乳幼児が命を落とすがそのうち約半数は何らかの栄養不良が原因といわれている。
一方で、途上国を含む世界各国で子どもの肥満の問題も増加している。
いずれも子どもの命や成長に大きな影響を与えるものでこのような栄養にまつわる問題を解決することを共通の目標として複数の分野で協力するプログラムがモザンビークで始まっている。

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【3分野にわたって栄養状態を調査】身長と体重、貧血の有無を調査。貧血の有無はその場で判定し、保健師が結果を母親に説明。食生活についてもアドバイスする。

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首都:マプト

過不足なく十分な栄養をとることは、健康に生きるための基本だ。特に、胎児期から2歳までの1000日間に十分な栄養が摂取できなければ、発育阻害(身長が年齢相応の標準値に満たないこと)で身体的・知的発達に遅れを引き起こしてしまう。すると学校に通っても十分な学力が身につかず、その結果将来得られる収入にも影響を及ぼすといわれている。

アフリカ大陸の東側に位置し、インド洋に面するモザンビーク。三つの国際港があり、国内で石炭や天然ガスなどの資源が見つかっている。近年は経済成長が著しいものの、国内の経済格差は深刻だ。首都マプトの貧困率は3.8パーセントだが、北部最大面積のニアッサ州は66.7パーセント(注)。同国内でいちばん貧困率が高い。その貧困からもたらされているのが子どもの栄養不足であり、低栄養のまま育った子どもは将来も貧困から抜け出せないという負の連鎖が起きている。

(注)貧困率は州別貧困率(2014/15)IMFより。

課題は母子の栄養改善

2020年までJICAモザンビーク事務所の次長を務めた青木英剛(ひでたけ)さんは、モザンビークの現状を次のように話す。「同国の平均寿命は約60歳。長生きできないというよりも、乳幼児死亡率の高さが平均寿命を下げていて、その一因が低栄養です。また5歳未満の子どもに占める発育阻害の割合がほかのアフリカ諸国よりも高く、栄養改善、とくに妊娠中の母親と乳幼児に向けた取り組みが急がれます」。

では、十分な栄養をとるためになにが必要なのだろうか。「栄養のあるものを食べればいいのですが、それが簡単ではありません。現地のほとんどの農家が主食となるメイズ(トウモロコシの一種)を栽培しています。腹持ちはしますが、副菜がほぼないのでビタミンや脂質、タンパク質が不足しています」。解決策の一つとして、"売れる"栄養価の高い野菜の栽培が広まり、栄養改善と生計向上の二兎を追うことができれば理想的だが、実は意識と行動が変わらなければ栄養改善につながらない。「自分たちで食べるよりも、売ってお金にすることを優先してしまうこともあります」と青木さんは話す。栄養状態の向上にはバランスのよい栄養摂取が必要であることを伝え、とくに妊娠中の母親や乳幼児を持つ親に栄養指導を行う母子栄養分野の取り組みが重要だ。

また食べたものが栄養として吸収されるためには、下痢や腸チフスなどの水因性疾患の予防が必要で、村落部への安全で安定した給水施設の設置、手洗いの奨励といった水・衛生分野の協力が欠かせない。つまり、栄養改善には、農業や保健、水・衛生などさまざまな側面から問題を洗い出し、解決することが必要なのだ。

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プログラムの目標:栄養改善

農業:栄養価の高い野菜の栽培奨励など

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【栄養価の高い作物の栽培を奨励】栽培方法などとともに、栽培する作物の栄養価も説明できれば、栄養改善につながる。

水・衛生:安全な水の安定供給。手洗いの奨励など

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目標達成のためには、保健所の敷地内にある水くみ場の環境整備も重要だ。

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【安全な水環境を整備】コミュニティの水くみ場にハンドポンプが設置され、安全な水をいつでもくむことができるようになった。

保健:栄養知識の普及。栄養指導(とくに妊婦、乳幼児を持つ親)など

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【保健所で子どもの成長を確認】健康診断を受けに来た母子。子どもの発達・成長、栄養状態を看護師と確認して結果を「子どもカード」に記入する。

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身長測定中!

具体的な目標を共有して

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調査ではスマートフォンのアプリを活用し、研修を受けた地元の看護学生が聞き取った回答をアプリに入力した。

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村落を回って行う栄養状態の調査はチームで行われた。

「国内でもっとも貧困率が高く、栄養改善の優先地域であるニアッサ州で農業、水、保健の3分野において"栄養改善"という共通の目標を掲げ、より効果的な協力を分野横断的に行おうと動き出しています」と青木さんは話す。まず、同州の人々の栄養状態の現状を把握するために、2019年から2020年にかけて同州15郡のうちの2郡で世帯調査を行った。対象は約1600人の5歳未満児で、国立保健研究所、保健省による倫理審査を経て実施。その内容は、身体測定・血液検査と聴き取り調査で、調査項目は水、農業、保健の三つの分野にわたった。

「世帯調査により、ニアッサ州において発育阻害を抑えていくには、母乳による栄養を補うための"補完食の適時の開始"が鍵となるであろうという結果が得られました。今後、各分野のプロジェクトは目標を共有しながらそれぞれに活動します。調査を行った二つの郡の栄養状況に、3分野の協調的な取り組みがどのような変化をもたらすのか、楽しみでなりません」と青木さんは展望を話す。

今後、国際協力ではこのような分野を横断する取り組みが増えていくだろうと青木さん。「一人ひとりの生活やニーズに注目することで、一つの分野の視点だけでは見えなかった多様な課題が、相互に関係していることが見えてきます。人が尊厳を持って生きていくためには、衣食住や教育、医療の充実、そして楽しみなど、さまざまなことが必要です。一人ひとりをしっかりと見ることで、その人たちの尊厳を守るために本当に必要とされる協力ができるのではないかと思います」。

モザンビーク

【画像】国名:モザンビーク共和国
通貨:メティカル
人口:2,949万人(2018年、世界銀行)
公用語:ポルトガル語