児童労働撤廃に向けて力を結集 ガーナ

日本が輸入するカカオ豆の約7割を生産しているガーナ。
その現場では生産者の貧困や児童労働といった課題が指摘されており、「人間の安全保障」が脅かされている。
この問題を解決するためには、生産地の人々が抱えるさまざまな課題を解決していくことに加え、流通を担う組織、チョコレートを製造・販売する民間企業、そして消費者まで、バリューチェーン(注1)に関わる一人ひとりの意識と行動の変革が必要だ。

(注1)農産物の生産から加工、流通・販売、そして市場における消費に至るまでのつながり(チェーン)のそれぞれの段階で付加価値を高め、より大きなメリットをもたらすことを目指すシステムや考え方のこと。

文:坪根育美

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【すべての人に人間らしい仕事を】2020年3月、ガーナでガイドラインの施行が宣言された。文書の扉には、2025年までの児童労働の撤廃を目標に掲げた「SDGsターゲット8.7の達成を目指して」と書かれている。

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首都:アクラ

世界には1.5億人の児童労働者が存在しているといわれる。これは子ども(5~17歳)10人に一人の割合だ(注2)。世界第2位のカカオ豆生産地であるガーナでも、189万人の児童労働者がいるとされている(注3)。

ガーナのカカオ豆の年間取引額は約2100億円に上るが、約80万人いるといわれる小規模カカオ農家の収入は一日に50円ほど。カカオ生産の現場では多くの労働力が必要だが、貧しい農家は大人を雇えないため、労働力を補うために子どもを働かせざるを得ない状況が生じている。

児童労働は子どもから教育の機会を奪うだけでなく、成長途上にある心身に悪影響を及ぼす可能性がある。また法や権利の観点からは、就労最低年齢に満たない子どもを働かせることは法律違反であり、人身取引など最悪の事態も発生しているという。これは子どもの尊厳と潜在的な能力を搾取する大きな脅威だ。

生産者から政府まで現地の取り組みに協力

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「チャイルドレイバー・フリー・ゾーン設立のための手順およびガイドライン文書」。

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カカオ。

カカオ豆の輸入の約7割をガーナに頼る日本にも果たすべき役割がある。カカオ農家における児童労働を撤廃するためには、カカオの品質向上とバリューチェーン全体の改善により、カカオが適正に取り引きされ、生産者が労働に見合った収入を得られるようにすることが重要だ。2020年2月、JICAは他の開発機関や民間金融機関と連携し、カカオを買い取り流通させるガーナココア協会に対して総額1億米ドル(日本円で約106億円)の融資を実施した。これにより、栽培の技術的改良やマーケティングという生産のシステムとともに、流通販売までの長いバリューチェーンを包括的に改善することをねらう。

また児童労働撤廃に向けた制度構築にも着手している。ガーナ政府は2018年に児童労働撤廃に向けた第二次国家計画を策定した。その活動の一環として「チャイルドレイバー・フリー・ゾーン(以下、CLFZ)設置のための手順およびガイドライン文書」を2020年3月9日に施行した。CLFZは「児童労働の問題が起きたとしても、総合的なアプローチで問題を解決するための仕組みが存在し、機能している地域」と定義され、ガイドラインではCLFZ認定のために必要な条件、審査方法や指標、関係機関の役割がまとめられている。ガイドラインは国際労働機関(ILO)や労働組合、現地NGOなどとも連携しつつ、日本のNGOのACEやデロイト トーマツ コンサルティングが全面的に協力し、ガーナ雇用労働省が作成した。

「このガイドラインはカカオ産業だけでなく、国内のあらゆる産業を対象にしています。一定の基準に則った活動をすることで、児童労働撤廃の動きが国全体に広がると期待しています」とACE事務局長の白木朋子さんは語る。今後ACEは開発コンサルティング企業のアイ・シー・ネットとともにJICAのパートナーとして、ガーナにおけるCLFZ制度の強化と普及を目指す事業を行っていく。

(注2)2017年、国際労働機関(ILO)。
(注3)2014年、ガーナ統計局。

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ガイドラインの施行を宣言するイグナチウス・バフォー・アウア雇用労働大臣。ACEやデロイト トーマツ コンサルティングなど日本からの協力に感謝を述べた。

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2020年6月、ILOとJICAは児童労働とビジネスに関するオンラインセミナーを共催した。「民間からも多くの参加者が集まり、世間の注目が高まっていることを感じました」と山下さん。

国際協力NGO ACE 白木朋子(しろき・ともこ)さん

CLFZガイドライン作成の中心的役割を果たした、ガーナ雇用労働省やILO、農業労働者組合、NGOなどの専門家委員会のメンバー。

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白木さんは写真前列左から2人目。

【画像】ACEの取り組みについて、詳しくはこちらから。

オールジャパンの協働

日本国内の連携も進む。ガーナをはじめとするアフリカや中南米、アジアの途上国のカカオ産業が抱える課題解決を目指す連携の場として、JICAは2020年1月に「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」を設立した。

「カカオ産業ではさまざまな問題が複雑に絡み合っています。多様な関係者が参加するこのプラットフォームでカカオを取り巻く現状と課題、すでに実施されている取り組みを共有しながら、持続可能なカカオ産業の実現に向けた関係者の協働を後押ししていきたいです」と、JICAガバナンス・平和構築部の山下契(ちぎる)さんは話す。このメンバーである森永製菓は特別期間に販売された対象商品1個につき1円を寄付する「1チョコ for 1スマイル」キャンペーンを実施。不二製油は「カカオ豆・カカオ製品のサプライチェーン上の児童労働を2030年までにゼロにする」という目標を2020年6月に発表するなど、各社も活動を活発化している。

子どもの尊厳を守る社会に向けて、生産現場から消費までそれぞれの段階に関わる関係者が協力して、多様な切り口から児童労働を撤廃する仕組みをつくる。官民を超えたパートナーとの協力による人間の安全保障実現のための試みになるだろう。

「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」設立

2020年1月にJICAが立ち上げたこのプラットフォームはカカオを取り巻く多くの課題を解決するために、企業やNGOなどあらゆる関係者が知見を共有して議論をしていくための協働の場だ。

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ガーナ

【画像】国名:ガーナ共和国
通貨:ガーナセディ
人口:約2,977万人(2018年、世界銀行)
公用語:英語、各民族語