JICA横浜が実施したブラジルへの教師海外研修。ブラジルには、違いを認める多様な文化の共生が当たり前の社会があった。研修で気づきを得て、参加教員たちが作成したワークショップ教材を紹介する。
Difference is Beautiful-違いが美しい。これはJICA横浜が2019年8月に実施したブラジルでの教師海外研修のなかで、視察先の高校のある生徒から発せられた言葉だ。
研修に参加し、この生徒から話を聞いた横浜市立三保(みほ)小学校教員の名原道子さんはふり返る。「視察したのは、保育園から高校までの私立一貫校でした。アジア系やヨーロッパ系などさまざまなルーツの生徒がいる学校だったので、たがいに"違い"を受け入れられなかったりすることはないの?と聞いたときにそう答えが返ってきたのです」。
JICA横浜では2004年から毎年、教師海外研修を実施している(2020年は新型コロナウイルスの影響で国内研修で代替)。教員らに途上国が置かれている現状やJICAが行う国際協力の現場などを見てもらうことで、それぞれの学校での国際理解教育や開発教育に生かしてもらおうというのが目的だ。
2019年にブラジルで行った研修のテーマは「多文化共生と移民」で、神奈川県と山梨県の小・中学校と高校の教員7人が参加した。近年は日本で暮らす外国人が増え、学校にもさまざまなルーツを持つ子どもが就学するようになっている。参加した教員らは、"移民の国"ともいわれるブラジルで、どのようにすれば多文化共生を実現できるかを学ぼうとしていた。
ただ、視察先の学校で「多文化共生について聞かせてください」と質問をしても、「多文化共生ということを、とりたてて意識はしていない」と返されることが多かった。違いがあること、多様な文化が共生していることが当たり前の社会になっていることを参加した教員は感じた。
海外研修の後には、国内事後研修として授業で使える教材作りのワークショップがある。参加者たちは日本の学校や地域に「違いがあって当たり前」「違いが美しい」と思えるような子どもや大人が増えるようにと、2種類のワークショップ教材を作った。その内容とねらいを名原さんはこう語る。
「『MYストーリー』と『自分オープン』というワークショップを参加者でつくりました。『MYストーリー』は1)人物の顔写真カード、2)人物の名前と国籍、どこで生まれ育ったかを書いたカード、3)人物の言語とその人がしているスポーツ、職業を書いたカード、4)その人物の人生ストーリーを書いたカードを用意して行います。まず1)2)3)のカードだけで正しい組み合わせを考えます。その後、4)の人生ストーリーを読み合い、その人物をじっくり知ってもらいます」
MYストーリーのねらいは「人を見た目や先入観などで判断しがちである」、そして「見た目だけでは、どんな背景や価値観を持っているかわからない」という2点に気づいてもらうことだ。名原さんは「大人になって社会に出れば、外国の人も含めて日々いろいろな人と出会います。そのときに見た目だけで決めつけず、その人の内面に関心を持てるようになってもらいたい」と話す。
「自分オープン」は、自分の好きなものや自分の夢、人生で大切にしていること、これまでで一番うれしかったことなどを自分カードに書き、グループのみんなにオープンに話していくというワークショップだ。グループ内で聞く側になるときは否定的なことを言わず、「いいね!」「わかる、共感!」「すごい!」などと言い合いながら、「いいね!」シールなどを相手のカードに貼っていく。
「今の世の中は表面的な会話だけで、自分のことをオープンに話す機会が減っています。このワークショップでは、自分のことを話し、相手に受け入れてもらって自己肯定感を高めることがねらいです。また、受容したり、共感しながら相手の話を聞く練習にもなります。自分のことをオープンに話し、相手の内面も知ることができ、子どもたちからは『楽しかった』という反応が返ってきます」
まずは自分を理解して肯定することから、相手を受け入れることが始まる。このワークショップ資料(参加型アクティビティ教材)はJICAのウェブサイト上で公開しており、自由に使うことができる。
外見で人を判断していた自分に気づき、他者や異文化にもっと興味、関心を持とう!
他者を受け入れる環境の大切さに気づき、自分もオープンにして自己肯定感を高めよう!
(注1)(注2)出典:「2019年度JICA横浜 教師海外研修参加者作成・参加型アクティビティ教材」より。この教材のPDFデータはこちらから!
人口:約376万人(2020年9月1日現在、横浜市統計)
横浜市の在留外国人は約10万人で、国籍別の人口数の上位は中国、韓国、ベトナム、フィリピン。かつて日本人が移民として海外へ渡った時代には、横浜港が出航の港となった。