日本のブランドとともに 世界品質のもの作りへ キルギス

キルギスの特産品を作って、国内外へ広げよう!
そんな思いで始まったJICAのプロジェクトから生まれた商品が、10年にわたって「無印良品」で販売され、多くのファンに愛されている。

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2020年11月に発売されたフェルト製の動物。ヒツジのほかにヤギ、ユキヒョウ、ヤク、ウサギなどキルギスに生息する動物がモチーフになっている。

毎年クリスマス商戦を控えた11月になると、シンプルな日用雑貨を国内外で展開している「無印良品」(一部店舗)に、キルギスで作られたフェルト製の動物やバッグ、ペンケースなどが並ぶ。定番となっているフェルト製のヒツジはふわふわで、愛くるしい顔がチャーミングだ。

商品として魅力のあるものを作る

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キルギスで作業工程や品質管理の確認をする久保田さん(写真右から2人目)。

これらの商品は、JICAがキルギス北部のイシククリ湖地域の村落で行っている「一村一品運動(注)」と無印良品を運営する良品計画との連携から生まれている。

両者の連携は、小売業の立場から途上国のもの作りに協力し、世界のよいものを日本に届けたいと考えた良品計画が、その対象となる国をJICAに相談したことから始まった。

プロジェクト開始当初、生産管理に携わっていた同社の久保田裕子さんは、「キルギスとは当初からビジネスとして取引することを考えていました。作業場所の衛生管理や安全性はもちろん、規定どおりのものを製作し、納期までにきちんと日本に届けていただくことが条件でした」と話す。

しかし当初は、良品計画が求める品質の商品を作ることが難しかった。最初に作ったのは太陽系の惑星をイメージさせる丸いオーナメント。キルギスの人たちは羊毛からフェルトを作る素晴らしい技術はあったが、すべて同じ形のボール状にしたり、飾りつけ用のひもを取れないように確実に付けたりする作業に慣れておらず、製品作りの習得に1年が費やされた。

そんな無印良品の品質基準をクリアするために、キルギスと無印良品の間に入ったのがJICA専門家の原口明久さんだった。商品を作る村の女性たちにとって厳しい要求もあったが、一つひとつクリアしてきた。

「たとえばヒツジが立つためには、足の長さが同じでなくてはならないのですが、それが難しい。そこで長さを簡単にそろえられる物差しを手作りしました。また、ヒツジの顔が同じになるようにまず絵を描いてもらい、自分の描く顔と手本との違いを理解してもらったこともありました。こうした細かな工夫をたくさん積み重ねてきました」

プロジェクト終了後、現地の人たちの手で商品作りが継続できてはじめて、その国や地域の力になったといえる。良品計画の品質基準に基づき、ていねいに商品を作り続けた結果が、10年という長期間の取引に表れている。

(注)1980年に大分県から始まった地域振興事業。地域ごとにひとつの特産品を作ることで地域の活性化を図った。この手法は、OVOP(One Village One Product)運動としてJICAの事業を通して途上国へも広がっている。

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ショルブラク(塩の泉)村でフェルトの動物を作る女性たち。村は塩水しか出ず農業ができない。手に職があれば、生活の糧となる。

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お母さんが作ったフェルト製品をうれしそうに持つ子どもたち。フェルト作りをするお母さんを手伝うため、お兄ちゃんは弟と妹の面倒をみる。

商品を通しておたがいの国のファンになる

こうした成果を出したことで、キルギスでは一村一品運動を全土に広げようという機運が高まっている。また、2021年にはイシククリ湖の村に一村一品運動の工場を建て、輸出できる品質を備えたもの作りの拠点にする予定になっている。「JICAのプロジェクトで作っているのはフェルト製品のほかにハチミツや、高い栄養価から世界中で注目されている果実シーバクソンのジュースやオイル、せっけんなど数十種類もあります。工場ができて、国際規格に合った商品がつくられるようになれば、輸出しやすくなると思います」と原口さんは次のステップに意欲を燃やしている。久保田さんも「よい品質のものがあれば、フェルト製品以外の商品も扱っていきたい」と話し、期待をうかがわせる。

キルギスの人たちが丹精込めて作った商品を日本の消費者のもとに届けるJICAと無印良品の取り組みは、これからもおたがいの国にそれぞれのファンを育んでいくだろう。

キーパーソン

良品計画 久保田 裕子(くぼた・ひろこ)さん

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久保田 裕子さん

プロジェクト開始時に生産管理の担当として関わる。キルギスには5~6回訪れ、その自然の美しさに魅了された。今回、ふたたびプロジェクトの担当者として「よい商品をお客さまに届けたい」と意欲を燃やす。

「生産者の手作りによる、ていねいなフェルト製品を届けたい!」

JICA専門家 原口明久(はらぐち・あきひさ)さん

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原口明久さん

JICA青年海外協力隊でガーナに赴任。以後、カンボジア、エチオピア、モンゴル、カンボジアでJICAのプロジェクトに携わる。2009年からキルギスの一村一品運動に協力。「四季折々の美しさがあり、飽きることがなかったですね」。

「キルギスに合った一村一品運動にこれからも協力します」