取り残された村 パキスタン 写真・文:清水 匡

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村人たちがお金を出し合って建てた学校。

取り残された村(2019年1月号掲載)

パキスタン北部、カラコルム山脈の裾野に位置するマンセラ郡。2005年の大地震、そして2010年の大規模水害以後、多くの学校が再建されていない。住民が建てた校舎や青空の下で学ぶ子どもたちはいるものの、就学率の低さや学校中退、児童労働などの問題があり、子どもたちの教育環境の改善はなかなか進まない。とくに、女子生徒が置かれた状況は厳しく、就学への親の理解と適切な教育環境が必要だ。中国の巨額投資で都市の道路インフラが整備される一方、地方の子どもたちは取り残されたままだ。

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写真家より

パキスタン人は人懐っこい。文化や宗教上、女性は目を合わせてくれることは少ないが、男性は会うたびに握手する。日本では過激派やテロなどが目立って報道されがちだが、人びとに会うとそんなイメージはすぐに裏切られる。握手で2回シェイクした後も視線をそらさず手を握り続けられたときは、どれほど時間を長く感じたことか。

NGO国境なき子どもたち(KnK)は、2005年に同国で大地震が発生して以来、復興事業を実施しており、現在も女子教育の普及を目的とした学校建設事業に取り組んでいる。KnK職員としての私の仕事は、校舎建設候補の村々や建設中の学校、そして完成した学校を訪問し、プロジェクトの進捗をモニタリングすることである。子どもたちをはじめ、村人や教師、保護者への聞き取り調査も行う。子どもたちへのインタビューでは教科書的な答えが返ってくることが多い。それもそのはず、隣で先生や親がにらみを利かせて立っているのだ。しかし、子どもたちの姿や表情、彼らを取り巻く環境は真実を語っている。現場にいる私はNGO職員であると同時に目撃者でもある。支援とは組織に多くの力が集まってなし得るが、私個人にできることは限りなく無に等しい。

パキスタンでは一般的に、年頃の少女が男性と向き合うことはタブーとされている。特に地方ではその傾向が強い。写真という窓の向こうで、男性教師を前に暗唱する少女は何を思っているのだろうか。親はどんな気持ちでわが娘を送り出すのだろうか。強い紫外線が降り注ぐ校舎もない学校にどうしてこんなにも大勢の生徒が集まってくるのだろうか。山道を1時間も2時間もかけて通学する男子生徒は私たちに笑顔を向けてくれる。「なぜだろう」-私は知りたい。そして日本や世界の人たちにも知ってほしい。

指を使って数を数えていた少女は、もう3年生になっているはず。そういえば私の娘と同じだ。どうしているかな。また会いたい。

清水 匡(しみず・きょう)

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清水 匡さん

NGO国境なき子どもたち(KnK)職員兼人道写真家。大学卒業後、自然映画社に勤務し教育映画や自然科学番組の制作に携わる。1999年よりNGO国境なき医師団日本の映像部でアフリカやアジアの活動現場の撮影・編集を担当。2003年よりKnKに所属するかたわら写真家として活動している。

パキスタン

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首都:イスラマバード

国名:パキスタン・イスラム共和国
通貨:パキスタン・ルピー
人口:2億777万人(パキスタン統計省国勢調査、2017年)
公用語:ウルドゥー語(国語)、英語(公用語)

JICAの取り組み

2億を超える人口を有し、アジアと中東の接点として重要な位置にあるパキスタン。近年は政情・治安が落ち着き、比較的安定した経済成長を維持している。JICAは、さらなる社会基盤の整備や、所得・地域・ジェンダーの格差の是正などに向けて、ポリオ対策・予防接種の強化、急激な都市化に対応するインフラ整備、国内産業の強化、さらには防災対策などの協力を展開している。

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