彼の人生、彼の夢 バングラデシュ 写真・文:吉田亮人

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ダッカの街を走る路線バスの車掌として働くリアジ君。客の呼び込み中は、排気ガスや巻き上がる埃を吸い込むことになる。

彼の人生、彼の夢(2019年7月号掲載)

バングラデシュの首都ダッカで路線バスの車掌として働く少年、ムハンマド・リアジ君。朝4時に起き、6時から仕事が始まる。往復3時間の路線を一日に4~5往復しながら、乗客を呼び込み、乗せ、運賃を徴収していく。仕事が終わるのは22時ごろだ。よりよい生活を求めて地方からダッカに出てきたリアジ君の一家だが、父親の稼ぎだけでは生活が苦しく、リアジ君は学校をやめて働くことにした。そのおかげで妹は学校へ通えている。そんなリアジ君の一日を追い、夢を聞いた。

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写真家より

排気ガスと埃まみれの空気、強烈な太陽光、古びたコンクリートビル群、気が遠くなりそうなほどやかましいクラクションと車のエンジン音、どこからともなく漂ってくるドブの臭いと目が回りそうなくらい大勢の人間が放つ体臭。

そんなものが全部かき混ぜられて巨大なエネルギーを形成しているのがバングラデシュの首都ダッカだ。そこで生きる人々の生(せい)の強さに惹かれてこれまで同国を何度も訪れ撮影を続けてきた。

被写体は"働く人"。さまざまな労働者の働く現場を写真に収めるため、ダッカ市内のあちこちを訪ね回っていたのだが、その際交通手段としてよく利用していたのが市民の足となっている路線バスだった。

乗車するとどのバスにもドライバーのほかに、切符をもぎったり客を呼び込んだりする車掌が働いている。そのほとんどはまだ年端(としは)もいかない少年だった。何人もの少年たちを見るにつけ、彼らがどんな生活を送り、どんな人生を歩んでいるのか気になり始めた僕は、思い切って一人の少年に声をかけ、写真を撮らせてもらえないかと頼んでみた。

それが当時15歳のムハンマド・リアジ君だった。爪を嚙みながら「いいよ」と興味なさそうに答えてくれた彼をその後3年間にわたって追い続けた。

通常ならば学校に通って勉強し、友達と遊んでかけがえのない青春時代を送っているはずだが、それとはほど遠い生活を送っていたリアジ君。僅(わず)かな賃金を得るために早朝から深夜まで働きに働くのは、言うまでもなく貧しい家族を支えるためだ。

経済格差が激しく、セーフティネットも脆弱(ぜいじゃく)な同国で、貧困家庭に生まれた子どもたちは生き残るために働かなければならないのが現実なのである。そんな子どもたちが100万人はいるといわれている。

未来のバングラデシュを担う若い力が貧しさの中に閉じ込められ続けるのは、社会全体にとっても大きな損失である。

「将来はバス会社のオーナーになって家族を楽させてあげたい」

リアジ君のささやかな願いに対して写真でできることは少ないかもしれないが、社会の関心を向けさせ、問題意識の萌芽を促すことはできるかもしれないと思い、一昨年から同国である展示プロジェクトを始めた。

少しでも子どもが子どもでいられる時間をつくるために、写真家としてできることを考えていきたい。

吉田亮人(よしだ・あきひと)

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吉田亮人さん

1980年、宮崎県生まれ。小学校教員として6年間勤務後、2010年より写真家として活動を開始。写真集に『THE ABSENCE OF TWO』(2019年、青幻舎)などがある。

バングラデシュ

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首都:ダッカ

国名:バングラデシュ人民共和国
通貨:タカ
人口:1億6,555万人(バングラデシュ統計局、2019年)
公用語:ベンガル語(国語)

JICAの取り組み

最貧国でありながら年率6パーセントの経済成長を続け、投資先・市場としても注目されるバングラデシュ。JICAは、さらなる経済成長のために必要なインフラ支援や産業の成長、また人々の生活を向上させる保健医療や災害対策などで協力している。

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