PROJECT CYCLE JICAが推進するプロジェクトは「プロジェクトサイクル」と呼ばれる4段階を経て実施されます。各段階の業務を担当部署が丁寧に実施し、受け渡していくことで、常にプロジェクトの質の向上を図っています。

PROCESS 01 [ 援助戦略の策定 ] 相手国の未来を思いあらゆる知見を総合して基本戦略を練り上げる

田中 顕治 Kenji Tanaka

東南アジア・大洋州部 東南アジア第三課
2007年入構 理学部 地球惑星科学科

小林 千晃 Chiaki Kobayashi

地球環境部 防災グループ 防災第一チーム
2005年入構 文学部 国際文化学科

ABOUT PROJECT CYCLE

全ての事業のベースとなり
開発協力の入り口となる

JICAにおける援助戦略の策定とはどのようなものでしょうか

田中:JICAでは技術協力と資金協力を組み合わせ、開発途上国に対する様々な開発協力事業を実施しています。どの国に対してどの支援メニューを用いるか、そのテーマや規模、協力形態などのアプローチを決める拠り所となるのが、支援国ごとに策定に取り組んでいる「国別分析ペーパー(JICA Country Analysis Paper : JCAP)」。JCAPがJICAの開発協力事業の戦略ペーパーです。援助戦略を医療の話で例えると、患者さんが「支援する対象国」で、医師が「JICA」、治療方針が「援助戦略の策定」に置き換えることができるかもしれません。ケガや病気に苦しんでいる患者さんに担当医が問診をしたり、様々な検査をしたりして原因を突き止め、治療方針を一緒に探っていくようなものです。その検査項目に当たるのが、JICAが収集する相手国についての政治状況、マクロ経済データ、保健医療・教育などの社会開発指標などです。また問診で過去の健康履歴を確認し、医師が患者さんに最適な医療を提供するように、その国を取り巻く環境の変化や外交情勢から、その国が今後はどのような課題に直面することになるのかを考え、より効果のある開発協力を提案していくことを目指しています。今だけ元気になるのでなく、長い目で安心して生活できる体になってもらうことに近いと思っています。例えとして少し身近な話を用いましたが、決して医者が上、患者が下、という捉え方ではありません。現代の医療現場でも医師と患者が対等な立場で治療方針を決めていくように、JICAが一方的に援助戦略を決めるのではなく、相手国と共につくり上げていくことが大切だと思います。

小林:いい例えですね。その援助戦略の策定には、まず相手国が何を必要としているのかという「分析」があるわけですが、同時に、われわれJICAが持っている様々なリソースの検討も必要です。リソースがなければ協力はできません。さらに、二国間関係をどうつくっていくのか、日本の外交戦略も意識する必要があります。

田中:確かに開発の観点から協力が必要なことがあったとしても、日本が協力する外交的な意義が伴わなければ実現できない場合もあります。われわれの事業は日本国民の税金を原資としていることから、こうしたことも含めて総合的に検討する視点が、戦略策定の重要なポイントですね。

多くの人の声に耳を傾け
ひとつの方向性を導き出す

援助戦略は具体的にはどのようにして策定されるのですか

田中:私が所属する東南アジア・大洋州部は「地域部」と呼ばれる国・地域を担当する部署ですが、地域部では、担当地域内の各国において先ほどご紹介した国別分析ペーパー(JCAP)の策定等を通じた戦略をつくることが大きな役割のひとつです。協力対象国の現状を分析し、協力実施に関する考え方や方向性を導き出すもので、先ほどの例えでいえば、患者さんの「カルテ」と同じですね。内容は毎年見直し、5年に1回程の頻度で大きく検討・改訂を行い、少しでも相手国をとりまく環境の変化とのズレを無くすよう努めています。
戦略の作成過程では、JICA内の関係部署はもちろん在外事務所と意見交換を行い、JICA外では外務省でODAを担当する国際協力局をはじめ各省庁、研究機関や大学等の外部有識者、そして相手国政府との政策対話や関連機関など多方面から意見を集め、まとめていきます。

小林:こちらが必要と考えるものと、先方が必要とするものの内容が一致しなければ、計画を立ててもなかなか実現しません。相手国の中にJICAの協力を活かして持続的に開発を進めていくという意志や政策、予算上の裏づけなども重要です。JICAの協力は、その国が求めるものの一助として行うものなので、協力期間が終わると同時に消滅してしまうのでは全く意味がありません。そのため相手国とのすりあわせはとても大事ですね。
協力における双方の意向が合えば、さらに深い課題をヒアリングするために、その課題に詳しい担当省庁と打ち合わせをしたり、専門的な知見が必要であれば本部から個々の分野・課題を専門に担当するJICA職員が合流するなどして検討をさらに進めていきます。国別分析ペーパーは地域部が中心に作成しますが、テーマが具体化していく過程では、われわれ課題部のスタッフも加わっていきます。

田中:政治、経済、社会、それぞれの分野における専門的な分析や学術研究は、多くの国に対して優れた知見が既に世に出ていると思います。JICAの援助戦略の策定は、そうした多くの知見を取り込みながら、それらをただ並べてしまうのではなく、関連性を見つけ出して結び合わせながら課題を見出し、さらに日本が支援する意義を付け加え、我が国の国際協力のあるべき姿としてひとつの方向を導き出していく仕事です。それは我が国の国際協力業務を一元的に実施する機関としての使命を託されているJICAならではの仕事だと感じますね。

相手国に必要なものは何か
高い視座で考える

協力対象となる相手国の未来像を描くことになりますね

田中:援助戦略の策定は、幅広い関係者の知見が結集したものです。策定にあたって大切にしている原点は、その国の未来を真剣に考え、将来像を思い描くという国創りに携わるという自覚です。例えば私が今、担当している国では、近年急速な経済成長を遂げ、国民所得も大きく向上しました。しかし多くの有識者が、堅調な経済成長はほぼ海外からの投資に牽引されたもので、自国産業の自立的な成長を必ずしも反映していないことを指摘しています。このまま賃金が上昇を続け、外資がより人件費の安い近隣他国へ移ってしまったら経済の持続的な成長は行き詰まらざるをえません。また、同国周辺地域では経済統合も今後進んでいくことが予想されるため、域内での競争は一層激化する見通しもあります。このため当該国政府は、今のうちに自国産業の裾野を広げ、これまで日本を含むアジア先進国等から専ら部品を輸入して組み立てては輸出するといった産業の在り方から、素材や部品を自ら製造する国へと生まれ変わらなければならないという危機感があり、日本へ求める協力内容もそのようなものにニーズが変わってきています。このように相手国の将来を左右することに深く関与できるのはJICAの醍醐味ですし、この国の経済が持続的な成長を実現することは、日本の経済にとっても非常に重要なことだと思います。

小林:私は今、地球環境部の防災グループに所属しているので、防災という課題の観点で、援助戦略の立案に関わっています。JICAは、2015年に世界185カ国が合意した国際的な防災力強化の枠組である「仙台防災枠組2015-2030」の議論に数多くのインプットをしました。防災という、日本の高い技術的知見とノウハウを持った分野で、先頭に立って国際的枠組をつくり上げ、国際的世論を形成しながら各国の開発戦略を防災枠組に誘引していくということも、援助戦略のひとつだと思います。防災は国の発展において非常に重要度が高いにも関わらず、投資効果が見えにくい、いわば「災害被害を軽減することが主で、直接的な経済成長を生みにくい」活動であるため、その重要性が認識されにくい状況にありました。近年は、「仙台防災枠組2015-2030」の影響もあり、災害への備えとしての事前的な災害への対策・投資の重要性が国際社会により認識されつつあります。大きな国際世論の形成に日本からの知見のインプットを行っていくことにより、各国において災害対策が進み、ひいては日本らしい支援の成果が普及されると考えています。

民間連携の促進は
これからのJICAの大きな役割

これから求められる援助戦略とはどんなものでしょうか

小林:途上国が開発協力等により経済成長を遂げ、民間投資が進みはじめると、新たな問題が出てくることがあります。例えば、無秩序な開発や開発に伴う都市、自然環境の悪化などがその典型的な例で、経済発展が進むことの弊害ともいえるでしょう。民間投資が滞ることのないよう、これらの問題を解決し、持続的発展を着実なものとしていくことが重要です。具体的には、法体制や規制の整備、監督機関の能力強化などが挙げられます。実はこれは日本が高度成長期に行ってきたことでもあるのです。この分野では日本の知見を活かすことができ、開発協力等により、ある程度の成長に達成した、いわゆる中進国に対しては、こうした協力も求められています。また、中進国では、民間投資を持続的に拡大していくことが課題であり、JICAとしても持続的な民間投資受入の施策を行うことに加え、日本の民間企業とも連携し、企業が持つ優れた技術や知見を活用して、課題の解決に取り組んでいく必要があると思いますね。

田中:開発途上国のインフラ整備へのニーズは巨大です。これに応えるためには、従来の日本を含めた先進国のODA資金、世界銀行やADBなどの開発援助機関の支援だけでは全然足りず、民間資金の活用が求められています。JICAにも従来の協力手法に加えて、民間連携のアプローチが求められています。そんなJICAには大きな財産があります。それは長年の援助事業を通じて築いたノウハウと各国から得ている信頼です。ODAを触媒として、民間連携をいかに促進していくかということは、今後の援助戦略の策定にとって大きなテーマであり、われわれJICAの未来像にも繋がる新しい領域でもあると思います。次代のJICAのあるべき姿を想像しながら、今後も日々の業務に取り組んでいかないとですね。