〈MISSION 4〉エネルギー ENERGY

中米・カリブ地域におけるエネルギー課題への取り組み

2012年3月、JICAは米州開発銀行(IDB)との間で、再生可能エネルギー及び省エネルギー分野における
中米・カリブ地域向け協調融資スキーム(CORE)の実施枠組みを締結しました。
このCOREの枠組みのもとでJICAは、中米・カリブ地域の国々が抱えるエネルギー課題に取り組み、
IDBとの協調融資の実績を積み上げてきました。
そしていま、ジャマイカにおける省エネルギーの促進を図るため、新たな協調融資案件の形成に取り組んでいます。

越智 薫 x 多田 尚平

多田は、JICA側の責任者としてCOREスキームの実施枠組みを立ち上げる役割を担い、
その後、連携調査員としてIDBに出向し、
IDB職員としての立場でJICAとの協調融資案件を進めていく業務を担当しました。
越智は、2016年1月よりジャマイカでの案件形成に携わり、
多田やその後任の連携調査員の助言や協力を仰ぎながら、
ジャマイカ政府関係者やIDB側担当者との協議を行い、
プロジェクトを実現するため日々奮闘しています。

PROJECT DIAGRAM

「ジャマイカにおける協調融資案件の形成」への取組体制

IDBとJICAは、組織文化や風土を異にし、プロジェクトへの取り組みにおいても、異なるアプローチやスタンス、プロセスを持つ組織です。その2つの組織を、出向者である多田が「組織文化の通訳」としての役割を果たすことで、協調融資における内容・タイミング・プロセスのハーモナイゼーションを実現しました。

本部で協調融資案件に携わる越智は、二度にわたり現地に出張。案件形成を主導するIDBの担当者と共にジャマイカ政府関係者と協議を持つと同時に、IDBが描くプロジェクトの内容の把握、事業対象となる公共施設や道路の現場確認、さらに実施体制上のリスク等について確認を行いました。

ワシントンDCにある中南米世界、異文化に包まれて、手探りで道を拓く

ジャマイカの案件に取り組むことになった経緯や
当時の印象などをお聞かせください。

多田:COREスキームと私の関わりで言うなら、2011年に中南米部に配属されたときから始まります。この時には、すでにIDBとの協調融資の話が進められていて、私がJICA側のスキームを立ち上げる責任者となり、当時、JICAからIDBに出向していた先輩と二人でまとめていきました。2012年のCORE実施枠組み締結後は、JICAの担当として具体的な個別案件に取り組みました。その後IDBに出向となり、今度はIDBの担当者として、越智さんをはじめとしたJICA側の担当者と一緒に個別案件を進めていく立場になります。ジャマイカの案件についても、この流れのなかで担当することになりました。

越智:私が所属するのは中南米部の計画・移住課であり、ジャマイカの案件については、本来なら中米・カリブ課が担当すべき案件なのですが、円借款の案件形成の経験を積めるようにという上司の配慮もあって、この案件を担当させていただいています。私が初めて現地を訪ねたのは、2016年4月のことでした。円借款案件をつくる最初のステップとして、ファクト・ファインディングというミッションで訪問しました。
それまでのキャリアのなかでも中南米のラテンアメリカの国々を訪れる機会はありましたが、英語圏のカリブ地域は初めてで、まったく異なる文化圏であることを再認識しました。なかでもジャマイカは「カリブ地域の盟主」と言われているように、人々は、背が高くて手足が長く、姿勢もよくて…。そう、みんなが陸上競技のボルト選手のように見えました(笑)。堂々としていて誇り高く、強くて鮮やかな印象を持ちました。

多田:私がIDB本部で過ごした3年間は、米国のワシントンDCを拠点に仕事をしていました。とはいえ、ワシントンDCを本拠地とする国際機関というイメージとは掛け離れていて、本部のなかに一歩踏み入れると、そこは完全な中南米世界。日常会話がスペイン語であることは覚悟していましたが、組織運営の文化自体が中南米地域特有のものであって、着任当初の私には、ものごとを決めていくプロセスや決定権限者が誰かを見極めることさえも難しく感じました。

中南米部 計画・移住課 越智 薫

中南米部 南米課 多田 尚平

一国の財政状況を大きく変えていくインパクトのある事業に携わる手応え

ジャマイカが現在、抱えている課題とは
どのようなものなのですか?

多田:ジャマイカは日本と同じように島国で、電力需要を賄うための燃料のほとんどを輸入に頼っています。このため電力価格は、世界的にもきわめて高い水準となっています。加えて、原油価格の上昇によってさらに電力価格が高騰すれば、国内産業の国際的競争力は著しく低下し、国としての電力負担の増大が、財政赤字をさらに膨らませる要因にもなります。国の債務比率が高いジャマイカの国家財政を改善するためにも、省エネルギー対策による電力消費の低減への取り組みは、必要不可欠な課題でした。

越智:ジャマイカでは、エネルギー需要の90%以上を輸入化石燃料に依存していて、これが国家財政を圧迫しています。今回の案件では、病院や学校、官庁施設などジャマイカの公共施設を対象に、空調やボイラー、照明等の機器をエネルギー効率の高い機器に入れ替える改修工事を実施する計画です。また、首都キングストン市内の主要幹線道路の交通システムの改善によって、自動車の燃費の向上を図るという施策も盛り込まれています。これらのプロジェクトのデザインを描いていく段階はIDBで進めているため、JICAとしては、その全体像を把握し、その実施体制を確認しながら、協調融資の実施に向けた検討とその準備を進めています。

多田:中南米地域において長い歴史と多くの実績を有する開発援助機関であるIDBは、それぞれの国において、どういう支援がいま最も必要とされていて、クライアントである相手国政府がどんなことをしたいと考えているのかを理解しています。開発上の課題とニーズを熟知したIDBが描くプロジェクトに対して、日本の先進技術を導入するなど、さらに効果的な支援とするための付加価値を提供するのが、COREスキームにおけるJICAの役割といえるでしょう。

越智:さきほど多田さんがおっしゃったように、私たちが推進しようとする事業は、ジャマイカ政府の財政収支を健全化することにもインパクトを与えるものです。自分が携わっていることが、ゆくゆくは一国の財政状況を大きく変えていくことになる。そういったスケールの大きな事業に携わることの意義をあらためて実感しています。私は「人創り」の理念に共感してJICAに入構し、障がい者支援など人にスポットがあたる事業に携わることが多かったため、これまで円借款関連業務の経験がありませんでした。いわゆる「食わず嫌い」の苦手意識があったのですが、実際に携わってみると、当然のことではあるのですが、円借款もまた、それに関わる多くの人の想いの上に成り立っていることを感じています。

二つの歯車が噛み合うように、油をさして、メンテナンスしていく

ジャマイカの課題を解決していくために
苦労されたのは、どんな点ですか?

多田:私にとっては、乗り越えるべき大きな課題があったというよりは、二つの異なる組織が、一つの目標に向かって歩調を合わせていくための、日々の調整というものが、本当にチャレンジングでした。異なる発想、異なるアプローチ、手続きや意思決定の方法も違う。そのなかで、互いの組織が納得できるかたちで、どのようにものごとを進めていくことができるのか。言葉の通訳というより、組織文化の通訳という役割を担う必要がありました。そのためには、互いの組織を十分に理解することはもちろん、IDBからもJICA内部からも信頼される存在となることが求められました。そして、二つの歯車を何とか噛み合うように油をさして、メンテナンスしていく。そして、あちこちでまわりはじめた皿が、回転をとめて落ちてしまわないように、注意深く調整しなければなりませんでした。

越智:協調融資案件の難しさは、相手国政府だけではなく、協調融資先であるIDBとの調整も必要になるため、JICA単独で行う案件形成に伴う手続きが、倍増する点にあると思います。また、IDBやジャマイカ政府で作成された資料に情報不足があってすぐに確認したいと思っても、時差があるために一晩待たなければなりません。この点にもやきもきさせられましたね。そんな私にとって、IDBに入られている多田さんは頼もしい存在でした。たとえば案件形成を進めるIDBに対して、JICA側の意向を伝えるタイミングなども、IDBの意思決定プロセスを知る多田さんに助言いただきました。
それと個人的なことですが、幼い二人の子どもを育てているため、海外出張に出ること自体、私にとっては大きな壁でした。しかし、このジャマイカの案件を主導するIDBの担当者も女性で、子育てもされています。彼女は、エネルギーのスペシャリストとしてプロジェクトをうまく調整しながら、バリバリと仕事をこなし、それでいてとてもエレガントなのです。そんな彼女の姿に刺激を受け、励まされています。

ジャマイカ政府関係者と、複数回の協議を重ねる

IDB担当者と越智

ジャマイカ関係者との合意文書署名

プロジェクトで更新予定のエアコンチラー

プロジェクトで更新予定のボイラー

公共機関から民間セクターへ、さらにカリブ全体へと省エネ意識が広がっていく

ジャマイカでのプロジェクトの成果として、
どのような未来を期待しますか?

越智:まず第一に、各施設での省エネが目に見えるかたちで実現することです。エネルギー効率の高い機器の導入による効果は、早い段階でわかりやすく示されるものだと思うので、その達成感を社会全体が共有することによって、公共部門に限らず民間セクターを含めて、エネルギー効率を意識した国になっていくことに期待しています。そのためには、ジャマイカ政府や公共部門の人たちがイニシアティブをとって、今回のプロジェクトの成果を、わかりやすいショーケースのように示していくことによって、国民一人ひとりの意識を変えていく必要があるのだと思っています。さらに、カリブ地域の国々は、どの国も同じような課題を抱えていますから、そのリーダー的存在であるジャマイカで省エネが進むことにより、それが自然に広がりを見せることにも期待したいですね。

多田:今回のジャマイカの案件では、両機関の手続きを実務レベルで理解し、スケジュール表に落とし込むために、3年間で蓄積した知識、信頼、コミュニケーション力、調整力を総動員しました。こうして策定されたスケジュールに従って案件形成がなされ、協調融資の土台に実務レベルで乗せられたとするならば、それこそが私がIDBに出向していた3年間の集大成だと考えています。異なる文化を持ち、意思決定のプロセスも異なる両機関が、一年間という限られた時間のなかで、スケジュールを共有して動いていくための土台づくりをお手伝いしてきたので、それが達成されて、次の協調の場面では、さらにやりやすくなっていくことを期待しています。

越智 薫 Kaoru Ochi

中南米部
計画・移住課
2004年入構

幼い頃から世界の貧困を「何とかしなくては」と漠然と思い、大学では国際政治や国際法を学んだ。ただ自分のなかの問題意識を整理することができず、大学院への進学を考えていたが、2年後の予行演習のつもりでJICAを受験。気負いがなかったことが功を奏したのか、採用となる。

多田 尚平 Shohei Tada

中南米部
南米課
1998年入構

父のブラジル駐在に家族で同行し、5年間を過ごす。しかしブラジルの生の姿に触れられなかったことに不満を感じ、大学3年次に休学し、ブラジルのりんご農場で一年間働いた。この地がブラジル最大のりんご産地となった背景にJICAの技術協力があったことを知り、国際協力に関心を持つようになる。

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