〈MISSION 6〉環境問題 ENVIRONMENT

森から世界を変えていくREDD+の推進を支える

森林は莫大な炭素の貯蔵庫であり、その破壊によって大量の温室効果ガスが放出されます。
「REDD+(レッドプラス)」は、森林の減少や劣化を食い止めるために、森林を多く有する途上国にはその保全を、
先進国には支援を求め、途上国の森林を保全する取り組みに対して、
国際社会が経済的なインセンティブを提供しようという仕組みです。
またJICAは、この活動を官民連携によって推進していくためのプラットフォームを立ち上げ、
オールジャパンでの「REDD+」推進を支える役割を果たすと同時に、途上国の個別の課題に向き合い、
主に組織づくりや制度面の整備のための支援を行っています。

南雲 孝雄

南雲は、2015年7月に地球環境部森林・自然環境グループに着任し、「REDD+」の推進に関わることになりました。
「REDD+」活動への理解を広げ、官民連携による取り組みを加速するために設立された
「森から世界を変えるREDD+プラットフォーム」の事務局としてその運営に携わる一方、
インドネシアやラオスにおいて「REDD+」の実施体制を整えるための支援を行っています。
そんな南雲に、「REDD+」に携わる手応えや困難、インドネシアにおける事業の進捗について話を聞きました。

REDD+:「途上国における森林減少・森林劣化に由来する温室効果ガス排出の抑制、
並びに森林保全、持続可能な森林経営、森林炭素蓄積の増強」もしくは資金メカニズムを指す。

PROJECT DIAGRAM

「REDD+」の推進を支える取組体制

森林保全については行政や研究機関、大学、民間企業など、担い手が多岐にわたるため、そのとりまとめをしながらプロジェクトの実施体制を一元化することが求められ、その役割をJICAが果たしています。

南雲はインドネシアには合計5回、調査団メンバーとして参加し、インドネシアにおける実施機関である環境林業省と会議を重ねました。

インドネシアの省庁再編の影響もあり、「REDD+」政策の推進が停滞していましたが、プロジェクト延長の手続きの確認や、プロジェクト実施体制の変更など、難しく根気を要する協議を重ねています。

森林保全という課題に、市場経済の考え方を導入して、新たな可能性を探る試み

そもそも「REDD+」とは、
どのような取り組みなのか教えてください。

南雲:森林の伐採や火災による焼失、農地転用などによって森林が失われていくことや、森林そのものの質の低下とそれに伴う炭素蓄積能力の低下により、温室効果ガス、とりわけCO2の排出が増えていきます。途上国による排出をなるべく少なくしようとする努力に対し、先進国が技術的・経済的インセンティブを与え、地球温暖化の緩和に貢献していく仕組みとして提唱されたのが「REDD+」です。

JICAの森林保全への取り組みは、東南アジアを中心とした造林・森林回復の技術移転を中心に70年代に開始されました。その後、2000年頃から生物多様性保全や気候変動などの地球規模の課題が大きくとりあげられるようになり、2005年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)におけるパプアニューギニアとコスタリカの共同提案をきっかけに、国連の交渉の場で「REDD+」の検討が始まりました。

「REDD+」というのは、それまでの持続可能な森林経営に加えて、森林炭素ストックの維持・増強というニュアンスを「プラス」したものです。「REDD+」活動を行わなかった場合と行った場合の排出量を計測して、その差分である排出削減量に対して、排出権などの経済的なインセンティブを提供しようというものです。実はすでに自主的な取り組みとして、「REDD+」の排出削減量をクレジット化した取引が行われています。森林によるCO2排出量の削減・吸収量の増加は、森林炭素蓄積量の変化により推定され、推定結果に対してクレジットが算出されるため、計測数値が国際的に信頼性を備えたものでなければなりません。
ただ、一口に排出量を計測するといっても、簡単なことではありません。実際は多くの途上国において、森林モニタリングシステムが未整備であったり、モニタリング手法が確立されていない、もしくは人材が不足している等の課題があります。そのためJICAは、「REDD+」を推進しようとする途上国に対して、森林モニタリングシステムの整備や、計測(Measurement)、報告(Reporting)、検証(Verification)を含む技術支援や政策支援、制度の構築等を支援しています。

地域環境部 森林・自然環境グループ 自然環境第一チーム
南雲 孝雄

インドネシアの国立公園職員による、森林バイオマス調査の様子

民間企業の実業に直結するアプローチが途上国の課題解決につながることを期待したい

「REDD+プラットフォーム」の
活動についてその現状や課題について
お聞かせください。

南雲:「REDD+プラットフォーム」は、JICAと国立研究開発法人森林総合研究所が発起人となって、2014年11月に設立されました。「REDD+」の実施にあたっては、民間企業を含む多様な主体が持つ技術やノウハウを持ち寄り、互いに連携することが成功のカギとなります。そのため民間企業・団体や研究機関、政府機関などが加盟し、「REDD+」を官民連携によるオールジャパン体制で推進するための活動を行っています。「REDD+」の理解を拡大することや「REDD+」に取り組むことの意義やメリットを日本企業・団体に伝える普及啓発活動だったり、新たなビジネス展開の足がかりとして、企業や団体間の交流を促す活動を行っています。

「REDD+プラットフォーム」に参加して国際的な視野を持ち、社会貢献活動(CSR)を行うことももちろんですが、「REDD+」に関連したビジネスの情報をタイムリーに入手できること、また、政府や関係機関、民間企業や団体との意見交換の機会が生まれ、森林保全活動に共同で取り組むビジネスマッチングにも有益であることにも注目してほしいですね。そして、これらの活動を通じて、新商品の開発や新たな市場の創出、原材料の調達地の獲得など、本業に貢献する新たなビジネスモデルの創出が可能となることもプラットフォームに参加するメリットの一つです。

「REDD+」というのはあくまでも手段であって、JICAとしては途上国の森林をいかに守っていくか、また人間活動との調和をいかに図るかという点に軸足を置いて仕事をしていくことに変わりありません。しかし、そのために民間企業の果たす役割は大きく、インセンティブとしてのクレジットやビジネス連携による可能性など、企業や団体ごとの多様な興味・関心を起点に、さまざまな利害関係者に「REDD+プラットフォーム」への参画を促し、国内の理解を広げ、「REDD+」事業へ積極的に参加してもらって盛り上げていただきたいと願っています。JICAには、さまざまな途上国とのパイプがありますから、そのネットワークや現地における調整力を活用していただき、民間企業による新たなビジネスの可能性を広げようとする動きが「REDD+」の大きな推進力になっていくことを期待しています。

民間企業の実業に直結するアプローチが途上国の課題解決につながることを期待したい

もう一つ、インドネシアにおける
「REDD+」の取り組みも支援されていますね。

南雲:インドネシアは陸地面積の50%を超える森林資源を保有し、ブラジル、コンゴ民主共和国に次ぐ、世界第3位の熱帯林保有国です。しかしながら、森林火災や農地への転用などによって、森林の減少が世界的にも問題視されるような規模へと広がっています。これに対してインドネシア政府も、さまざまな援助機関の協力のもと、森林保全や持続可能な森林の管理に取り組んできました。現在、私が担当している日本インドネシアREDD+実施メカニズム構築プロジェクトでは、インドネシアの西カリマンタン州および中央カリマンタン州において、州レベルの「REDD+」実施メカニズムの構築を目的としています。

2013年2月に、基本合意文書への署名がなされ、2013年6月から3年間の予定でプロジェクトが動き始めました。しかし、私が着任した2015年の7月時点では、プロジェクト活動が休止し、長期停滞の状況が続いていました。これは、2014年10月のジョコ・ウィドド大統領の就任後に、省庁の再編成が行われ、「REDD+」政策自体の方向性や実施体制が大きく変更されたためでした。当初、カウンターパートであった環境林業省は2つの組織に改編され、どこの誰と話し合い、プロジェクトを進めていくべきかも見当がつかない状況がありました。

インドネシア人は穏やかな人も多く、日本に対して友好的なのですが、対組織となると、途端にものごとが進まなくなります。手続きを前に進めるための書類も滞留し、プロジェクト管理面での困難に直面しました。着任以降、出張回数は5回を数え、相手側の担当者と直接会って協議を進め、一つひとつ課題を克服できるように努めました。最大の難関は、プロジェクトの延長に伴う基本合意の改定について承諾を得ることでした。出張に向かう総局長をジャカルタの空港ラウンジで待ち受け、直接、窮状を伝えることで、何とか合意文書への署名に漕ぎ着けました。

印象的だったのは、私がJICA札幌にて研修事業を担当していた際に、JICA長期研修員として北海道大学で学んだGun Gun Hidayat氏が、このプロジェクトの相手側窓口担当であることが判明し、8年ぶりの再会を果たしたことです。通常では入手困難な有益な情報を彼を通じて得ることができ、大いにプラスになりました。プロジェクトが終了する2018年6月までに、「REDD+」実施体制を整えることを目標に、今後も、自ら積極的に動くことで、困難を乗り越えていきたいと願っています。

荒廃した森林の様子

ベトナム・ヴィズップヌイバ国立公園での
エコツ—リズム活動の様子

代替生計向上活動のためのコーヒー栽培の様子

国家の安全保障から、人間の安全保障へ人々の心に届く支援を進めたい

今後「REDD+」が、どうなっていくことを期待しますか?
南雲さんの想いを聞かせてください。

南雲:まず、「REDD+プラットフォーム」の今後については、加盟する団体や企業がますます増えて、途上国のことや森林、環境問題について考える、大きなうねりとなっていくことを期待します。こうした組織を立ち上げるときにも、大きな力が必要だと思いますが、それをいかに継続させていくかということも大事だと思います。地道な活動を繰り返し、継続的に行うことや、分科会活動、ワークショップ、セミナーなど、多彩な視点からさまざまな情報や機会を提供する場として、オールジャパンで「REDD+」に取り組んでいくために「REDD+プラットフォーム」が大きな支えとなることを目指しています。

最近の取り組みとしては、「REDD+オフィシャル特派員」を公募し、20代の4名の若者をインドネシアに派遣して、「REDD+」というものを目に見えるかたちで世の中に発信してもらう企画を実施しました。この企画では、「REDD+」をPRするアイデアと応募者の発信力を重視し、特派員を選考しました。9日間の現地での体験をSNSを通じて発信してもらい、また帰国後には自らの提案企画をもとにPRしてもらっています。わかりにくいものを広く世の中に周知するために、若者に体験してもらって、わかりやすい言葉で語ってもらうこと、また、若者から若者に伝え、そこから今まで「REDD+」を知らなかった人たちにも関心が広がっていけばいいなと考えています。今後も、こうした新しい仕掛けを考えていきたいですね。

一方、インドネシアでのプロジェクトについては、世界第3位の熱帯林保有国であるインドネシアの環境が改善すれば、それは世界の環境改善にもつながるほどの大きなインパクトがあります。そうした活動を通じて、日本とインドネシアの架け橋になれるような貢献をしていきたいという想いがあります。

また、事業のスケールアップという意味では、技術協力だけではなく、無償資金協力とか、さらに民間の資金が入っていくことに期待しています。このモデルを、インドネシア全体に広げていくためには、インドネシア政府の資金も確保しなければならないでしょうし、世界の他のドナーとの連携と国際資金の導入も必要になります。さらに日本企業の資金も導入していくことでスケールアップを目指しながら、強固な実施体制をつくっていくことが重要だと考えています。

島田 具子

地域環境部
森林・自然環境グループ 自然環境第一チーム
2004年入構

コメ農家の祖父の影響もあり、田んぼでの遊びを通じて、生き物や気象の変化など自然や環境に興味を持ち、世界の環境問題に取り組みたいと考えるようになった。途上国の農業、農村地域に住む人々の営みを守り、人々の幸せな暮らしを実現したいとJICAを志望する。

OTHER MISSION