ブラジル日系医療機関との連携について

1.背景と目的

2014年8月、安倍総理の中南米歴訪時に、サンパウロ市内で行われた日系団体主催歓迎会において、日系社会との「絆をより太くしていく」と述べ、我が国の貴重なパートナーとしての重要性が再認識された。ブラジル政府保健省の国家衛生監督局(Agência Nacional de Vigilância Sanitária(National Agency of Sanitary Surveillance);ANVISA)による認証・登録制度については、本歴訪をきっかけに政府間交渉が開始された。そこで、JICAは関心が高まっている我が国の医療技術・サービスの国際展開に資する本邦民間企業と日系社会の連携策の検討を行い、特にブラジル日系病院を通じた医療機器・サービスの国際展開へ貢献する案件形成を図っている。

2014年10月には「中南米日系社会と連携した日本の医療・福祉分野の技術・サービスの国際展開セミナー」が開催され、広く国民にブラジルをはじめとした中南米諸国における保健医療の現状や課題に関する認識を深め、医療の国際展開に対する関心を高めた。さらに2015年2月には、日系病院への支援として日系研修「日系医学」集団コースを実施し、6つのブラジル日系病院医師や経営者12名を受け入れた。研修期間中には「国際医療展開におけるブラジル日系病院との連携セミナー」が開催され、日本政府、JICAやMEJ(メディカル・エクセレンス・ジャパン)などの関係機関、民間企業・団体、そして日系社会が連携していくことの有効性が認識された。本研修をきっかけに民間企業一社が開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業(補正予算:健康・医療特別枠)に採択された。2015年11月には、日本経済新聞、ブラジル商工会議所共催の日伯医療セミナーにおいて入柿理事が登壇し、医療分野における技術協力及び海外投融資事業について紹介し、日系病院や医療関係の企業と連携した事業展開を提案した。2017年1月には日本の医療法人、社会福祉法人及び民間企業から構成される「ブラジル日系医療機関との連携調査団」を派遣した。その結果、調査団員はブラジルの日系人・日系団体による医療分野における貢献及び卓越した業績を各日系病院等の事業運営を視察・意見交換した上で実感した。

また、日系人・日系団体を足掛かりとしてまたはパートナーとしてブラジルへの事業展開及び技術協力の可能性のヒントを得た。

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「ブラジル日系医療機関との連携調査団」派遣:調査団参加企業による製品の紹介

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サンパウロにて「日伯医療福祉セミナー」開催

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都内にて「国際医療展開におけるブラジル日系病院との連携セミナー」開催

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日系人医師らを招へい:株式会社日立メディコのショールームで医療機器の説明を受ける

2.セミナーの開催

(1)中南米日系社会と連携した日本の医療・福祉分野の技術・サービスの国際展開セミナー@市ヶ谷

日時:2014年10月24日(金)
参加者:115名
発表者:JICA、JETRO、厚生労働省(挨拶)、ブラジル日系医療・福祉団体(サンパウロ日伯援護協会、サンタクルス病院、南日伯援護協会)、民間企業(富士フイルム、テルモ)、横浜市立大学医学部

(2)国際医療展開におけるブラジル日系病院との連携セミナー@竹橋

日時:2015年2月23日(月)
参加者:131名
発表者:JICA、在ブラジル日本国大使館(挨拶)、厚生労働省(挨拶)、日立製作所、東京医科歯科大学医学部、日伯友好病院、サンタクルス病院、アマゾニア病院、杉沢病院、パラナ病院、ノーボアチバイア病院

(3)ブラジル日本商工会議所、日本経済新聞社共催:外交樹立120周年記念セミナー「日伯医療連携の未来-最新技術を拓く健康社会-」@サンパウロ

日時:2015年11月27日(金)
参加者:300名
発表者(ブラジル側):保健省、ANVISA(国家衛生監督局)、シリオ・レバネス病院、アインシュタイン病院、サンタクルス病院
発表者(日本側):駐ブラジル日本国大使館、厚労省、内閣官房、PMDA(医薬品医療機器総合機構)、JICA、湘南鎌倉総合病院、テルモ、日本光電、島津製作所、富士フイルム

3.日系研修「日系医学」(日系病院関係者招へい)について

(1)目的

本研修は企業や医療機関を訪問することにより我が国医療機器及び医療サービスの先端技術に係る知識を向上させるとともに、医療関係者との意見交換等を通じて、日系病院や医師と我が国医療機関・企業とのネットワークを構築する。

(2)内容

ア.外務省や厚生労働省等の行政機関の訪問
イ.企業訪問(診断技術、治療技術等に係る医療機器や、病院マネジメント・医療サービスを提供する企業からの説明と視察)
ウ.医療機関訪問(医療機器の活用状況等の視察)
エ.医療関係者との意見交換
オ.セミナー参加・発表

(3)日程

2015年2月16日〜27日

(4)訪問・視察先

厚生労働省、外務省、MEJ、がん研究センター、東京医科歯科大学、慶應義塾大学、東京女子医科大学、日立メディコ、オリンパス、島津製作所、富士フイルム、東芝メディカル、セントラルユニ

4.ブラジル日系医療機関との連携調査団の派遣

派遣国(州):ブラジル(サンパウロ州、パラー州、パラナ州)
行程:2017年1月20日(金)〜2月4日(土)、16日間
参加企業:公募により選定した以下の10社・団体(2社・団体は自費参加)
※医療・介護分野の企業及び医療法人・社会福祉法人を対象。分野を絞ったためコンサルタントの参加も可とした。

  企業名 業種 所在地
1 株式会社きよ吉 介護コンサルティング 宮城県仙台市
2 株式会社ティーエーネットワーキング 保健医療開発コンサルタント 東京都渋谷区
3 東京女子医科大学 大学・医学教育・研究、大学病院 東京都新宿区
4 医療法人敬歯会 歯科医院、介護老人保健 神奈川県横浜市
5 株式会社シーエンジ販売 網状構造体マットレス・クッション 愛知県蒲郡市
6 西村医科器械株式会社 医療機器中古品販売・検診バス 京都府京都市
7 医療法人ゆうの森 在宅介護サービス・へき地診療所 愛媛県松山市
8 レキオ・パワー・テクノロジー株式会社 ポータブル超音波画像診断装置 沖縄県那覇市
9 株式会社トマス技術研究所 医療廃棄物処理 沖縄県うるま市
10 パラマウントベッドブラジル 病院用ベッド、周辺備品等 ブラジルサンパウロ州

5.JICA事業に繋がっている事例

中小企業海外展開支援事業-基礎調査-

対象国 事業名 企業名 都道府県 年度
ブラジル 移動診療車・中古医療機器を活用した農村部・都市部の医療環境の向上にかかる基礎調査 西村医科器械(株) 京都府 2017年度

中小企業海外展開支援事業-案件化調査-

対象国 事業名 企業名 都道府県 年度
ブラジル 医療・介護用の高機能マットレスを活用した褥瘡(床ずれ)予防にかかる案件化調査 (株)シーエンジ 愛知県 2017年度

開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業

対象国 事業名 企業名 都道府県 年度
ブラジル PACSによる遠隔画像診断技術を活用した医療連携普及促進事業 富士フイルム(株) 東京都 2014年度

日系研修

対象国 事業名 企業名 都道府県 年度
中南米12国 5S-Kaizenによる看護師の管理能力の向上 (株)ティーエーネットワーキング 東京都 2016年度
中南米12国 5S-KAIZENによる保健医療従事者の管理能力の向上 (株)ティーエーネットワーキング 東京都 2017年度
2018年度
中南米12国 在宅医療 医療法人ゆうの森 愛媛県 2018年度

※2017年度向け日系研修による保険医療分野のコースは上記含め19コース採択されている。