2018年7月12日
2018年6月16日土曜日に、シリア難民が主人公の映画「希望のかなた」の上映会と、難民支援に関わる方々をお招きして「難民×SDGs(注)」をテーマにトークイベントを行いました。127名もの方にご来場いただきました。
日本で暮らしていると身の周りで「難民」に会うことはほとんどなく、ニュースなどでしか知る機会がありませんが、UNHCRグローバル・トレンズ2015によると世界には日本の人口のほぼ半数に当たる約6,530万人の難民がいて、そのうち半数を超える51%が18歳未満の子どもだというデータがあり、残念ながらその数は今も増え続けています。
映画では、現在、世界最大規模で難民が発生しているシリア出身の男性が、難民として国を離れて様々な国を転々とし、行きついたフィンランドで生活を始めます。いわれのない差別や難民申請の却下という辛い現実に直面しながらも、人々のちいさな優しさに支えられて慣れない土地での新生活に希望を見出していくというストーリーで、アキ・カウリスマキ監督の難民三部作のひとつ。「難民」というシリアスで大きな課題を、音楽やシュールな笑いとともに描いたこの映画は、ご来場されたお客様からも「難民映画という暗くなりがちなテーマですが、ところどころに笑いがあり、最後まで観ることができました」という感想をいただきました。
映画に続くトークイベントには、難民支援に関わってきた4名が登壇。
まず、国連UNHCR協会北海道エリアマネージャーの山下芳香さんからは、映画の解説とともに、「『難民』という人種がいるわけではなく、紛争や迫害、暴力行為から逃れるために国を離れることを強いられた人々であること」、つまり誰でもそうなる可能性があることや、難民が直面する衣食住などの課題や"Searching for Syria"というシリア難民危機の実態を伝えるサイトの紹介がありました。
続いて、ヨルダンのザータリー難民キャンプで2度目の青年海外協力隊として活動してきた鈴木雄太さん、同じく青年海外協力隊として派遣されたヨルダンのパレスチナ難民キャンプでの活動がきっかけでパレスチナ支援を継続している齋藤育さん、シリアの難民女性が製作した刺繍製品の販売を行う玉置由紀さんが、それぞれの活動を紹介。
2009年に1回目の青年海外協力隊としてシリアでバドミントン指導を行っていた鈴木さんは現地で充実した日々を過ごしていましたが、2011年にアラブの春が起こって情勢が悪化し、任期途中でやむなく帰国することに。東京にある企業に就職するも、「もう一度シリア人のために何かしたい」という思いで再び短期の青年海外協力隊に応募。ヨルダンにあるシリア人の難民キャンプでは、恐ろしい体験をして感情をうまく表せなくなってしまった子どもたちに寄り添って、音楽やスポーツ、美術を通じた活動を行いました。砲撃で片足を失った子どもに「いつか生えてくるよね」と言われた時に、何も言ってあげられなかった自分。その答えを探して、現在は教育大学で心理学を学んでいると言います。
齋藤さんは、特別支援学校の現役教員。養護という職種で青年海外協力隊に応募した当時は、中東についてさほど詳しくなかったそうです。そんな齋藤さんの人生を変えたのはパレスチナ・ガザ地区から逃れてきた難民のために過ごした日々。ヨルダンにある10カ所の難民キャンプの中でも、活動していたのは最も貧しい人たちが暮らす難民キャンプ。中には70年間も難民生活を続けている人たちもいるし、キャンプで生まれた子どもたちは生まれながらに難民状態だそうです。地域に根ざしたリハビリテーションを行うセンターで障害を持つ子どもたちに音楽や美術などを教え帰国しますが、右も左も分からない外国人の自分に親切に接してくれた現地の人たちのために今度は自分に何かできることはないかと考えて、「北海道パレスチナ医療奉仕団」に入団して3年。毎年10日間ほど現地に赴き、子どもたちと活動を続けています。
ボランティア活動にはもともと関心が高かった玉置さんは、ご両親を介護の末に看取られた経験で、時間の捉え方が変わったと言います。体当たりコミュニケーションで外国人との国際交流を楽しんだり、新たに国際交流団体を立ち上げたり、仏教、キリスト教、イスラム教の三大宗教施設巡りツアーを札幌市内で企画。シリアとのつながりは鈴木雄太さんも関わるシリア写真展がテレビで紹介されていたのがきっかけ。外国に関心のある方々と地域活動をする中で自分に何かできることがないかと探していたところ、東京にある慈善団体イブラワ・ハイト(アラビア語で「針と糸」)と出会い、シリア難民女性の手作り刺繍の販売を始めることに。
そして「私たちが選ぶSDGsのゴール」を紹介しながら、背景にある思いを語っていただきました。
鈴木雄太さんは、ゴール4「質の高い教育をみんなに」。教育の機会を作る活動を通じて、新しいことを学ぶ楽しさを現地の子どもたちが感じていることを発見。SDGsと言うと海外に目が向きがちだけれど、自分は海外での経験を通じて、日本の子どもたちにも学ぶ機会の大切さを伝えたいという思いで教育大学に進学することを決めたそうです。
齋藤育さんは、ゴール4に加えて3「すべての人に健康と福祉を」を選択。自分が関わってきた教育の現場と、「北海道パレスチナ医療奉仕団」が関わる医療活動と子ども支援活動に触れながら、自分たちの活動や現地の状況を報告・発信することで多くの方々に伝わり、更にそれがひとのつながりで拡がって、難民問題を身近な問題として捉えてもらえたらと語りました。
玉置由紀さんは、ゴール8「働きがいも経済成長も」、16「平和と公正をすべての人に」、17「パートナーシップで目標を達成しよう」。日々つらいこともあるシリア難民の女性たちも、刺繍をしている間は忘れて没頭することが出来る。それが誰かの手元に届いて喜んでもらえることが生きがいや楽しみになっているそうです。刺繍グッズを購入することで難民の生活支援が出来るこの活動に引き続き関わっていきたいとのことでした。
このイベントでは、まず現状を知って、できるところから参加してみることの大切さをみなさんとともに考えるため、UNHCRやJICAが取り組む難民支援活動を紹介しました。JICAではシリア難民を留学生として最大100名受け入れるという事業を2017年から開始し、青年海外協力隊を避難先の国に派遣する活動を行ってきています。また、「UNHCRの署名運動や寄付、SNSでの情報発信に協力する、難民を支援するグッズを買う、難民映画祭を見に行く、学生団体SOARに参加する」など、今日からでも気軽に参加できる方法をご紹介しました。イベント終了後、早速グッズを購入するお客様もいらっしゃいました。
参加者の方からは、「難民に対しての関心がこれまで薄く今日、この映画イベントで知ることが出来、日本は平和だなと思いました。ただそれだけじゃなく、自分たちに出来ることは何だろうと本当に平和になるためには何が必要かと考えさせられました」というコメントもありました。
そんな中、一人のお客様が、「このイベントに参加してとても良かったです。これからも頑張ってください」と私たちに声をかけてくださいました。それを聞いて、「頑張っている人を応援したい」と思う市民の方々の一言が、私たちを大いに励まし、勇気づけて下さっているのだとしみじみ感じました。そして、今すぐに寄付をしたり青年海外協力隊に参加することは難しくても、いずれその時が来たら私たちの活動に協力・参加してくださったら、その一歩を踏み出す時のきっかけがこのイベントだったら、主催者としてとても嬉しいことだと思っております。
最後に、このイベントの主催団体として、国連UNHCR協会、一般財団法人さっぽろ健康スポーツ財団の両団体に大変お世話になりました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
(注)SDGs:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)。国連加盟国193か国が2030年までの達成を合意した、世界の共通目標。貧困削減や健康・福祉問題、気候変動対策など、多岐に亘る17の目標が掲げられており、前身となるミレニアム開発目標(MDGs)との違いは途上国だけでなく先進国を含めた全世界が取り組むものとした点。JICAやUNHCRが取り組む開発途上国の活動だけでなく、日本国内の地域における課題解決も、SDGsの達成に貢献すると言える。
(文責:JICA北海道 市民参加協力課 野吾奈穂子)