焼き物に込めた国際平和への思い

【画像】白潟 八洲彦さん

八瑞窯 代表
白潟 八洲彦さん

 昨年、青年海外協力隊OBで初めて、「現代の名工」に認定された愛媛県砥部町の陶芸家、白潟八洲彦さん。国連軍縮会議場にある平和祈念の巨大モニュメント、「生命の碧い星」の作者だ。白潟さんは1968年青年海外協力隊員としてフィリピンに渡った経験で得た平和への思いをこのモニュメントに込めたという。陶磁器の里砥部を訪ね、白潟さんに焼き物への思いを聞いた。

 白潟八洲彦さんを愛媛県砥部町に尋ねた。ちょうど砥部焼伝統工芸士展が伝統産業会館で開催中で、白潟さんもロクロの実演をすることになっていた。

 白潟さんの陶芸は、比較的厚手の焼き物が多い砥部にあって、薄さと大きさを追求してきた。その代表作のひとつがジュネーブの国連軍縮会議場ロビーにある巨大モニュメント「生命の碧い星」。国連創設50周年を祝い、平成7年、砥部町が国連欧州本部に寄贈したものだ。直径1メートル、世界平和と地球環境保護の願いをこめた国境のない巨大地球儀だ。現在は協力隊二本松訓練所に置かれている白潟さん作の直径1メートルの白い地球(生命の星)を松山で見て感激したJICA総裁も、砥部町の企画に賛同し、在スイス日本大使他、多くの人々の協力があって、ジュネーブへの寄贈が実現した。同じものが砥部町の砥部焼伝統産業会館のエントランスに飾ってある。人の身長よりも高いその大きさと存在感に圧倒される。

 地球儀上の多数の色つきシールは、この会館を訪問した外国人にその出身地を示してもらったもの。欧米、中国、韓国、東南アジアなどの訪問者が多いようだ。アフガニスタンあたりにシールがまとまっていたので、お聞きしたところ、平成15年、アフガニスタンに陶芸技術調査に行き、その後、アフガン人陶工を研修で受け入れた時のもの。やはり、協力隊OBだけあって、海外との技術交流は常に心がけているという。協力隊のほか、タイで大物ロクロの指導をしたり、中国の景徳鎮などとも交流を深めたりしてきた。

 白潟さんに巨大地球儀作り方をお聞きしたところ、いくつかの輪を分けて作り、時間をずらして積み重ねていったとのこと。底に近い部分は圧力が加わるので、他の部分よりもやや分厚く、上部は薄くしてあるそうだ。やわらかい陶土の性質を知り尽くさないと、これだけの巨大オブジェは成型の段階で崩れてしまう。

 協力隊時代にフィリピンで日本人牧師の駐在員と2人で会話中に、「一体あなたは将来どんな陶芸家になりたいのか?」と聞かれ「土の性質を活かしきった陶芸を目指したい」と答えたそうだ。その時思わず出てきた言葉だったが、その後の自分の陶芸を振り返ると「その通りになった」という。

 実演を見た。1尺の皿、1尺5寸の皿、次に2尺の大皿をロクロ成型していく。2尺の大皿になると陶土の重さが約20キロ、直径75センチほどもある。焼成で2割近く縮むのを計算してのことだ。皿の周縁部の傾斜が緩やかなほど土がへたって崩れるそうだ。一方の手で傾斜をつけながら、一方の手を皿の下に入れてその土の重みを支えるように成型していく。額から汗が滴り落ちる。かなりの重労働だ。「これ以上傾けると落ちます」と白潟さんが言った途端に皿の縁から土はグニャと折れ曲がってしまった。「どの程度まで土が自身の重みに耐えられるか、それは何度も失敗して分かっていくしかない。」と締めくくった。職人は知識や勉強だけではない、繰り返し失敗して上達していくのだ。

 なぜ協力隊に参加したのか?白潟さんは28歳まで従兄の窯で手伝いをしてきたが、「このままの状態で働き続けていいのか、自分の道をもっと積極的に求めた方がいいのではないか」との迷いがあった。その思いを世話になった従兄には言い出しかねている時に協力隊員の募集に出会った。「砥部から飛び出すならばいっそ周りも反対しないだろう。2年間の時間も重要だ。」と考えたそうだ。
 13年間の従兄下での修行において、実力を養ってきた白潟さんは、今度は派遣国のフィリピンで陶芸指導を充実させた。自ら蹴りロクロや焼く窯を造り上げ、現地の陶工たちや一般市民、子どもたちにまで、ロクロの面白さを伝えた。言葉がある程度できるようになるまでは、身振り手振りで互いを理解しようと必死だった。現地の人々とのそういったやり取りから、「言葉以外のコミュニケーションの深さを学ぶことができた」と言う。

 帰国後、自分の進路をまだ決めかねている時、砥部に戻ると、窯場を改築する従兄から道具類を譲り受けたことから、帰国後すぐに自分の窯を持つことになる。JICAから専門家として海外で技術指導をしないか、との誘いもあったが、地元愛が深い白潟さんは、一生を砥部に腰を据えようと考えたのだ。しかし、協力隊時代に築き上げた経験と人脈が幸を呼び、タイでの大物ロクロ指導(JICA)、アフガニスタン復興支援(国際交流基金)など専門家同等の国際協力を、陶芸を通じて続けている。今後はカンボジア支援も視野に入れているようだ。

「現代の名工」という賞をもらった後の現在も変わらず、世界平和を願う気持ちを胸に、今日もロクロを回す。

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生命の碧い星(砥部町)

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アフガニスタンで轆轤を回す

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タイ磁器最大の壺

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繊細な陶芸 職人技が光る

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協力隊時代の薪窯

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現在の白潟さん