「すべてはつながる」

【画像】保坂 行徳さん

古民家宿 空音遊(くうねるあそぶ) 宿主
保坂 行徳さん

 四国の中央部分、徳島の西部に位置する三好市。西日本第二位の高さを誇る「剣山」や吉野川の自然が作り出した「大歩危・小歩危」、深いV字渓谷「祖谷(いや)渓」。雄大な自然が残るこの土地に魅せられ、I ターン者として定住し、観光促進で地域活性化をめざす住民の中心若手メンバーとして活躍されている青年海外協力隊の経験者がいます。
 千葉県出身の保坂行徳さん(1998年4月から2000年4月までアフリカのボツワナへ「自家発電機」という職種で青年海外協力隊として派遣されていました)は、築約90年の古民家を利用した「古民家宿・空音遊」の宿主。
 真下に吉野川を見下ろすことのできる古民家宿は、お茶摘みやうどん打ち、薪集めから始まる五右衛門風呂体験など自然や田舎の生活をゆっくり体験していただけるだけでなく、畳の広間で宿泊客同士が語りあったり、キッチンで一緒に料理をしたりと、初めての人どうしでもつながりが持てる出会いの空間として演出されています。
 定住して7年、今では、「にし阿波観光圏」の観光従事者や行政関係者の皆さんのネットワークで、高齢化の進む地元榎(えのき)地区の住民自治などのなかで、また宿を訪れたゲストどうしで、などさまざまな立場の人々を“つなぐ”コーディネーターとしての役割を担っておられます。

Q:祖谷に定住しようと思ったきっかけは?

 関東の電気会社で4年間勤務した後、“何か人に必要とされるようなことがしたい”と思い、青年海外協力隊へ参加しました。アフリカのボツワナに派遣され、国内の学校や病院などを回って発電機を設置したりメンテナンス作業を行ったりしました。
 海外の生活で感じたことは、途上国以上に“日本のほうがこのままでは危ない!”ということでした。帰国後は元の会社で働きましたが退社、以前から興味を持っていたリバーカヤックを始めてインストラクターになり、選手としても大会に参加して全国を回るようになりました。
 初めて大歩危・祖谷を訪れた時に“ここだ!!”と直感で感じ、その直感に従って自然の流れで移住しました。
 自然と日本の原風景が残り、古き良き日本人が持つ、人情にふれあう事ができる場所です。農作業ができなくても、大ベテランのおじいちゃんおばあちゃんが近所にいます。木工作業ができなくても、優しく教えてくれる大工さんが近所にいます。自分に特別な能力がなくても支えてくれる人々がいます。その人と人とのつながりを築くことで、自然の中でも豊かに生きさせて頂くことができるのかもしれません。

Q:「空音遊」の名前の由来は?

 「くうねるあそぶ」のとおり、“食べて、寝て、遊ぶ”に、漢字を当てました。
“くう”は「自然の空」、“ねる”は「自然の音」、「それらと一緒に遊ぶ」、というのが初期の由来です。
 しかし二年目には、“くう”は、この宿の「空間」を意味するようになりました。また3年目には、その空間が「空(から)=無」になりました。その時の“おと”は、私を含めゲストの方の「こころのおと」です。ここに来てくださった方が一度空っぽになってリセットされたときに、自分の本当の声に気づくことができる。そして“あそぶ”は、その気付きに向かって行動していく。
 同じ漢字ではありますが、私の心の中も宿の役割も、意味がどんどん変わってきました。

Q:Iターンされた初期の様子は?

 祖谷に定住することを決めたとき、地元の方から古民家を譲って頂くことができました。当初はゲストハウスとして活用すること想定してはいませんでしたが、友人らが訪問して下さる機会が増え、素泊まりのみの旅館業の許可をとり自然と一般の方にも活用していただくようになりました。
  現在、三好市が中心になって受け入れている中学生などの体験型旅行では、毎年10校程、1校につき3〜5名の学生と生活を共にしています。
協力隊OVの方々は『まるでドミ(注:隊員宿舎)のようだ』と、訪れてくれる方も増えてきました。

Q:協力隊での経験は、現在の生活にどのようにいかされていますか?

 三好市にも、ラフティング関連の方など県外の若者が滞在されていらっしゃいますが、定住されている方はまだまだ少ない状況です。
 私の場合生まれは県外ではありますが、三好市・祖谷の住民として地区のお祭りや冠婚葬祭行事に参加したり、小学校でボランティアとしてカヌーを指導したり、といったことを通して、地域の人々と心を開いて付き合えるようになったと思います。特に祖谷観光の窓口である大歩危駅前のトイレについては、当初より気になっていた場所であり、地域の方々に呼び掛けて清掃活動を始めました。10名から始まった活動は、今では恒例行事化され、さらに、行政の方にも関わっていただくことで新しいトイレの建設にまで進展しました。
 それらは協力隊員としてボツワナに赴任した時に、任地の人々と仲良くしたり活動を効果的に進めるために努力したこととつながっています。“よそ者、若者、ばか者 が活かされたときに、その地域が変わる”、と一般的に言われていますが、協力隊活動においても、Iターン者が地域に根付く過程においても、まさにその通りなのかもしれません。

Q:三好地域のために心がけていることは?

 屋号“つながりや”に象徴されるように、“観光”をキーワードに地域全体で盛り上がっていくことができるよう、人と人との“つながり”を大切にしています。
 私の宿は“素泊まり宿”ですが、おいしいものを食べたければ、近くにおいしい地元のレストランもありますし、スーパーマーケットでは地域の食材を購入していただけます。お土産屋さんもあります。近所によい温泉もあります。また、ラフティングやかずら橋など観光スポットもあります。それら地域のお勧めスポット・おすすめ商品を、ゲストに伝えたり、私の宿のホームページやブログで常時紹介したりすることで、最近では地域ぐるみの相乗効果、経済的な効果がみられてきたように感じています。
 例えば、地元スーパーのオーナーさんは私のよき理解者の一人であり、私のアイディアをすぐに取り入れていただけます。地元食材のレシピを準備していただいたり、英語での対応を学んでいただいたりと、徐々に県外・海外からのお客様への配慮が進んできたように思います。私の宿にいらっしゃるゲストの多くが、食材をここで購入し、夜は近くの温泉のお風呂を利用されており、1軒のホテル滞在でお支払いいただく同じ料金を、地域の小規模な観光業者数軒でシェアーさせていただいている、といった形です。観光業者どうしが口コミ情報を広げることで、連泊者が増えたり、物産品等の売り上げ増加につながっています。
 また、 “三好市観光協会”、山村体験の受入れを行っている“そらの郷山里物語協議会”、大歩危地区の観光関連者でつくる“大歩危・祖谷いってみる会”、“大歩危駅前一日一個ゴミを拾う会”、“榎地区自治会”など、地域振興のさまざまな会合に参加させていただいて、ネットワーク強化に努めています。そのつながりの中では、県西部で同じような“素泊まり宿”の経営を行いたい方に向けて、登録や申請方法についてお教えすることもあり、新たな“素泊まり宿”が営業されるようにもなりました。

Q:これからの目標は?

 春から秋にかけては、体験型旅行で山間体験される中学生や、吉野川のラフティングで訪れる方、外国から祖谷にいらっしゃる観光客の方、ゆったりとした気持ちになりたいと再度訪問されるリピーターの方など、毎日多くのゲストの方に訪問していただいており、予約をお断りする日もあり、ありがたく思っています。
 冬にはその人数がめっきり減り静かになりますが、その時間は私にとっては逆に貴重な勉強の時間となっています。普段はあまり遠出ができませんが、その機会を利用して自然に添った生き方をされている方や体験型観光を取り入れている地域などを訪問し、新たなアイディアをいただいて帰ってきます。
 これからも祖谷の住民として、ご縁のある方々や、「空音遊」を訪れてくれる人々とともに成長し続けていけるよう、毎日を大切にありがたく生きさせて頂きたいです。

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隊員当時発電機を設置作業に行った地域の子どもたち

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全国を回っていたリバーカヤックの選手時代

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「空音遊」宿と宿主の保坂氏

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宿から見下ろす吉野川の景色

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協力隊OVやリピーターの方などゲストみんなでの夕食

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地域の方々との大歩危駅トイレ掃除