心の「グローバル化」を目指して

【画像】平田 百合子さん

日本語サークル「わ」の会
平田 百合子さん

 平田さんは、大学卒業後、すぐに青年海外協力隊に参加し、中米のホンジュラスで水泳隊員として活動されました。帰国後、平成7年に地域日本語ボランティアグループ『日本語サークル「わ」の会』(以下、「わ」の会)を仲間とともに立ち上げ、それから15年以上にわたり活動を続けていらっしゃいます。 

 香川県には、平成20年度現在で9千人に近い外国人の方が居住しており、他の地域同様、多文化共生への取り組みがこれまで以上に注目されるようになってきました。このような現状を踏まえ、長年在住外国人の方への支援に取り組まれてきた平田さんが、現在どのような活動を行っているのか、どのような思いで活動に取り組んでいるのか等について、お話を伺いました。

Q. 「わ」の会について教えてください。

 「わ」の会は、日本語を母語としない人たち、すなわち、外国から来て香川で暮らしている人々への日本語支援と生活に必要な情報を提供するボランティアグループです。現在は、毎週土曜日にフリークラスを開催していますが、要望があれば、学習場所や時間を相談して個別に対応することもあります。また、参加ボランティアの研修を行う目的で月二回の勉強会を開催しています。
 現在ボランティアは25名で、会社員、主婦、学生、退職した男性、日本語教師有資格者等々、いろいろな人たちが関わっています。参加動機も、「言葉」で苦労した経験があるから…という人や、異文化交流に関心がある人、日本語教師を目指したい人、外国につながるボランティア活動を行いたいと考えている人など、さまざまです。

Q.「わ」の会に参加されている学習者は、どんな方ですか?

 日本人と結婚した女性、地元の企業で働く人、留学生等いろいろな人がいます。ですから、参加目的も、日本語で子育てをする上での支援が得たい、職場でうまくコミュニケーションが図れるようになりたい、日本語能力試験に合格したい等、多様です。最近では、学校で学ぶための、日本語学習がしたい子どもたちの参加も増えてきました。

Q. なぜ「わ」の会を立ち上げようと思ったのですか?

 直接のきっかけとなったのは、県内で日本語ボランティア養成講座を受講し、関心や志を同じくする仲間と出会ったことでした。養成講座が終了した後、それぞれが個人で在住外国人の方へのサポート活動を行っていましたが、活動を行う上での悩みを相談したり、日本語支援に関する情報交換やスキルアップのための勉強をしたりするための場も必要であったため、勉強会と称して定期的に集まっていました。これが、「わ」の会の始まりです。

Q.地域に暮らす外国人の問題に関心を持つようになったきっかけは?

 協力隊の派遣から帰国した後、結婚して川崎市に住むことになったのですが、そこで隣に住んでいたのが日本人男性と結婚したフィリピン人の女性でした。たまたま子どもが同じ年ということもあり、一緒に乳幼児検診に出かけるなど、つき合う機会が増えていきました。そして、お子さんが熱を出したとき等、日本語がわからず困ることがあると、相談に来てくれるようになりました。初めての子育てで慣れないことも多く、日本人の私でさえ、大変だと感じることが多かったのに、日本語が十分にわからない状態では、きっとたくさんの不安や疑問を抱えていたのではないかと思います。
 このときの経験が地域で暮らす外国人の方へのサポートを意識する直接的なきっかけとなりました。もちろん、協力隊に参加し、自分自身が外国人としてホンジュラスで生活した時、身近な人に支えられた経験からも大きな影響を受けています。

Q.日本語支援活動を行う上で、気をつけているのはどんな点ですか?

 学習者の方の生活に密着した支援が重要だと考え、それぞれの環境にあった日本語や情報を提供することを心掛けています。これについても、協力隊員としてホンジュラスに派遣された直後の経験が活かされています。それは、現地でのスペイン語レッスンの先生が、室内のレッスンだけでなく、実際に買い物をしたり、派遣先に行くためのバスに乗ったりと、街に連れ出してくれたことや、生活に必要なスペイン語を使ってみる機会を作ってくれたという経験です。そこで覚えたスペイン語は、その日からすぐに使えるものばかりでしたし、言葉と同時にホンジュラスでの生活習慣も学ぶことができました。

Q.苦労していることはありますか?

 異なる生活環境に身を置く学習者の多様なニーズに応えるのは、難しい場合もあります。学習者が習得したい日本語は、職場でのコミュニケーションに必要なもの、大学での授業に必要なもの、親戚やご近所との付き合いに必要なもの等さまざまで、学習したい語彙や会話のスタイルもそれによって異なってきます。また、私たちが話す何気ない方言や、場面・相手に応じて言葉遣いを変えることも外国人の方にとっては、困惑すること多く、注意する必要があります。そして、漢字など、日本語の文字の複雑さには多くの学習者が苦労しています。
 また、言語面以外でも、世代の差や育った環境の違いなどから、香川での生活や習慣を受け入れる姿勢にも大きな違いがあります。しかし、これは日本人の間でも同様で、他のボランティアメンバーと長く活動していくためには、お互いの立場や視点に対する理解が必要だと感じることも多いです。

 また、ボランティアという立場の難しさを感じることもあります。例えば「わ」の会が、学校現場における児童・生徒への日本語支援に関わることになり、そのコーディネーターとして学校や行政の方と話をする機会が増えたのですが、各組織特有の「言語」やルールを知らないままでは、せっかくできた協力者や関係ネットワークに迷惑をかけてしまう、ということがわかってきました。異分野とつながって協働事業をすすめるうちに、ボランティア団体の弱点や限界があることも認識できました。

Q.学校現場における子どもへの支援事業について、教えてください。

 在県外国人の増加に伴い、日本語のサポートが必要な子どもたちの数も増えてきています。こうした状況を踏まえ、昨年度、高松市がNPOと連携して行う協働企画提案事業として「日本語支援が必要な子どもたちへのサポート活動」を提案し、採用されました。これまで、ニーズがあることはわかっていても、ボランティアが教育現場と連携することは難しかったのですが、本事業により、県内で初めて、学校でボランティアが子どもたちに支援を提供することが可能となりました。この事業は、1年限りのものでしたが、現場から継続希望があり、今年度からは高松市の事業として続けられることになりました。

Q.なぜ、学校現場でボランティアの支援が必要なのですか?

 学校には予告なしに、教育制度が違うさまざまな国から、日本語の習熟度も学年も違う子どもたちがきます。先生方は必ずしもこうした子どもたちの受け入れに慣れているわけではなく、学年相応の教科指導に併せて、非母語話者への日本語指導をどうしていけばいいのか、手探りで取り組まれているケースが多いと思われます。また、現状では、学校現場における子どもたちへの支援のために設けられている予算は限られており、職業として日本語を教える日本語教師を長期的に派遣するのは難しい状態です。ですから、継続的に子どもたちの習熟度や要望に合った日本語支援を提供するために、ボランティアが果たす役割は大きいと思われます。生活言語や心理面でのサポートも含め、ボランティアだからこそできる、隙間を埋めるような、柔軟できめ細やかな対応もあるのではないかと思っています。

Q.1年間事業を行ってみて、いかがでしたか?

 子どもに対する学校での日本語支援は、短期間で終わるものではなく、その子の成長に合わせ、日本語で学ぶことに困らなくなるまで続いていくものだと考えています。日常会話には困らなくても、教科書を読むことや各教科特有の表現に苦労するケースもあります。私たちにとって、子どもへの日本語ボランティア活動は、新しい対象者でもあり試行錯誤の連続でしたが、当初、何を尋ねても首を傾げることが多かった子どもたちが、半年後には、学校や休日の出来事について、自分から話してくれるようになっていました。
 また、明らかに使える漢字や語彙も増え、担任の先生からは、友達との会話にも積極的に参加するようになり、意思の疎通がスムーズになったという報告をいただきました。何よりうれしかったのは、毎週1回開催したこのサポートクラスに、全員が1度も休まず、参加してくれたことです。今後、改善点を含む取り組みがなされ続けることや将来的な効果への期待はありますが、事業が始まって1年半の現時点で、事業の成果を図るのは難しいと感じます。

 また、協働による事業ならではの相互協力、関係者間(NPO・学校・行政)のネットワークが強化され、現場でのニーズについても、以前より多くの情報が得られるようになってきました。それを受け、今年8月には、高松市との新たな協働事業として、子どもたちに日本語支援を行うボランティアを育成するためのサポーター養成講座を実施しました。それでも、日本語サポートが必要な子どもたち全てに対応することは難しいのですが、より多くの方に、外国につながる子どもたちのことや多文化化する学校の現状を知っていただく機会が増え、今後のためのしくみづくりに向けて、一歩を踏み出すことができたのではないかと思います。

 異なる文化的背景を持つ子どもたちが学校にいることは、周りの子どもたちに異文化接触や異文化間コミュニケーションの機会を提供することにつながると思います。こうした体験は、将来、子どもたちが「多文化社会」で生きていく上で、必ず何らかの有効な力となって発揮されるのではないでしょうか。そして、それは子どもたちに限らず、周りの大人にとっても同じことだと思います。

Q.最後にメッセージをお願いします。

 「わ」の会は、日本語支援ボランティアグループということになっていますが、実際には、支援する側、される側という区別は明確ではありません。同じ地域で暮らす人間対人間のコミュニケーションの場です。私たちボランティアは、「先生」でも「日本人の代表」でもなく、「友人」、「隣人」として、対等な立場で参加するよう心掛けています。出身地あるいは出身国が違う人たちが日本語で交流し、同じ地域でともに生活している者同士、いろいろな話題で盛り上がります。「わ」の会の活動から得るものがあるのは、学習者だけではありません。「わ」の会は、学習者にとってだけでなく、日本人の私たちにとっても大切な「居場所」となっています。

 よく「グローバル化」という言葉を耳にします。確かに、経済的にも、社会的にも、文化的にも多くのものが国境を越え、密接にかかわり合っており、私たちの生活のあらゆる面が世界と結びついていると言えるかもしれません。一方、「グローバル化」した社会で生活する人の心はどうでしょうか。まだまだ、異質と思われる者への偏見や、立場が弱いと判断される者を差別するような状況があるように感じます。心の「グローバル化」、真の「多文化共生」を願いつつ、自分自身が暮らす地域の人々とともに「心の壁」を少しでもなくせるよう、活動を続けていくつもりです。

 多文化共生の社会について考え行動する機会は、皆さんのすぐ身近にあります。新しい出会いと交流を楽しみながら、誰もが暮らしやすい地域をともにつくっていきましょう。


 平田さんは、「わ」の会の活動以外にも、四国環境パートナーシップオフィス(四国EPO)や地元の小学校で働くかたわら、「障害児者ゴーゴースクラム」というNPO法人の理事を務めていらっしゃいます。そんな多忙な生活の中、多文化社会コーディネーター養成講座を受講されたり、多文化共生(教育・社会)に関する修士号を取得されたりと、ご自身の理解を深め、より的確なサポートが提供できるよう、さまざまなことに取り組まれています。平田さんの「パワー」溢れるお話を伺いながら、人々の心の「グローバル化」が地域に根ざしていくよう、自分にできることをしていきたいと感じました。平田さんの益々のご活躍を期待しています。

【画像】

フリークラスの様子

【画像】

恒例のお花見会

【画像】

高松市のお正月の交流イベントにて

【画像】

高松市との協働事業提案のプレゼン

【画像】

外国につながる子どもたちのための「日本語サポーター養成講座」にて

【画像】

「日本語サポーター養成講座」の様子