TICOザンビア事務所長
吉田 純さん
徳島県吉野川市にある特定非営利活動法人TICOは、アフリカのザンビアやカンボジアなどで医療、農村開発などの国際協力活動を行なっているNGOです。
現在、TICOは、ザンビアでJICA草の根技術協力事業「チボンボ郡地域住民が支える安全な妊娠/出産の支援事業」を実施中。
また、海外での活動はもちろん、日本国内においても、開発教育、国際(理解)教育、広報活動をはじめ、専門分野である保健・医療を中心に被災地支援なども積極的に行なっています。
今回は、TICOザンビア事務所長の吉田 純さんにお話を伺いました。
よく聞かれるんですが、まったくありませんでした。
人生の進路を決めかねていた私は、大学受験の際、当時、流行り始めていた「国際関係学部」という“なんでもあり”なイメージの学部を選びました。
小さい頃から色々なものを見たり、体験したりという好奇心は非常にありましたので、大学院卒業後、とにかく日本から出たくてオランダへ留学しました。
オランダの大学院に所属していた時に、ジュネーブへの短期旅行を大学がアレンジしてくださって、その時偶然お会いした国連の日本人の方に国際協力分野で働くことを勧められて「じゃぁやってみようかな。」と。
その後、経験を積むためにジュネーブのNGOでさらにインターンを10ヶ月程してから、国連ボランティアへ応募したら、運よく受かってしまって。28歳になって、ようやくお給料を頂ける立場になれたんです。
国連ボランティアを2年少しした後、ラオスの日本大使館で草の根無償資金協力事業 の担当をさせていただきました。今度は、援助プロジェクトに関わる機会を得たわけです。少しでも質のいい案件をサポートしたいと思ったので、日本の政策と現地のニーズの橋渡しになれるよう、申請者の方々と内容まで踏み込んで協議したり、案件形成を一緒にしたり、過去の案件の評価や地方の現地調査もしていました。
そういう経験を経て、やはりもう一度「一つの案件にじっくり、現場レベルで取り組みたい」と感じるようになった時に、TICOの人材募集が目に入り、採用していただけました。
とにかく私の人生は、「気がついたら、なるようになっていた」という、振り返ると非常にいい加減なもので、お恥ずかしい限りです。もっと、若い皆さんのお役にたてるような回答ができればよかったんですが・・・。
大きく分けると、事務所維持管理、プロジェクト運営(案件形成、実施、評価)と人事管理の3つでしょうか。
具体的には、事務所に蛇が出れば退治して、車が壊れれば修理して。必要な書類を作成して提出し、お金の計算をし、買い物をし、スタッフやプロジェクト関係者が気持ちよく仕事ができるように環境を整える。質問されたら答える。訪問してくださる方々に、少しでもザンビアのいいところも悪いところも含めた現実を見ていただけるようにご案内する。
あ、あと事務所の犬の散歩もしてました。つまり、なんでもやってましたね。
そう感じていただけるとありがたいです。
日本人が入ってゆくと、「お金持ち」のイメージはどうしても消えません。確かに、プロジェクトを実施するために来ているわけですから、現地の方からすれば「なんでもやってもらえるかも」と思うのも自然な流れでしょう。
しかし、現実には我々のできることは限られています。少しの投入で、最大限の効果を目指しすことを繰り返し説明し、「できること」と「できないこと」をはっきりさせて、「できること」に関しては、彼らとともに真摯に実行してきたつもりです。
いずれにせよ、プロジェクトはTICOのためではなく、現地の人達のための活動ですので、彼らがやらないと意味はありませんから。この点もしつこいくらいに強調しましたね。
「彼ら自身で、できるようになる」というのが私の目標でしたので、私自身は楽をさせてもらっていたと思いますよ。「あなた達がやらないで、誰がやるの!?頑張ってやらなきゃだめじゃないの!」ってよく叱ってましたから。
「信頼されていた」というよりは、「(お母さんのように)怖がられていた」というほうが正解かもしれないですね。
TICOザンビア事務所が活動をしているのは、ザンビアの首都ルサカから100キロほど北上したモンボシという農村です。このモンボシ地区のコミュニティヘルスワーカーの人たちは、無償で活動してくれているボランティアの方々なのですが、本当に熱心な人が多く、びっくりするくらい率先して活動してくださっているので、「私など、本当に必要だったのかな」と思うくらいです。
最初の3年間のプロジェクトが終了し(「チボンボ郡農村地域プライマリーヘルスケア・プロジェクト」)、現在実施している新規プロジェクトが始まるまでの期間も、これまでの活動の継続だけでなく、新規プロジェクトがスムーズに開始できるよう、現地ボランティアの人たちがどんどん必要な作業を見つけ、積極的に動いてくださっていたので、全く空白期間を感じることなく移行することができました。
新規プロジェクト開始から、まだ6ヵ月程ですが、すでに妊婦さんや5歳未満の子どもを持つお母さん達のサポートをしてくれるコミュニティーボランティアも最初のトレーニングを終え、自分たちの担当地域の情報収集や、今後の活動プラン等を立案、実施してくださっています。
もちろん、これはJICAやTICOを通して、日本からのサポートがあるという喜びと、日本という行ったこともない国の人達が自分たちの活動を気にかけていてくれるという自負が、彼らのやる気につながっているのも事実です。日本から訪問してくださる方々との交流も重要なファクターでした。
難しいですねぇ。
10年くらいでは大きな変化は、目に見えないかもしれませんが、モンボシ地区が、近郊の地区にとって『コミュニティーレベルの保健・医療体制』のモデルとなるような地区になっているとうれしいですね。
患者さんの高次医療施設へのアクセス等運営面での問題も山積みですし、施設や資機材は時間が立てば古くなるものですので、モンボシ地区の保健・医療状況が高いクオリティーを保つのは、短期的にも長期的にも簡単なことではないでしょう。
しかし、今でもモンボシ地区は、地元のボランティアさん達に支えられているので、今後も若い世代がそれを引き継いで、地域全体で支えあえるようなコミュニティーであってほしいです。
どのような仕事でも「あいさつ」と「お礼」、そして「笑顔」ですね。関係者一人一人が、それぞれの経験や立場の下に、一つの仕事に関わっておられます。『コーディネート』という仕事は、そのばらばらなものをできるだけ同じ方向へ、そしてできるだけ高い目標へ向けて進めてゆくための調整作業です。そのためには、それぞれの関係者と前向きな人間関係をまず構築する必要があり、その上で、建設的に協議を進めてゆく必要があります。ですから、まず「あいさつ」と「お礼」はきちんとするように心がけています。妊娠出産なんて、ただでさえプライベートな問題なのに、あいさつもできない相手と「地域住民のための安全な妊娠・出産を支援するための話し合い」なんてできませんから。後は、「笑顔」でしょうか。受け入れてもらいたいと思うのであれば、自分からまず手を広げる(胸襟を開く)のが一番早い方法だと思います。その結果、時に裏切られることがあったとしても、まぁ、それはしょうがないですよね。別の人に笑顔を向ければいいわけですから。
まとめとしては、「めげない」と「気負わない」でしょうか。あ、言い訳をしているわけではないんですよ!!
※草の根無償資金協力とは:開発途上国の地方公共団体、医療機関及び途上国において活動しているNGO等が実施する、比較的小規模なプロジェクトに対し、当該国の諸事情に精通している在外国間が中心となって資金協力を行なうもの。
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