キルギスと四国の森−そこに暮らす人たちの笑顔のために

【写真】西川 達治さん(香川県出身)H4年度1次隊/ケニア/コンピュータ技術/JICA共同森林管理実施能力向上プロジェクト(キルギス共和国)業務調整/共同森林管理専門家(〜2014.1)
西川 達治さん(香川県出身)

西川達治さんは1992年から2年間、ケニアでコンピュータ技術という職種で活動後、タイやキルギス共和国で森林管理の専門家としてプロジェクトに携わり、キルギス国内で造林意欲のある森林管理署、地域住民、村役場が共同森林管理(Joint Forest Management: JFM)を実施できるよう、分かり易く解説したガイドラインの作成に取り組みました。キルギスと四国の森は似ているという西川さんにお話を伺いました。

中央アジア・キルギス共和国とは

天然トウヒ林

キルギス共和国は中国、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンに囲まれた中央アジア地域の内陸国です。1991年まではソビエト社会主義連邦共和国を構成するひとつの国でしたが、ソビエト連邦の崩壊とともに独立した世界の中でも比較的新しい国ひとつです。
キルギスの国土面積は日本の約半分の1,985万haで、人口は約550万人で北海道の人口とほぼ同じです。国土の約90%は標高1,500m以上の山岳地帯ですが、年間降雨量は全国平均555mmしかなく、植物の生育にはあまり適していません。

しかし、ソビエト連邦時代に農業生産の強化が図られ、1925 年から1950 年までの間にキルギスの森林を大量に伐採して農地に変えていきました。1930年に国土の6%を占めていた森林は、1956 年には3%にまで減少してしまいます。これをうけて1970年代には、キルギスの大半の森林に伐採制限を設定し、日常生活に必要な木材はシベリア地方から輸入していました。現在も、工業化が進んでいないため、人口の6割が農業に従事し、農業による収益はGDPの3〜4割を占めますが、農業従事者の平均収入は他産業の35%〜50%程度しかなく、総貧困層の半数以上が農村部に居住しています。

独立後の国家的な取り組み

独立後には、それまでの計画経済体制から市場経済化への取り組みが進められました。森林・林業セクターも国有林事業を民間へ移管するなど、効率的な森林経営の改革を始めます。1995 年からスイスの援助機関の協力を得て、森林法、国家森林開発方針、国家森林計画、国家森林行動計画を策定するとともに、共同森林管理(Joint Forest Management: JFM)という、森林管理署、村役場、森林利用者の合意に基づき、森林利用者が国有地及び公有地で林業経営を担う制度を導入しました。

しかし、JFM は活動の具体的な内容が定められておらず、JFM の多様な活動内容に対応するための体制も不十分だったことから、キルギス政府は2007 年にJFMを実践・推進するための関係者の能力向上及び体制の強化にかかる技術協力を日本国に要請しました。綿密な調査を行った後、JICA は2008 年に共同森林管理実施能力向上(JICA-JFM)プロジェクトを採択し、2009 年1 月から開始しました。

5年間のプロジェクト活動

砂地のパイロットサイトにおける植林風景

関係者とJFMガイドラインを作成する様子

JICA-JFMプロジェクトは、5年間のプロジェクト活動を前半と後半に大別しました。前半の「パイロットプロジェクトの実践」段階では、土地・植生・地域環境など要件の異なるパイロットプロジェクトを政府関係者の承認を得て設定しました。実施機関の期待と地域住民のニーズを考慮し、机上で理論展開するよりも現場でJFM を実践することがJFM の発展につながると考えたため、結果的には当初の目標パイロットサイト設置数の2 倍の10 箇所のパイロットプロジェクトを立ち上げました。

パイロットプロジェクトは森林管理署、地域住民、村役場の相互利益に基づくJFM アプローチの利点を実証しており、プロジェクトの後半では、その知見を基に「JFM の普及」活動を行いました。まず、キルギス国内で造林意欲のある森林管理署、地域住民、村役場が直ちにJFM を実施できるよう、分かり易く解説したガイドラインの作成に取り組みました。

キルギスの政令は、多分にソビエト連邦時代のものを流用し、独立後に各セクターが実態に即す様に加筆しているため、森林林業制度と密接に絡む土地制度、農業制度、地域社会制度の各政令と齟齬が生じないよう心掛けました。またガイドラインのドラフト版を基に、キルギス国内の全森林管理署と関係する村役場を集めて10 回の会合を開き、パイロットプロジェクト以外の地域の意見を集約しました。そして精度の高いガイドラインをキルギス語、ロシア語、英語で発行し、その発行と共に政令化に至っています。全てのパイロットプロジェクトが成功裏に実施され、キルギス全体において効果的なJFM 活動を推進するための知識と経験が蓄積でき、その教訓を抽出したのがガイドラインです。

プロジェクトの枠を超えた活動成果

学校林のギンドロ植林

プロジェクトは森林管理署、村役場、地域住民がWin-Win になる関係を目指し、現在では、小規模なパイロットサイトで全植林区画にテナントが貼り付き、大規模なパイロットサイトでもテナント応募者数が増加しています。このことからJFM パイロットプロジェクトにおける適正なJFM アプローチが、林地を拡大し、地域住民の雇用を創出し、社会的不満を軽減したことで、プロジェクトの枠を超えた活動成果に達したといえます。また、JFM パイロットプロジェクト実施にかかる副次的効果として、農業や観光など他の地域産業を刺激したケースも散見されました。

あるパイロットプロジェクトで示されたアンズ林の造成は、経済的に大きな成功を収めており、そのパイロットサイト近傍では、地域住民が率先してJFM を始めています。プロジェクトの調査では、プロジェクトの支援地区以外の4 つの森林管理署、3 つの村役場で新たにJFM 活動が開始しており、JFM アプローチによって、森林造成を通じた地域振興が、全国展開されることが期待されています。

キルギスと四国の森

キルギスの天然トウヒ林の様子

プロジェクト活動期間中に幾度となくパイロットサイトや地方の村を訪れ、林地を視察しました。時には天然針葉樹林に入り、実生の調査を行いましたが、その際、必ず思い出す風景がありました。高山の絶壁に自生した天然針葉樹は、まさに徳島の小歩危で見上げる山の景色と同じです。キルギスには意外にも四国御出身の方が多く、山林を見る度に四国の方がキルギスで御活躍されていらっしゃることに、どことなく懐かしさがあるのかもしれないと納得したものでした。

JICA-JFMプロジェクトは2014年1月で終了しましたが、四国の山村振興や林産業技術はとても高く、中央アジアのみならず世界中の森林・林業・林村に大いに貢献できると確信するとともに、今後は世界の人と手を携えて発展することが可能です。キルギスと四国の森が益々豊かになり、そこに暮らす人たちの笑顔が長く続くことを願って。