『国際協力する医師』〜人との出会いから、日本・カンボジアの医療現場に携わるまで〜

2010年2月17日

 徳島県にある特定非営利活動法人TICO(ティコ)は、アフリカのザンビアやカンボジアを中心に医療・農村開発などの国際協力活動を行っているNGOです。代表は元青年海外協力隊員である吉田 修さん(1989年〜1991年まで、アフリカのマラウイで医師として活動)。吉田さんが院長を務める「さくら診療所」には元青年海外協力隊員が7名勤務し、「国際協力を続けたい」という医療関係者が集まってくるようになってきました。
 現在、TICOはJICA草の根技術協力事業(パートナー型)を2案件実施中。また海外での協力活動はもちろん、日本国内においても広報活動や開発教育、国際理解教育、国際教育などを積極的に行っています。

 今回は草の根技術協力事業としてカンボジアで実施している救急医療人材育成プロジェクトのプロジェクトマネージャーで、さくら診療所の医師でもある渡部豪さんにお話を伺いました。

医師になろうと思ったきっかけ

 高校3年当時、家庭の事情があって、「地元の国立大学へ」という周囲の圧迫がありました。(私の地元、徳島の)徳島大学は、当時は医学系か工学系しかなく、工学系には興味がなかったので、医学系を選びました。「医者になりたい!」という強い気持ちはなく、消極的な選択でした。進学してからも医者になって医療現場で働くより、公衆衛生や衛生行政に興味がありました。

さくら診療所、吉田医師との出会い

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カンボジア医療従事者に対する講習会の様子。みんな真剣なまなざし。

 大学を卒業後6年間、国や県で行政官として働きました。医療行政の世界は情報いっぱいでそれ自体は面白いのですが、知っていることの割には自分の意とするような行動ができないというジレンマに悩まされました。ちょうどそんな時に、医師として臨床研修する機会をもらったのですが、そこが野戦病院のようなところで本当に充実していました。

 ある日、研修中ずっと教えてくれていた救急医の先生が、私に「この点滴って日本ではどんどん使っているけど、アフリカにはこの点滴1本ができなくて死ぬ子供がいっぱいいる。先生はそういうのに興味がある?」と言ってきました。
 その先生としばらく日本や他国の医療制度のことを話していたのですが、「僕の外科の先輩で、NGOを立ち上げてアフリカで活動している人がいるけど、会ってみる?」と言われ、その週に、現在もTICOが継続して行なっている活動の1つである公開セミナー『地球人カレッジ』に連れて行ってもらいました。そこで、会ったのがさくら診療所院長の吉田修先生でした。

 吉田先生は今まで私が知っている人の中にはいなかったタイプの人で、「何か分からんけど凄い人!」という印象を受けました。今から振り返るとおそらく、とことん利他的なところに惹かれたのでしょうね。全然、私利私欲がなくて自分をアピールするわけでもなく、己の信条のとおり行動していくということでしょうか。

 2年間の臨床研修を終えた時、「臨床医として力を上げながら、国際保健医療の勉強や経験ができるような道がないか」と考えるようになりました。自然とさくら診療所に気持ちは向かっていきました。吉田先生や色々な人に相談したところ、吉田先生、事務長の福士さん(TICO理事、元青年海外協力隊員)はじめ、さくら診療所の職員の皆さんに温かく接していただき、ますます「ここしかない」と思いました。1年半、行政で『御礼奉公』した後、さくら診療所に迎えていただきました。

日本の医療現場と海外(国際協力の現場)の医療現場の相違点について

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カンボジア医療従事者に対する講習会の様子。何度も繰り返し練習。

 一番感じるのは、実は「日本の医療保険制度は世界で最も包括的なものである」ということです。医療器材の有無等も目につきますが、そうした医療技術の恩恵をほぼ全国民が享受できるシステムというのは凄いと思います。

 日本と海外の共通する点は、人々の熱意でしょうか。「熱い人」、「きっかけがあれば動ける人」、「どうしても動けない人」の割合ってどこの国もあまり差がないように思います。

医師として国際協力の現場にいる醍醐味とは・・・

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渡部医師自らが患者役に。

 現在、カンボジア医療従事者に対する研修・ワークショップなどを実施していますが、現地カンボジアの医療技術者が知識や技術を身につけて、変わっていくのを見るのが一番でしょうね。自分も臨床医や公衆衛生医として、できなかったことがだんだんできていく喜びを経験しました。他の国の医療技術者がそうした喜びを味わっているのを見ると、自分がお手伝いできていると感じます。その時は本当に嬉しいです。自分自身もまた知識・技術を伝達することで勉強になっています。

国際協力活動にも興味がある医学生のみなさんへ

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TICOカンボジアオフィス近くのカフェで一休み。

 国際協力に専念している方は厳しい道を選ばれていると思いますし、私はいつも尊敬しています。それに対して、自分は国際協力だけに専念して仕事をした経験がないので、ここでは臨床医とハイブリッドでやっている者としてメッセージを贈ります。
 日本の臨床医として、特にいろんな新しい技術を使って診療していくのは面白いです。でも、どうしても現場でやっているだけでは救えない命があるし、いくらやっても尽くせない空しさがあるのも事実です。
 そんな時、世界に目を向けたり公衆衛生や地域保健の活動を並行して行なったりしているのは、日常の仕事に新しいヒントを与えてくれ、発見をさせてくれます。
 もちろん、現実は厳しくてトラブルはいっぱいあるですが、間違いなく面白いです。
えらそうなことはいえないのですが、興味がある人はまず国際保健医療の世界にも飛び込んでみてください。そして自分の力を知ってください。その上で何がしたいか、何ができるか考えてみてもらえたらと思います。


渡部先生、どうもありがとうございました。「救える命を救いたい」という気持ちは万国共通だと思います。今後の更なるご活躍に期待しています!

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