「この空とつながっている、あの人のために」−いつでも医療にアクセスできる環境を!日本でも、アフリカでも−(2)

2010年5月19日

Q6:それでは現在、TICOさんがザンビアで実施されている保健医療分野のプロジェクト(JICA草の根技術協力事業)について教えてください。

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ザンビアでの「プロジェクト開始当時。住民保健ボランティアと会議

 ザンビアの首都から100キロくらい北上したところにあるモンボシという農村で、乳幼児のための保健医療の改善事業を行っています。ザンビア人の平均寿命は40歳そこそこですが、これは40歳以上の人が少ないということではなくて、生まれた子どものうちの多くが子どものうちに死んでいく、ということです。子どもが死ぬことで平均寿命を下げているのです。子どもが死ぬ原因はマラリアや下痢などの病気なのですが、モンボシでは病気になっても治療してもらえる診療所がありません。
 まずは最低限の医療を受けられるように診療所を建てて、診療だけでなく乳幼児検診や予防接種まで受けてもらいやすい環境を整えました。また、治療だけでなく予防も大事なことで、病気にかかりにくい丈夫な体に育ってもらえるよう、子どもたちの栄養改善にも取り組んでいます。栄養教室を開いて、お母さんたちに入手しやすい食材を使った栄養のある料理を学んでもらっています。これらの活動も、日本人が直接行うのではなく、トレーニングを受けた住民ボランティアが運営していて、これから先もずっと継続していけるようにTICOは支援しています。

Q7:田淵先生はこのプロジェクトの立ち上げ当初にザンビアへ赴任されていますね。ザンビアでの活動中、悩み、苦しんだことはありますか?

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ヘルスポスト設備について保健省や住民と討論

 NGOですので限られた予算の中で活動を進めなければならず、人員も潤沢に投入することができません。計画段階から実際の活動の導入部分は、ザンビアでほぼ全業務を私が一人で担っていました。つまり、保健医療の専門知識が活かせる場面というのはほんのわずかで、ほとんどの時間は、ザンビア政府との交渉であったり、予算のやりくりであったり、診療所建築作業の進捗管理といった「医師でなくてもできる」仕事に費やされます。ある意味、何でも一人でやらなければならない協力隊員に近いとも言えますが、実は協力隊員はJICAという後ろ盾があるわけで、小さなNGOが新しい場所で新しい仕事を立ち上げていくというのはどういうことなのか、身をもって経験させてもらいました。人にはそれぞれ得意不得意というものがありますから、不得意な仕事が全体の進行の足を引っ張ってしまって自分に跳ね返ってくると、精神的につらいものがありました。

Q8:嬉しかったことはありますか?

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待望のヘルスポスト

 この事業で建設した診療所は、日本人が診療に携わるわけではなくて、ザンビア政府に譲り渡すものとして作ったものです。でも「ザンビアのような医療過疎の場所に診療所を建てる」というのは日本人にとってもわかりやすい国際協力だと思いますし、まして医師ならばやりがいを感じない人はいないのではないでしょうか。

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開所式でスピーチをする田淵先生

 診療所の建物がほぼ完成したある日、保健ボランティアをやっている村人と雑談をしていたとき、即興で「診療所の歌」というのを歌ってくれたことがありました。村人にとって診療所は本当に待ち望んでいたものだったのでしょう。診療所ができてとてもうれしい、という内容なのですが、歌詞の中に「ドクター・タブチ、ありがとう」みたいなくだりがあって、医者冥利に尽きるなぁと感激しました。もちろん個人で建てたわけではないのですが、「顔の見える国際協力」というのはこのような形で評価されるのでしょう。

Q9:国際協力活動を実践されているわけですが、やりがいは何ですか?

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テープカット。皆が待ちに待った瞬間

 国際協力をやっている医師に対する問いかけとしてよくあるのが、「日本でも医療過疎の地域はいっぱいあるのに、日本の問題を解決しないで外国の援助をやる必要があるのか」というものがあります。答えは「日本も外国もどちらも必要」というほかないのですが、そう言いながらもちょっと気持ちに引っかかりを感じるのも確かです。それは、医師という職業が「目の前にいる病んだ人を治す」ことが基本にあるためなのでしょう。「目の前」=「日本」と解釈すれば、引っかかりを感じて当然です。でも私の場合はガーナでの協力隊経験もあって、「目の前」=「日本とアフリカ」くらいに拡大しているのです。そうなると、日本で患者さんを治療するのも、ザンビアの子どもの死亡率を下げることも、同じように「医師としてのやりがい」を感じて取り組むことができるわけです。

Q10:途上国での国際協力活動を考えている医学生に対して、コメント、アドバイスがあればお願い致します。

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ヘルスポスト開所式でお祝いのダンス

 ぜひ医師になったら国際協力の仕事に携わってもらいたいと思いますが、同じ海外に行くにしても、学生の間は「医師になったらできない旅行」をしてはどうでしょうか。バックパック一つ背負って街の路地に入り込んで、怪しげな食堂で飯を食って下痢をするだとか、すし詰めのバスに長時間揺られて水分補給もままならず脱水症状に陥るとか、短パンにサンダル履きで夜遅くまでバーでお酒を飲んでいて蚊に刺されるとか。医師になってからだと、そういう旅行は危ないと助言する立場になってしまいますから、若さにまかせてちょっと無茶ができる貴重な時期を逃さないようおすすめします。これをやっておくと、医師になって国際協力の現場に入ってからも、現地の人々の暮らしに配慮したいい仕事ができます。さもないと、たくましく日々暮らしている現地の人々を「貧しく不健康な人たち」としか見ることができなくなってしまうでしょう。
ぜひ、挑戦してみてください。

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ヘルスポストは、地域のお母さん、子供達にとってかけがえのない医療施設



 田淵先生、ありがとうございました。

 強い信念を持って、目標達成に向かって一歩、一歩、着実に歩まれている田淵先生。
田淵先生がザンビア・モンボシで打たれた布石は、これからも地域住民のみなさんによって引き継がれていくものと確信しています。
 今後の益々のご活躍、期待しています!

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