2019年10月4日
飯沼光生(アイ・シー・ネット株式会社 シニアコンサルタント)
前号のプロジェクト通信(第2号)から1年ほど経過してしまいました。南太平洋の離島での仕事ですので、遅々としてではありますが、昨年よりコミュニティ型資源管理の実現に向けたパイロット事業に取り組んでいます。今回は、そのパイロット事業の状況についてご紹介いたしたいと思います。
私が担当しているJICA CBRMプログラム(CBRM:Community-based Resource Management)では、コミュニティ主体の沿岸資源管理を効果的に推進していくことを目指して、「管理手段」と「支援手段」を組み合わせた「統合型CBRMアプローチ」を推奨しています。「管理手段」とは、コミュニティが水産資源を保全・管理する活動にあたり、海洋保護区(MPA:Marine Protected Area)の設定、漁獲・収穫のルール作りなどがあたります。「支援手段」は、コミュニティが継続的に資源管理に取り組むための側面的な支援活動にあたります。貝殻を加工した民芸品作りや、漁村の未利用地を活用した野菜栽培など、漁村の地域資源を活かした生計向上の取り組みになります。この二つの歯車を組み合わせることで、より多くの住民が積極的にCBRM活動に参加して頂き、漁業省が行う現場指導・研修を通じてCBRMについて学び、コミュニティが自発的にCBRM活動に取り組むことを目指しています。
2018年6月から、ガダルカナル州西部のティアロ湾(Tiaro Bay)を対象コミュニティとして、漁業省のカウンターパートと協力しながら、生計向上活動と組み合わせた統合型CBRMアプローチ実践のパイロット事業を始めています。2017年には漁業省の指導で、コミュニティ住民で組織された「ティアロ湾海洋保全委員会(Tiaro Bay Marine Conservation Committee:以後、資源管理委員会と呼びます)」が発足しました。この資源管理委員会が、海洋保護区の設定・管理、タカセガイ(高級貝ボタンの材料になる)の保全・収穫管理、漁業省が湾内に敷設した浮き魚礁(FAD:Fish Aggregating Device)の管理などに取り組んでいます。JICAプログラムでは、管理手段と支援手段の両面から、資源管理委員会の能力開発に向けた統合型CBRMアプローチの実践に取り組んでいます。そして、統合型CBRMアプローチの実施経過や効果を検証していきます。現在、ティアロ湾のパイロット事業で取り組んでいる、CBRMの管理手段は以下になります。
ティアロ湾コミュニティは、沿岸リーフ全域を海洋保護区(MPA)として設定して、リーフ内で生育する貝類、ナマコ類、リーフ魚を保全することを決めました。しかしながら、リーフ内の資源状況について聞いてみると、「沢山いる」、「減っている」、「小さくなっている」との住民各自の印象による回答がほとんどで、住民とのインタビューや議論で、海中の資源状況を具体的に把握するのは容易ではありません。そのため、漁業省職員が指導して、コミュニティ青年が定期的に海に潜り、リーフ内の貝、ナマコ、リーフ魚を観察・計測して、より具体的に水中の資源状況を把握する頂くことに努めています。コミュニティ住民による計測のため、専門的に見ると精度は高くはありませんので、正確な資源量の推定に至りません。しかし、コミュニティ住民が定期的に海中の生物状況を観察することで、コミュニティ内で資源状況を共有するきっかけになり、具体的な対策を議論できることが期待されます。
コミュニティが主体的に水産資源を管理する上でのルール作りが重要です。コミュニティが検討して合意した管理ルールを「資源管理計画(Resource Management Plan)」と呼んでいます。現在、漁業省やNGOのチームが国内各地のコミュニティを巡回して、コミュニティ住民による資源管理計画の作成に努めています。資源管理計画には、管理対象の種類(魚類、ナマコ、貝類など)、管理手段(保護区の設定、漁法の規制、禁漁期の設定など)、違反へのペナルティ(罰金など)、資源管理委員会の構成や役割、などが記載されます。この資源管理計画に則って、資源管理委員会が中心となり、コミュニティが自発的に水産資源を管理することが期待されます。
JICAプログラムは、漁業省の指導で作成した資源管理計画の実施に向けた、コミュニティ主導でのアクションプラン作成を指導しています。プロジェクト・サイクル・マネージメント(PCM)手法による住民参加型の計画立案手法を応用して、コミュニティ住民とのワークショップを通じて、資源管理計画の実施に向けた課題を議論して、課題の解決に向けた解決策や活動を検討しました。このワークショップで検討された活動リスト(アクションプラン)を参考にして、対象コミュニティでのパイロット事業を実施しています。
コミュニティが漁獲する魚介類の量やサイズを把握することも、コミュニティ主体の水産資源管理では重要なポイントです。しかし、コミュニティ住民は点在して居住していますし、また、漁獲魚の多くはコミュニティ内で食していますので、なかなか実際の漁獲量を把握するのは難しいです。さらに、ソロモン諸島のほとんど地域には公共電気が通っておらず、ほとんどのコミュニティに冷蔵庫がありません。漁獲した後に保冷保管できないため、沢山に魚が捕れても腐らせてしまうことも少なくありません。
JICAプログラムでは、小型のソーラー冷蔵庫ユニットを、CBRM活動を実践するコミュニティに設置して、資源管理委員会がソーラー冷蔵庫を管理するように指導しています。ソーラー冷蔵庫の設置は、漁獲魚を長く保管して、漁獲魚を商品・食材として活用してもらうことに有効です。さらに、ソーラー冷蔵庫への入庫記録を記帳することで、コミュニティ内の漁獲量の把握にもなります。コミュニティによる漁獲記録は、沿岸域の水産資源を推定する上で重要ですが、現状ではほとんどありません。
また、資源管理委員会がソーラー冷蔵庫の保管料を集めたり、集荷した魚を販売したりことで、資源管理活動の資金源にもなります。こうしたソーラー冷蔵庫を起点とした、コミュニティによる資源管理の取り組みを支援しています。
このような資源管理活動を、漁業省とコミュニティが協力・連携しながら、ティアロ湾のCBRMパイロット事業を実践しています。次回のプロジェクト通信では、上記の「管理手段」を支える「支援手段」についてお話したいと思います。