プロジェクト通信(第4号)コミュニティ主体の沿岸資源管理・利用による生計向上のためのアドバイザー

2020年1月20日

飯沼光生(アイ・シー・ネット株式会社 シニアコンサルタント)

前回号(第3号)のプロジェクト通信では、コミュニティ主体の沿岸資源管理(CBRM:Community-based Resource Management)を実践する上での「管理方策」についてお話いたしました。しかしながら、「管理手段」を実践して、沿岸域での漁獲・収穫を調整することは、沿岸コミュニティとしては、漁獲・収穫から得られていた食糧や収入を多少失うことになります。将来のために水産資源を適正に管理する重要性は理解できるけれども、今まで得られていた食糧や収入を減らしてしまうのであれば、コミュニティとして積極的に資源管理活動には取り組めないという事態が起こりやすいです。

このJICA-CBRMプログラムでは、このような事態への対処を想定して、資源管理活動で制限されるコミュニティの利益を補完できるように、生計向上活動を併せて指導することを組み込んでいます。「管理手段」の取り組みを支援する、コミュニティ参加の生計向上活動を「支援手段」と呼んでいます。「管理手段」と「支援手段」が連携させながら、より効果的にコミュニティ型主体の沿岸資源管理(CBRM)が普及されることが期待されます。

現在、JICA-CBRMプログラムでは、ガダルカナル州西部のティアロ湾(Tiaro Bay)とマライタ州南部のアラカオ村(Arakao)の2つのコミュニティで、「管理手段」と「支援手段」を組み合わせた、統合型のコミュニティ主体の沿岸資源管理(CBRM)アプローチを実証するパイロット事業に取り組んでいます。そのパイロット事業の中では、沿岸コミュニティへの「管理手段」の指導と併せて、いくつかの生計向上活動の指導にも取り組み、「支援手段」としてのCBRM活動への効果を検証しています。その「支援手段」の取り組みのいくつかをご紹介いたします。

支援手段1.ソーラー発電冷蔵庫を活用した漁獲魚の流通・販売の拡大

ソロモン諸島では、遠隔地のコミュニティにまで、公共の電気が届いていません。そのため、一般の冷蔵庫を設置できず、漁獲魚を保冷保管できません。さらに常に気温が高いため、常温で魚を置いておくと、一晩で腐り始めてきます。沖合に漁に出て、大量に魚が釣れることがあるのですが、その日に食べきれずに残った魚をよく腐らせてしまいます。近年、ソーラー発電の技術が進んで、冷蔵庫を組み合わせたユニットが普及して、やや高価ではありますがソロモン諸島でも購入できます。そこで、未電化の沿岸コミュニティに小型のソーラー発電冷蔵庫ユニットを設置して、漁獲魚を保冷保管してコミュニティ内で無駄なく消費したり、さらにホニアラなどの都市部に運搬して販売したりすることを実践しています。それにより、ソーラー発電冷蔵庫を核とした、地域内の漁獲魚の流通・販売ルートを確立することを目指しています。

しかしながら、ソーラー発電冷蔵庫の運営管理では、3年ごとに充電バッテリーの交換が必要になります。そのために、冷蔵庫の運営管理を担当するコミュニティ資源管理委員会は、冷蔵庫の利用者から保管料を徴収して、将来のバッテリー交換に向けた基金作りに努めています。また、徴収した保管料の一部は、海洋保護区(MPA:Marine Protected Area)内の資源モニタリングで使用するボートの燃料費など、資源管理委員会の活動費にも充てるように努めています。

支援手段2.バックヤードガーデニング(裏庭栽培)の実施

沿岸コミュニティは、沿岸域の漁獲・収穫される水産資源を貴重なタンパク源としていますが、また同時に森の中で焼き畑農業を行い、キャッサバ、タロイモ、マメなどを栽培して食糧を得ています。食糧確保としては、海域の資源よりも陸域の資源への依存度がより大きいことから、沿岸域の資源管理活動の促進では、陸域資源の有効利用を組み合わせることで、相乗的な効果が得られることが期待されます。また、コミュニティ内の農作業は主に女性たちが担当しており、野菜栽培の取り組みを「支援手段」として加えることで、多くの女性たちが沿岸資源管理に触れて、積極的に参加するきっかけになることも期待されます。

沿岸コミュニティ内の居住地の裏側にあたる傾斜地は、日当たりも水はけも良く、根菜や野菜などの畑作に適しています。しかし、焼き畑農法では住居に火が飛び移る恐れがあるため、農地としてほとんど利用されていません。そこで、長年に亘り、伝統的な有機農法の指導・普及に取り組む、地元NGO「カスタムガーデン」と連携して、焼き畑ではなく、刈り取った雑草などを集めて有機肥料として利用する、バックヤードガーデニング(裏庭栽培)の導入に取り組んでいます。カスタムガーデンの指導の下、コミュニティ内の未利用地を開墾してモデルファームを設置して、コミュニティ住民が協力して、トウモロコシ、豆、白菜などを作付け・栽培管理を行います。また、収穫物はコミュニティ内で販売して、その利益を資源管理委員会の活動資金に充てることにしています。

支援手段3.海洋保護区を活用したエコツアーの取り組み

今後のパイロット事業での取り組みとして、コミュニティが管理する海洋保護区を観光資源として有効活用する、コミュニティ主体のエコツアーの準備も「支援手段」の一つとして考えられます。コミュニティ資源管理委員会が中心となり、漁業省や観光省の指導を受けながら、宿泊施設を整備したり、エコツアープランを検討したり、エコガイドを育成したりなど、コミュニティ関係者がワークショップ形式で議論していきます。そして、コミュニティ自身で、沿岸資源管理と連携したエコツアーの実現を目指したアクションプラン(活動実施計画)を取りまとめます。

現時点では、遠隔地での電話網や公共交通は未整備のままであり、そのようなコミュニティへの連絡やアクセスはまだ容易ではありません。しかしながら、バヌアツ豊かな前浜プロジェクトで実践されているように、ソロモン諸島においても資源管理と地域観光の連携は喫緊の課題です。数年先を見据えた準備はとても大切です。

その他にも、農業省の技術支援を得た「養蜂」の指導、漁業省内での「浮き魚礁プログラム」との連携、シェルマネーなどの貝細工作りの導入なども、ソロモン諸島における沿岸資源管理の促進に向けた「支援手段」と考えられます。人手や時間に限りのある中でのパイロット事業であり、想定されるすべての「支援手段」の検証は難しいです。しかし、パイロット事業を通じて、「支援方策」としてのコミュニティ参加の生計向上活動を通じて、より多くのコミュニティ住民が資源管理に関心を示して、実際の管理活動に参加するようになり、「管理手段」との相乗的な効果は十分に示されたのではないかと考えています。

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ティアロ湾では、ソーラー発電冷蔵庫を拠点して、コミュニティ内の漁獲魚が集めて保冷保管している。

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冷蔵庫内で漁獲魚を保冷保管して、コミュニティ住民に販売したり、ホニアラに運搬して販売したりしている。

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NGOカスタムガーデンの指導により、コミュニティ住民が協力して未利用の傾斜地を開墾して、裏庭栽培実習用の試験圃場を設置した。

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発酵したココナッツ殻と腐葉土を活用した、野菜育苗用のナーセリー作りをコミュニティの女性たちに指導した。

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ティアロ湾コミュニティでのバヌアツ水産局員の歓迎式の様子。外部の訪問者・観光客への対応を考える、良い実践の機会になった。

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ティアロ湾コミュニティの女性たちによる、伝統的なダンスの披露の様子。こうしたダンスは、大切な観光資源となる。

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農業省の技術支援を得て、支援手段の1つとして「養蜂ワークショップ」を開催した。陸域の自然資源の有効活用と、コミュニティ内の資源管理意識の醸成を目的とした。

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ホニアラの養蜂家から蜜蜂コロニーを分けて頂き、ティアロ湾コミュニティに養蜂箱を設置して管理して頂いた。