プロジェクト通信(第5号)コミュニティ主体の沿岸資源管理・利用による生計向上のためのアドバイザー

2020年3月13日

飯沼光生(アイ・シー・ネット株式会社 シニアコンサルタント)

ガダルカナル州西部・ティアロ湾でのタカセガイ収穫のモニタリング指導

2018年より、ガダルカナル州西部のティアロ湾(Tiaro Bay)を対象とした、コミュニティ主体の沿岸資源管理(CBRM:Community-based Resource Management)のパイロット活動を行っています。ティアロ湾では、湾内の沿岸は主に岩礁になっており、でこぼこで起伏のある地形になっています。そのため、小さな貝が隠れる場所が沢山あるため、タカセガイやシャコガイが多く生育しています。かつては螺鈿細工の材料として商品価値が高いヤコウガイも湾内に数多く棲息していたとのことで、一度、スクーバ潜水調査を行ってみました。しかし、残念ながら湾内でヤコウガイは発見できず、今は棲息していないようです。

タカセガイ(通称名で、正式和名はサラサバテイ)は、太平洋に広く棲息する円錐形の巻貝です。日本でも琉球諸島を中心に棲息しています。タカセガイの貝殻を磨くと白く輝くことから、高級服の貝ボタンの材料として重宝されており、国際市場で貝殻が取り引きされています。ティアロ湾では、独特の岩礁地形からタカセガイが増殖しやすく、資源が豊富にあることから、タカセガイ資源をどのように適切に管理して持続的に活用していくかが、ティアロ湾コミュニティでの沿岸資源管理の大きなテーマになっています。漁業省の指導の下、2017年にティアロ湾海洋保全委員会(Tairo Bay Marine Conservation Committee)が組織されて、2018年よりこのJICAプログラムが係わる形で、海洋保全委員会と漁業省が連携して、タカセガイの資源管理の強化に取り組んでいます。

ティアロ湾でのタカセガイの収穫は、持続的な資源利用を目的として、毎年10月の5日間に限っています。収穫期間は、毎年、海洋保全委員会で協議して決めています。また、3年の周期で、1年目と2年目のタカセガイの収穫利益はコミュニティの公共活動(カトリック教会、小学校、診療所の整備や地域イベント)に、3年目の収穫利益は、前浜のリーフを所有する家族の生活費に充てることも、海洋保全委員会で取り決めています。海洋保全委員会の協議には、ガダルカナル州水産普及員や漁業省のCBRM担当官も参加するようにして、コミュニティが適切な手順で、適切な管理方策を取れるようにアドバイスしています。

特に、2019年10月の3年目のタカセガイの収穫は、リーフを所有する家族が収穫利益をすべて受け取れるため、1年目や2年目よりも乱獲気味になる恐れがありました。そうした過剰な収穫を避けるために、州水産普及員と漁業省CBRM担当官が収穫期間にティアロ湾に出向いて、海洋保全委員会と共同で、コミュニティによるタカセガイ収穫を監視・指導することにしました。漁業省のCBRM課は、2016年に設けられた、まだ新しい部署になります。CBRM課では、海洋資源保全の啓発や資源管理計画の作成支援など、コミュニティへの教育指導・啓発活動に主に取り組んでいますが、今回のように、実際に漁獲や収穫の現場に立ち会い、コミュニティと一緒に資源管理方策を実施・指導することは初めての試みになります。

素潜りの採集ですので、実際に収穫できる量は自ずと限界があります。しかし、資源管理のために、小さなサイズと大きめのサイズの貝は繁殖用として収穫しないことを、徹底させることが重要になります。漁業省が定める沿岸漁業規則では、タカセガイについては、貝殻の直径が8cm以上、12cm以下を収穫可能サイズと定めており、それ以外のサイズの収穫は違法として刑事罰や罰金が課せられます。実は、この収穫可能サイズは、商品としてサイズ基準とも関係しています。貝殻が小さすぎても貝ボタンの材料にならず、また、貝が大きいと貝殻が厚くなり過ぎて、これも貝ボタンの材料として相応しくなく、市場価値がないのです。こうした基本情報ですら、コミュニティには十分に伝わっていないのが、ソロモン諸島の現状です。そのため、バラバラのサイズでタカセガイを収穫して、重い貝殻を苦労してホニアラに持ってきても、業者は半分しか買い取ってもらえなかったということがよく起きています。残りの半分は小さすぎ、または大きすぎのサイズで廃棄するしかなく、資源面の無駄が生じるだけでなく、経済面での大きな損失になるのです。

どのようにコミュニティを指導すれば、コミュニティが適切に資源管理方策を理解してもらえるのか。このような現場実践を通じて、漁業省カウンターパート一人一人が考えていきます。何が正しく、何ができるかは、これが正解というものはありません。その場の状況に応じて考えて、条件の中で工夫していくことが大切です。また、コミュニティ海洋保全委員会も、こうした取り組みを通じて、自分たちが定めた資源管理方策を具体的に実践する良い機会になります。こうした地道な現場での取り組みにより、沿岸資源管理に係わる行政官やコミュニティリーダーの育成に取り組んでいます。

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ティアロ湾では年5日間に限り、タカセガイ収穫を解禁している。素潜りで岩礁に隠れている貝を見つけて収穫する。

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収穫したタカセガイはカヌーに集められる。漁業省職員と海洋保全委員のチームは湾内を巡回して、カヌーに集められた貝のサイズを確認する。

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クリックボードに収穫可能サイズを記しており、収穫した貝サイズを一つ一つ確認する。

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海の上で定規を使ってサイズを測ることに慣れない人が多いので、手のひらの大きさを測定して、手の平を目安して収穫可能サイズを判断するように指示する。

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収穫したタカセガイを浜に水揚げした後に、各家族で収穫した個数と重量を記録するように指導する。

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収穫したタカセガイは塩ゆでにして、中身を取り出して食べる。タカセガイは貝殻が商品であるが、中身の貝肉は貴重なタンパク源である。