平和促進に手ごたえ:第3回全国スポーツ大会

2018年3月15日

長期化する紛争に解決の糸口を求めて

南スーダンは人口約1200万人(国連経済社会局人口部, 2017)、40以上の民族が居住(UNOCHA, 2009)する多民族国家です。20世紀後半、半世紀に亘る独立紛争では数百万人が亡くなり、大勢が国外に逃れました。2011年に独立を果たし、世界一新しい国家として歩み始めましたが、2013年12月、政府軍と元副大統領支持派武装勢力による衝突が起こり、国内の治安が大きく悪化しました。これ以降、約200万人が国外に難民として逃れています(UNHCR, Feb 2018)。紛争が長期化し、暴力が繰り返される中で、特定の民族への不信感・憎悪感が生まれ、増長されることが懸念される中、全ての民族が南スーダン国民として互いを認め合い、統一国家としての結束することが課題となっています。

この状況下、2016年1月、平和と結束をテーマとする全国スポーツ大会(National Unity Day:以下「大会」)が南スーダンの首都ジュバで初めて開催されました。南スーダン文化・青年・スポーツ省(以下「スポーツ省」)が、JICAの協力を受け、国民の交流、友好と結束を促し、市民レベルからの和解と平和の促進に貢献することを目的として企画したものです。この取組へのJICAの協力は継続し、第3回全国スポーツ大会が2018年1月27日から2月4日の9日間に亘りジュバで開催されました。大会には300人強の若者が全国12地域から集い、サッカー(男子)、バレーボール(女子)、陸上競技のほか、平和や社会問題に関する啓発セミナー、文化交流行事に参加しました。

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第3回国民スポーツ大会は12地域を代表する309人の若者が参加

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陸上は南スーダンがオリンピック出場(リオ・初出場)を果たした唯一の競技

南スーダン随一の国民イベント

レモー・スポーツ省タスクフォース長は「ジュバの誰もが大会の話でもちきりだった」と誇らしげに言います。平和と結束をテーマとするこの大会は、サッカー16試合、バレーボール9試合、陸上8種目に加え、開会・閉会式、選手と市民の交流を図る「平和・文化デー」、大会告知のために市内3箇所で開催した市民啓発イベントを含めれば、全3週間に亘る大規模なイベントです。厳しい経済情勢の今の南スーダンでこのような規模で、かつ市民の誰もが無料で楽しめる行事はありません。

大会の告知がソーシャル・メディアを通じ発信されると、多くの南スーダン人から熱烈歓迎のメッセージが寄せられ、期間中には大勢の市民が会場へ足を運びました。会場で実施したアンケートでは、「色々な地域から来た選手がスポーツし仲良く交流しているのを見て、平和を体験できた。この国全体がこんな風であってくれればいい」や「大勢が一堂に会しスポーツを応援することで生まれる一体感に感動した」等、数多くのコメントが寄せられました。異なる地域を代表する若者が全力でプレーする力強い姿は、観戦する大勢の子どもたちにどのように映ったでしょうか。

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食い入るように試合を見つめる観客(バレーボール)

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サッカー決勝戦に湧く観客

女子の活躍

南スーダンでは、女性の社会での活躍の場は限られています。女子は水汲み、洗濯、食事の支度等家事を手伝い、幼い兄弟姉妹を世話し、成人を待たずに結婚・出産するケースも多くあります。性暴力の被害にあう懸念や、学校にトイレがない等の制約もあり、女子の中等教育進学率は男子の半分です(UNESCO, 2018)。スポーツへの参加機会も必然的に限られています。

女子にも活躍の場を提供し、さらに、国民に女子の活躍ぶりを印象付けることで、「男は外、女は内」というジェンダーに起因する固定観念に挑戦すべく、第3回大会では初めて女子バレーボールを競技に加えました。全国から計5チームの参加が実現し、女子の大会参加者率が、前回の21%から36%に改善しました。

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ワラップ地域対アッパーナイル地域

選手の声

全国12地域から集まった300人強の若者は、10日間の合宿生活を通じ、他の地域、他の民族の同世代の若者と交流しました。彼らは競技のほか、フェアプレー、身近にできる平和促進、男女平等、エイズをテーマとする啓発セミナーにも参加しました。参加者を対象に実施したアンケートでは、「スポーツという共通の喜びを通じ、皆が一体になれる。スポーツは平和促進の手段として有効だ」といったスポーツの結束力を確認するコメントや、「大勢の観衆の声援を受けただ嬉しかった。もっと技を磨きスポーツ選手として成功したい」等、競技者ならではのコメントも寄せられました。

選手から最も多く寄せらせたコメントは参加者同士の交流を評価するものです。「自分の民族以外の若者大勢と一緒に時間を過ごしたのは人生で初めて。合宿所は大会テーマである『結束(Social Cohesion)』をまさに体現していた」や「他の参加者と文化、生活、関心事について話し、他の地方について学べたことが一番よかった」といった選手の声がありました。また、将来について、「サッカー・アカデミーを開き、民族の違いを超えたチームを育てたい」とスポーツ交流に夢を語る選手や、「少女の早婚の風習に反対。女性も結婚以外の選択肢もあると伝えたい」と啓発セミナーからの学びを受けた声もありました。選手たちがそれぞれ学びを持ち帰り、将来の南スーダンを担うリーダーとして、人々が互いに認め合い平和裏に共存できる社会づくりに貢献することが期待されています。

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「平和と文化デー」では綱引き、踊り、借り「人」競争などで交流

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啓発セミナーで「社会が結束するには各自が置かれた場所でしっかり役割を果たすことが大事」と説くUNMISS文民連携部講師

支援の輪の広がり

全国スポーツ大会が目指すのは、出身地域・民族・性別等に起因する先入観や偏見を取り除き、人々が多様性の価値を認め合い、互いに尊重し、共存する社会の実現です。このコンセプトへの支援の輪が広がっています。第3回大会開催にあたり、日本からは、鈴木大地スポーツ庁長官から祝辞が寄せられたほか(注)、日本バレーボール協会が寄贈したボールとネットが公式試合に活用されました。また、スイス開発協力庁からの航空運賃の支援で、陸上とバレーボールの8チーム、122人が地方からの参加を実現しました。国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)からは、開会式でのシアラー事務総長特別代表挨拶のほか、バングラデシュ施設隊による競技場の整備と開会式でのパフォーマンス提供、啓発セミナーへの講師派遣の支援、国連ラジオ放送による大会広報活動への協力がありました。

大会への支援は援助機関のみならず、民間企業からも得ることができました。サッカー・ユニフォームは、オーストラリアのサッカー衣料メーカーAMS 社による寄贈、メダルやトロフィーは、フランスに本社を置く物流会社ボロレ・ロジスティックス社から購入資金の支援がありました。大会の告知メッセージは、携帯電話会社Viva Cell社から無料配信の協力を受けました。さらに支援の輪は一般市民にも広がりました。資金難により移動費を工面できず、参加を一旦断念したレイク地域のサッカーチーム(前回優勝)は、ラジオ番組でそのニュースが放送されると市民から寄付がよせられ、参加を実現しました。

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開会式でパフォーマンスを披露する国連南スーダン共和国ミッション・バングラデシュ隊

そして後日談

第3回大会には、アッパーナイル及びユニティーの2地域の代表として、UNMISS保護下のジュバの避難民保護区域(以下「保護区域」)に暮らす若者が参加しました。この2地域は、元副大統領派反政府勢力の拠点があることから激しい戦闘にさらされ、ジュバの保護区域にはこれら地域の出身者が多く避難民として生活しているのです。このうち、ユニティー地域を代表するサッカーチームは大会で健闘し4位となりました。大会中、大勢のジュバ市民から温かい声援を受けたこと、民族に関わらず身の危険を感じることがなかったことに勇気づけられ、さらに大会後、大会での活躍を認められジュバのサッカークラブにスカウトされたことを機会に、同チームのメンバー数人が今では保護区域を出て、市内の親戚の家で暮らしているという嬉しい報告がありました。民族を理由に命を危険にさらされ、家族や知人を殺害された経験により植え付けられた恐怖心や、関与した民族への憎しみと不信感を拭うのは容易でないことは想像に難くありません。この大会が、社会とのつながりを取り戻す契機となったのであれば、目標とする社会の実現に一歩貢献したと言えるのではないでしょうか。

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試合後、奮闘を称えあうユニティー地域と東エクアトリア地域の選手