ジェンダー分野の取り組み:紛争下に置かれる女性に必要な支援とは

2018年6月7日

南スーダンのジェンダー課題、JICAの取り組み

2011年7月にスーダンから分離独立した南スーダンでは、長年の紛争中に女性が兵士から性的暴行を受けてきたほか、世帯主であった男性を殺害されたり、家を追われたりしたため難民・国内避難民としての苦しい生活を強いられてきました。また政治的・社会的・経済的にも女性の地位は低く、男性と比べて教育や医療等の基礎的サービスが行きわたっていません。強制的に早く結婚させられる女子も多く、妊産婦死亡率は10万出生あたり789人(日本は5人)(World Bank, 2015)と世界で最も高い国の一つとなっています。

南スーダン政府は、ジェンダー・子ども・社会保障省(以下、ジェンダー省)を中心として女性への暴力の撤廃、また社会サービスや経済活動等様々な面で、女性が男性と同様の機会を得られるよう取り組みを進めてきました。2012年には国家ジェンダー政策(National Gender Policy)が策定され、あらゆる差別や暴力のない国と、男性・女性・子どものすべての人が人権を享受する公平な社会を目指すとしています。

JICAは2016年より、南スーダンにおけるジェンダー主流化(注1)や農業・商業活動における女性の経済的エンパワメント(注2)に向けた取り組みを支援してきました。体系的な情報収集を行うため複数の調査事業を実施し(注3)、南スーダンのジェンダー概況・課題について明らかにするとともに、並行してジェンダー省・他省庁のジェンダー担当官、関連NGO人材等を対象に、ジェンダー主流化のトレーニングを実施しました。また2016年より3年に亘り、3月8日「国際女性の日」にかかる首都ジュバでの啓発活動、セミナーの開催等を支援しています。

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ジュバ近郊女性事業者への聞き取り調査の様子

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2016年「国際女性の日」において開催したパネルディスカッションにて

(注1)ジェンダー主流化とは、あらゆる分野でのジェンダー平等を達成するため、すべての政策、施策、事業の計画、実施、モニタリング、評価の各段階で、ジェンダーの視点に立って課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセスを指す。またジェンダー平等とは、男性と女性が同じになることを目指すことではなく、人生や生活において、様々な機会が男女均等であることを目指し、それを達成するために男女が共同で取り組むという考えを指す。

(注2)経済的エンパワメントとは、経済的参加と機会について男女の格差を認識し、これを解消するために取り組むことを指す。主に女性の能力強化や起業支援、経済的地位向上を目指した環境整備や啓発等が多く行われる。

東アフリカ諸国との共通点と相違点

2017年8月には、「女性・社会的弱者の経済的エンパワメント」をテーマに、その推進を担う南スーダン、ウガンダ、ルワンダ、ケニアの中央ジェンダー省・関連省庁の担当官、NGO・市民組織の関係者等約30名を招聘し、政策や課題、支援事例についての知見共有を目的としたワークショップをウガンダで開催しました。

参加のあった4ヶ国においては、いずれも中央レベルでのジェンダー政策が策定されており、女性や社会的弱者の起業家支援や優遇政策にかかる基本的な方針が示されています。また彼らの置かれた環境として、主に農業生産や販売において、非常に小規模なインフォーマルビジネスに従事する傾向があるが、多くは法的保護がないうえ、初期資金やローンサービスへのアクセスに乏しく、ビジネススキルの不足、低い識字率等が障害となり経済的な力をつけることが難しいという「経済的に成功するための能力開発」にかかる共通課題が見られました。また、いずれの国においても男性優位の社会通念により、たとえ女性が収入を得られたとしても男性の家族に収入用途を決められてしまうという「家計をコントロールする権利を持てない」問題も共通して存在していました。

一方、同4ヶ国における政策の実施程度には大きな差が見られました。例えばルワンダでは、独立した「ジェンダーモニタリング局」が各省庁の施策・予算策定においてジェンダー平等が保たれているかを監視し、事業実施予算が提案書コンペを通して非政府組織(NGO)に配分される仕組みが確立しています。ウガンダではNGOの支援活動が盛んであること、また地方政府によるコミュニティ支援が上手く機能していることで、組織化された多くの女性起業家が存在しており、女性の経済的地位を押し上げています。ケニアでは多様な政策の実施とともに、調査や統計データ収集にも注力し、民間企業の取り組みも盛んです。

南スーダンでは政情不安や経済の悪化、政府予算の不足により、一連の制度・政策は整えたものの実施が伴わないという状況が存在しており、例えば省庁間会議や職員のトレーニングを行うための予算がなく、人材が育たない、女性の起業支援を行うための事業が実施できない、といった状況が起こっています。また、420万人にも及ぶ難民・国内避難民(UNHCR, May 2018)はより一層厳しい環境下に置かれています。政策実施の促進においては、同様の課題をかかえながらも一歩進んだ施策を行う近隣国の取り組みから学ぶ部分が多くあるようです。ワークショップにおいては、南スーダンからの参加者からは「ウガンダ、ルワンダ、ケニアいずれの国からも学ぶところがある」という声が聞かれ、ルワンダの参加者とは早々に協力の相談を始める姿が見られました。

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4ヶ国のジェンダー省職員がワークショップで各国の政策を比較

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ウガンダの職業訓練センターを視察

必要な資金をどのように確保するか

一般的に途上国においてジェンダー支援にかかる予算は不足がちであり、必要な資金をどのように確保するかは大きな課題の一つです。しかしジェンダー主流化の取り組みは、ジェンダーに配慮した予算策定やジェンダー視点でのチェック機能強化など、必ずしも多額の資金を必要とするものではありません。他方、政治的な後押しが不可欠であり、同時にジェンダー支援に携わる省庁への技術的指導、サポートを充実させることが肝要です。また中央政府への支援と合わせ、特に地方コミュニティの支援に長けた地元政府やNGO活動を活性化させ、民間ビジネスにおいて女性が活躍するための施策も必要です。限られた資金を有効に活用し、このような支援を行っていくことが望まれます。

同様に、支援対象者である女性や社会的弱者がビジネスを始めるための資金も不足しており、南スーダンでは数百円、数千円程度の資金が準備できないため起業ができないという状況が見られます。JICAが支援した調査事業のひとつ、首都ジュバにおける女性起業家のビジネスにかかるフィールド調査では、脆弱な経済状況におかれた女性は銀行等から起業資金の借り入れができず、「サンドゥク・サンドゥク」と呼ばれる少額の短期コミュニティローンを用いて相互に助け合い、限られた売上金をコツコツためてビジネスを拡大する事例が多く見られました。この仕組みにおいては、例えば5人のグループが一人毎月100円を出し合った場合、一人ずつが順番に500円を受け取ることができる、というもので、利息の支払いが不要でありながら、計画的に貯金をし、短期間にまとまった金額のお金を受け取ることができるというメリットがあります。古くは日本でもこのようなコミュニティローンが広く機能していました。このような仕組みであれば、支援機関の貸付金を必要としないため、側面的サポートを持続的に行っていく余地があるかもしれません。

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ウガンダで利用されているコミュニティローンの管理簿

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首都ジュバで女性が売るFoul madamas(炒りピーナッツ)とTamia(ひよこ豆のコロッケ)

求められる支援とは

JICAは現在、ジェンダー省への直接支援のみならず、実施する事業の様々な場面においてジェンダー主流化を促進しています。例えば、南スーダンから年間60名程度を日本に送り出している研修や留学生事業では参加者の男女比に配慮し、教育支援で作成する教材においては男女の描き方に留意するなどしています。2018年に開催した第3回南スーダン全国スポーツ大会では、女子参加率向上に努めるとともに、参加者を対象としたジェンダー啓発イベントを開催しました。今後は南スーダン政府との協議に基づき、特に農業分野での支援や、女性の経済的エンパワメントに注目した取り組みを進めていく予定です。経済的エンパワメントにかかる取り組みは、土地や財産にかかる権利やファイナンス支援、能力開発や起業家支援等多岐にわたり、紛争下にある地域の文化・社会的背景を踏まえた包括的な取り組みを必要とします。様々な分野で幅広い開発支援を行うJICAの強みを生かし、息の長い支援を実施していきます。

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男女の家事分担を可視化するトレーニング

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ウガンダ北部で研修を実施