「和解のための職業訓練」による平和構築

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東 大作さん

平和構築とは、国連によると「紛争後の地域において、国家の再建を通じ、紛争の再発を防ぎ、平和を定着化させる活動」と定義されている。1989年のナミビアを筆頭に、国連はカンボジア、ルワンダ、東ティモール、コソボ、シエラレオネなどの国々で平和構築の支援を行ってきた。

東大作さんはNHKのディレクターとして、平和や戦争についての番組を企画・制作していたが、2004年に平和構築の専門家を志すことを決め、カナダへ留学するために退職した。2008年には、博士課程の研究者としてアフガニスタンと東ティモールで現地の政治指導者や軍閥関係者、国連関係者などへの聞き取り調査や地元住民へのアンケートなどを行った。それを基に、平和構築のあり方についての提言をまとめた『平和構築−アフガン、東ティモールの現場から』(岩波新書)を2009年6月に出版。その中で平和構築における和解の重要性を強調し、アフガニスタンでの平和構築の方法として「和解のための職業訓練」を提案し、その実現のために最も貢献できるのは日本であると述べている。

アフガンでは、2001年から国際社会とアフガン政府による平和構築が行われているが、治安は安定するどころか、悪化の一途をたどっている。武装勢力タリバンとの和解の方法を軸に、今後のアフガン支援の提案、平和構築の可能性について話を聞いた。

−NHKでの仕事を辞められ、平和構築の研究に入られた動機を聞かせてください。

子どものころから、平和について関心がありました。小学校6年生の時には空襲で家族を失った近所の人から話を聞いて作文を書き、高校生のころは核戦争後の地球について学習発表をしたり、核軍縮による経済効果の研究などをしたりしていました。両親が広島で被爆したため、平和を身近な問題として考えていました。

NHKに入局してディレクターとなってからは、国内は主に犯罪被害者について、海外は平和や戦争をテーマとして番組の企画、制作に取り組みました。1998年に、ベトナム戦争時のアメリカと北ベトナムの指導者、ロバート・マクナマラ元米国防長官とグエン・コ・タク元北ベトナム外相の対話とインタビューを基に構成した番組「我々はなぜ戦争をしたのか−ベトナム戦争・敵との対話」を制作しました。

その後、中東和平に関する番組なども制作し、2004年にはイラクの平和構築・復興に関してどのような政策をとるか、ブッシュ政権(当時)と国連事務局の攻防について、アナン国連事務総長(当時)などに密着取材した番組「イラク復興 国連の苦闘」を制作し、番組は同年4月に放送されました。

ディレクターの仕事を一生続けることもできましたが、取材や番組制作を通じて、国連や第三者が紛争国で平和の実現のために果たす役割を実感し、当事者として平和構築・和平調停にかかわりたいと思い、2004年にカナダのブリティッシュ・コロンビア大学大学院で国際政治を学ぶため、NHKを退職しました。2006年にMA(修士課程)を修了し、その後PhD(博士課程)で研究を行っています。

−平和構築を必要とする国が多々ある中、著書ではなぜ、アフガンと東ティモールを研究対象に選ばれたのでしょうか。

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アフガンでの現地調査に協力してくれた軍閥のリーダーと。2008年(写真:東さん提供)

平和構築の一つの重要なファクター(要素)として、国連が主導的な役割を果たすケースと、ある特定の国家が主導的な役割を果たし、国連が限定的な役割しか持たないケースがあります。アメリカ主導型の典型的な例はイラクで、アフガンもその一つです。

アメリカがブッシュ政権だった時代、アメリカのネオコン(新保守主義)と呼ばれる人々の中には、国連のようなマルチな枠組みよりも、アメリカが単独で新しい国づくりをする方がうまくいく、と考える人々がいました。しかしその方法が植民地主義的だと、現地の人々から拒否される可能性がある。多少効率が悪くても、国連のような枠組みの方が国づくりにはよい面が多いのでは、ということを検証したいと考え、国連の主導による国づくりの一例である東ティモールと、アメリカ主導型のアフガンで現地調査を行いました。

−著書の中で、アフガン支援における和解のための職業訓練を提案されていますが。

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アンケート調査への協力のために集まった人々。カンダハル、2008年(写真:東さん提供)

タリバンのリーダーとの和解は、彼らの主張する社会制度(極端なイスラム法解釈による社会制度)の受け入れなどが条件になる可能性があり、難しい面もあります。しかし、反政府勢力と呼ばれる人々の中には、タリバンから給料をもらうため、もしくは部族の生き残りのために戦闘に加わっている人が多い。そういった、生きるために戦う人たちとの和解は現実的に可能だと思います。何を彼らに提示すれば戦闘をやめて社会に参加してくれるかを考える場合、生計を立てるための代替手段を提示し、生活に希望を持ってもらうことが大事だと思います。

その方法として、国連に対し「和解のための職業訓練」を提案しました。この点について、JICAは「基礎職業訓練プロジェクト」注1を通じてアフガンの9地域に職業訓練校を設置し、若年失業者や避難民などへの職業訓練を行っています。その実績を生かし、反政府勢力兵士との和解と彼らの社会復帰を、他の支援国や国連と協力して進めることができれば、日本は独自の方法により、アフガン支援において主体的な役割を担うことができると考えています。

具体的な提案としては、職業訓練校をアフガン全土に設置し、訓練生には給料を支払う。例えば、タリバンが支払う給料が月100ドルならば、職業訓練校の生徒には150ドルを支払い、訓練中も生活できるようにする。また、訓練生が元タリバンばかりでは不公平になるので、原則として、元タリバン兵士と一般のアフガン住民を半々にして、彼らが肩を並べて勉強することも一つの和解となると思っています。

アフガンの復興支援には、日韓首脳レベルで協力の合意もあります。例えば日韓が共同でこの「和解のための職業訓練」を立ち上げ、国連とも協力しながらアフガンでの和解を進めていければ、新しい日韓関係を築く上でも、アフガンの復興にとっても意義が大きいはずです。

アメリカのオバマ政権もアフガンでの和解の重要性を認識しています。イラク戦争が泥沼化し、アメリカは2007年にイスラム教スンニ派武装勢力との和解を始め、アルカイダと手を切ることを条件に和解に応じた人に月360ドルの支払いを行いました。その結果、劇的に治安が改善しました。アフガンではより長期的な雇用の機会を作る職業訓練が相応しいと考えていますが、「経済的な支援を伴う和解の重要性」をイラクの例が示していることは事実だと思います。

(注1)JICAの「アフガニスタン基礎職業訓練プロジェクト」(2005年5月〜2009年3月)は、職業訓練の指導員を養成し、その指導員が地方で除隊兵士に対して職業訓練を行う方法で全国に展開した。プロジェクトは2005〜2006年に除隊兵士を対象に、2006〜2009年には対象を除隊兵士だけでなく若年失業者、難民や避難民などの社会的弱者にも広げ、9地域の職業訓練センターにおいて板金・溶接、配電、コンピュータ分野の職業訓練を行った。

−今後はどのように平和構築に携わりたいとお考えでしょうか。

今後は国連の政務官や大学の教員、研究機関の研究者のような立場から、平和構築、和平調停にかかわっていきたいと考えています。また、世界中で行われている平和構築への支援の重要性を、日本の人々に伝えていきたいとも思っています。

−それを伝えるためには、どのような例が挙げられるでしょうか。

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カンダハルの街角で出会った子どもたち(写真:東さん提供)

まず、相互依存の世界で生きていく上では、日本がどんな国であるかを他国に知ってもらう必要があります。例えば、平和を定着させるために努力する国として知られることは、日本人全体にとって意義があると思います。日本は孤立して豊かな生活を営めるわけではなく、世界中の国々から日本製品を買ってもらうことで豊かになりました。他国と付き合うことで日本が初めて豊かさを享受できる以上、平和構築は日本の国の姿を世界に知ってもらう一つの方法になると思います。

アフガンの平和構築がなぜ必要か、ですが、それはアフガンの人々にとって生存をかけた問題であると同時に、アフガンに平和が定着しなければ、周囲の国々が無法地帯になってしまう可能性があるからです。隣国パキスタンは核も保有しており、それが過激派の手に渡るようなことになれば、危険は日本にもおよびます。またソマリアのように紛争が長期化すると、海賊対策にみられるよう大きなコストも伴います。

アメリカ政府は9.11(アメリカ同時多発テロ)以降の8年間、巨額の軍事費を支出しました。しかし世界がもし安定していて、その半分でも国庫に残っていたなら、現在の不況に、より大胆な景気回復策を打ち出すことができたでしょう。今後、アフガンに平和が定着して、軍事費を削減できれば、それをアメリカ国内の雇用対策や社会保障費などに回すことも理論的には可能です。このように、平和構築を通じて世界が安定することは、先進国の軍事費を削減し、そこに住む人たちの福祉の向上につながる可能性が十分にあります。さらに、アフガンや東ティモールなど平和構築を行っている国々を含め、開発途上国への支援や投資を増やすこともできるようになるでしょう。このことは、そうした地域で生きる人々にとっては死活問題です。また、感染症対策や地球温暖化など、世界全体で取り組むべき問題にも、より大きな予算をつけることができる。つまり、平和構築の成否は、先進国、開発途上国を問わず、回りまわって私たち一人ひとりの生活にも大きく影響します。だからこそ、日本が平和構築に真剣に取り組むことは意義が大きいと考えています。

<プロフィール>
東 大作(ひがし・だいさく)
1969年、東京生まれ。1993年、NHKに入局。ディレクターとして、「我々はなぜ戦争をしたのか−ベトナム戦争・敵との対話」(1998年。放送文化基金賞受賞)、「犯罪被害者はなぜ救われないのか」(2000年)、「憎しみの連鎖はどこまで続くか−パレスチナとイスラエル」(2002年)、「核危機回避への苦闘―韓国・米朝のはざまで」(2003年)、「イラク復興 国連の苦闘」(2004年。世界国連記者協会銀賞受賞)などを企画・制作。2004年に退職し、同年8月にブリティッシュ・コロンビア大学大学院(カナダ)に留学、2006年にMA(修士課程)を修了。現在は同PhD(博士課程)コースで国際政治を専攻。
2008年2月、5〜6月に国連アフガン支援ミッション(UNAMA)の協力を得て、アフガンで政治指導者や軍閥関係者などへの聞き取り調査、地元住民へのアンケート調査を実施。同年10〜11月には国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)の協力の下、東ティモールでも同様の調査を行う。それらの現地調査を基に『平和構築−アフガン、東ティモールの現場から』(岩波新書)を2009年6月に出版した。そのほかの著書に『我々はなぜ戦争をしたのか』(岩波書店)、『縛らぬ介護』(葦書房)、『犯罪被害者の声が聞こえますか』(講談社、新潮文庫)などがある。

文責:広報室広報デスク 相原理歩