伊藤隆文青年海外協力隊事務局長に聞く

民間企業や自治体、他国との連携でグローバルな人材育成に貢献

ボランティア派遣は、技術協力、有償資金協力、無償資金協力と並ぶJICAの重要な事業の一つだ。中でも1965年に始まった青年海外協力隊事業は、これまでの45年間で3万5,000人を超える隊員を開発途上の国々へ派遣し、世界の貧困削減と日本の青年育成に寄与してきた。

時代とともに、青年海外協力隊の活動範囲は広がりを見せ、民間企業との連携も活発に行われるようになってきた。内向きの若者が増えているといわれる中、日本の将来を担う人材育成にもつながり得る協力隊事業の現状と課題について、伊藤隆文青年海外協力隊事務局長に、鈴木規子広報室長が聞いた。

グローバル化に伴う協力隊へのニーズ変化

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「内向きと言われる若者に海外に出る機会を与えつつ、相手国に貢献するだけでなく、グローバルな視点を持つ人材育成にもつなげたい」と話す伊藤事務局長

−協力隊の発足当初は、米国政府の国際ボランティア機関・米国平和部隊(ピースコー)を手本にしてさまざまな草の根事業を展開してきましたが、特に近年、グローバル化が進む中、協力隊に対する国内外のニーズは変化してきています。これに対して、どう取り組んでいくのでしょうか。

青年海外協力隊の目的として、(1)開発途上国の発展と復興に貢献すること、(2)途上国との友好親善、相互理解を促進すること、(3)ボランティア経験の社会還元――の三つを掲げています。

近年の国内のニーズの変化に対し、私たちが業務を行う上で重視しているのは、ボランティア経験の日本社会への還元、つまり、人材育成です。「グローバル人材の育成」は、2010年6月に閣議決定された新成長戦略の中にも盛り込まれているキーワードであり、まさにそこに、青年海外協力隊事業は大いに貢献できるのではないかと考えています。

現職参加やCSR活動などを通じた民間企業との連携

―具体的に、どういう形での貢献が可能でしょうか。

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ケニアで文化財保護を支援する隊員(左)。青年海外協力隊は多様な活動をしている(2010年5月撮影)

青年海外協力隊が従来から取り組んでいるのが、民間企業からの現職参加(注)の促進です。1980年代には、現職参加が約30パーセントを占めていましたが、今は残念ながら、15パーセントを下回っています。

そんな中、日本IBM、日立製作所、東京電力、日産自動車、日本電気(NEC)などの大手民間企業には、以前から現職参加の隊員をたくさん送り出していただいています。NECのCSR推進部長の話によると、社員が青年海外協力隊に参加することは、企業としての社会貢献の一環であると同時に、協力隊の経験によって、より消費者に近い感覚で物事を考えられるようになるという人材育成の観点からも評価していただいています。

―民間企業との関係でいうと、現職参加だけでなく、青年海外協力隊と民間企業が連携した活動も増えていますね。

「青年海外協力隊を応援します」と企業に宣言してもらう、「サポーター宣言」という活動を進めています。宣言のやり方にはいくつかあって、一つは、NECのように積極的に協力隊に社員を派遣してもらう方法です。ユニチカやアサヒビール、富士ゼロックスなどにも同様に応援していただいています。もう一つは、モノを通じた支援です。三洋電機には、2010年1月、青年海外協力隊を通じてアフリカの国々に50台のソーラーランタンを寄贈していただきました。三洋電機は、「世界の無電化地域に“あかり”を贈る。」プロジェクトを展開しており、隊員がそれぞれの活動現場で、ソーラーランタンの活用方法にさまざまな工夫を凝らしていることが報告されています。アフリカの人々への貢献と同時に、三洋電機のマーケティングにも役立つのではないでしょうか。

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ソニーがガーナで行ったパブリック・ビューイング。後半戦には750人以上が会場を訪れた

―青年海外協力隊事業の目的である「開発に資する」という部分を、企業の連携によって具体化した実例ですね。企業が自社の人材を育成するということだけではなく、企業活動と青年海外協力隊がうまく組み合わさっているのが、これまでと違う点ですね。

その典型的な例が、ソニーが今年6月にガーナで行った「パブリック・ビューイング」です。南アフリカで開催されたサッカーワールドカップの試合を無料で放映したのですが、ソニーのCSR(企業の社会的責任)活動の一環で、ガーナに事業拠点のないソニーが、現地の協力隊員と協働することでイベントの開催を実現できたケースです。イベントの企画・運営に携わったエイズ対策隊員にとっては、パブリック・ビューイングによって集まった人に、同時開催したエイズ対策イベントにも参加してもらえるというメリットがありました。

進展する自治体や他国ボランティアとの連携

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青年海外協力隊と他国のボランティアとの連携について、韓国との協力を提案する鈴木室長

―かつては、協力隊員だけが孤立無援で村に入って奮闘していたという印象ですが、活動の幅が広がりましたね。私がマレーシア事務所で勤務していた2009年、イオンと隊員が協働し、隊員が活動する地域リハビリセンターの障害児が書いた絵をイオンがマレーシア国内の各店舗で展示し、優秀作品をエコバッグにして販売してくれたことがありました。企業と青年海外協力隊というと距離があって、一緒に何かをやろうという発想がありませんでしたが、協働できる場はたくさんありそうですね。

こういう協力の形は、民間企業とだけではなく、自治体との間でも出てきています。宮城県との連携では、県の農業土木分野の技術者をアフリカのマラウイに派遣していますが、これは、宮城県の国際化プランの一部を、JICAと連携することによって効果的に実施するものです。日本国内で農業土木の現場が少なくなっており、技術者を現場で育てる人材育成の目的もあります。JICAとしては、農業土木分野での応募者が少ない中で計画的に人材を確保し、開発途上国からの派遣要請に確実にこたえられるというメリットがあります。

―他国のボランティアとの連携も進んでいるようですが。

2010年5月から、青年海外協力隊とシンガポールのボランティアを共同でベトナムに派遣しています。日本からは村落開発の隊員が、シンガポールからはデザインのボランティアが派遣されており、菅笠(すげがさ)の市場開拓や品質向上に努めています。他国のボランティアと一緒に活動することで協力の効果を高めるという狙いとともに、隊員の視野が広がり、成長にもつながります。これもお互いにメリットがある形での協力の展開が期待でき、今後、ラオスにも共同派遣する予定です。

「日本版ギャップイヤー」の導入を目指して

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ラオスのサイタニー郡病院。5人の隊員が地域母子保健プロジェクトで活動している(2009年4月撮影)

―グローバル人材の育成を目指し、JICAは、野村総合研究所と教育NPO「ラーニング・フォー・オール」と協力して、青年海外協力隊を活用した「日本版ギャップイヤー」という制度の研究を始めたそうですね。

今の日本の大学生は、3年の秋からほぼ1年にわたって就職活動をしますが、それによって、海外留学をする人が減っています。このような社会の仕組みの影響もあって、若者の内向き志向は深刻で、例えば、20代の出国者数が、2000年には420万人だったのが、2009年には260万人と約40パーセントも減っています。

ギャップイヤーは、大学への入学前後に海外でのボランティア活動などを通じて見聞を広める猶予期間を与えるイギリスの大学制度の一つです。日本版ギャップイヤーでは、これを参考に、大学在学中、または卒業後に1年から2年、青年海外協力隊などを通じて社会に貢献した人を企業が積極的に採用する仕組みをつくることを目指しています。

帰国隊員は、就職に苦労しているといわれていますが、一方で、京都市や横浜市など帰国隊員を優先的に採用してくれる自治体なども増えています。これには、日本で多文化共生社会が広がりつつあるという背景があり、例えば、愛知県では全校児童の半分以上が日系ブラジル人という小学校があって、先生は、異文化教育や日本語以外でのコミュニケーション能力が求められます。そこで、帰国隊員の能力が注目されているわけです。「日本版ギャップイヤー」は、まさにこういう社会構造の変化にも合致したもので、大いに検討に値する制度だと思います。

「官製ボランティア」の存在意義

―こういう歓迎すべき動きがある一方、だれでも海外に行ける時代に、なぜ「官製ボランティア」が必要なのかという声もありますが。

JICAがボランティアを派遣する意義の一つには、45年にわたって事業を継続し、安心して参加できる制度を作ってきたということがあります。安全対策や医療面でのケアなど、手厚すぎるという指摘もありますが、裏を返せば、隊員本人にとっても家族にとっても安心だということです。尻込みしがちな若者も、一歩踏み出してみようかな、という気になれる。職種の豊富さと派遣される国の多さも参加しやすさにつながっていると思います。

もう一つは、外交政策の一環としてやっているということ。JICAは青年海外協力隊の活動をODA政策の中に位置づけており、途上国の開発課題に沿った形で展開することで、課題解決のための効果的な協力が可能になります。

―効果的な協力というと、マレーシアでとても感激したことがあります。マレーシア政府が、2009年、障害者の地域リハビリテーションセンターの設立25周年記念イベントを行った際、青年海外協力隊事業が表彰されました。これは、約20年にわたって隊員が地道に協力を続けてきたからです。隊員の活動が、途上国の開発課題の解決につながっていないのではないかと言われがちですが、一人ひとりがやることには限界があるけれど、何代にもわたってボランティアを送り続けることによって染み通っていく浸透効果のようなものがあると感じました。

世界も、日本も元気にする協力隊

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スリランカのコロンボ市内にある女性更生施設で、運営をサポートする隊員(左)(2010年2月撮影)

―スリランカでは、紛争地で活動している日本のコンサルタントが青年海外協力隊のOB・OGでした。過酷な現場には青年海外協力隊のOB・OGが多いですね。JICAのアフガニスタン事務所長も青年海外協力隊のOBです。また、国際社会だけでなく、国内でも外国人との共生社会づくりや過疎の村で村おこしに努めている人が大勢います。これは立派な社会還元です。

海外で頑張っているOB・OGは確かに多いですね。例えば、日本は今、ハイチで復興支援をしていますが、PKO事務局、日本赤十字社、NGO、コンサルタントなど合わせて14人のOB・OGが活動しています。また、 JICAの事務所があるアフリカ27ヵ国の在留邦人(ボランティアを除く)の数を調べたところ、大使館、JICA、商社・ゼネコンなどの民間企業、国際機関、NGOなどの在留邦人の3割が協力隊のOB・OGでした。

これまで青年海外協力隊事務局は、そういったOB・OGの帰国後をきちんとフォローできていませんでした。しかし、OB・OGの帰国後の活躍ぶりを広く知ってもらうことは、事業の目的の一つである社会還元の一部だという認識を新たにし、「日本も元気にする協力隊」というキャンペーンを展開しています。トークイベントやインターネット、パンフレットなどを通じてOB・OGの活動状況を発信しており、これが協力隊への応募促進やサポーターの拡大につながるのではという期待もあります。

―これまでも帰国後の人材育成や社会還元について、全く見過ごしていたわけではありませんが、この45年間、多くの先人の苦労によって積み上げられてきた実績に安住していたところがあるかもしれません。本当はもっと大きな可能性があって、とらえ方によっては広げていくことができたということを、今、見つめ直しているといえますね。

自治体も含めた企業との連携、他国のボランティアとの連携、「日本版ギャップイヤー」をうまく組み合わせれば、新しい展開が期待できます。また、青年海外協力隊の応援団づくりという意味では、民間企業や自治体だけでなく、大学、NGOなどとの連携も強化しながら、開発途上国の発展とグローバル人材の育成に貢献していきたいと思います。

(注)現在、勤務している企業に身分を置いたまま青年海外協力隊に参加すること。開発途上国での経験を帰国後の仕事に生かすことができ、企業にとっても人材育成に役立てることができる。有給と無給の場合があり、有給の場合は、JICAが、企業に対して人件費を補てんする制度もある。

<プロフィール>
伊藤隆文(いとう・たかふみ)
青年海外協力隊事務局長。1978年に旧国際協力事業団(現JICA)に入団。タイ事務所、社会開発協力部社会開発協力第一課長、国際協力総合研修所管理課長、総務課長、地球環境部長などを歴任。2008年10月より現職。
鈴木規子(すずき・のりこ)
JICA 広報室長。1981年に旧国際協力事業団(現JICA)に入団。本部、マレーシア事務所などを経て、1996年、外務省へ出向し、ニューヨークの国連代表部に約2年勤務。帰国後、本部勤務の後、スリランカ事務所長、マレーシア事務所長を歴任。2010年5月より現職。

広報室広報デスク 西本知佐子