北澤豪さんが見たアフリカの光 特別レポート(2009年6月)

「みんな情熱的で、すごいパワーを持っていた」

6月末から7月にかけて南アフリカ共和国とセネガルを旅したJICAオフィシャルサポーターの北澤豪さん。JICAの支援を受けて活動するアフリカの人たちは、「生き生きして、楽しそうに自分たちの取り組みを自慢するんだ」。北澤さんはアフリカの旅で、どんな“情熱”に出会ってきたのだろう。

すべては水から始まった…

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寸劇を使って森の大切さを伝える活動に感動した北澤さん。熱心にその演技に見入る(セネガル)

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セネガルでは青年海外協力隊と話す機会も多かった。

あれは素晴らしかったよなぁ」と、一緒に旅したスタッフに語り掛ける北澤さん。セネガルでの感動はまだ続いている。農村の自立を支援するJICAのプロジェクトを訪れ、地域の人々の活動を知ったときの驚きだ。

「安全な水を確保するために、立派な給水施設が造られていた。それも大変なことだけど、すごいと思ったのはそこから先なんだ」

北澤さんはそう言って話し始めた。「メーターを設置し、使った量に応じて料金を取るようにしたんだね。そこからいろんなことが始まるんだよ。みんな水を無駄にしないで大切に使うようになる。お金がかかるからね。さらに、集まったお金の使い道は村の人たちがアイデアを出し合って決めている。村の養鶏所や製粉所はそうやって建てられたんだ。水の確保から始まったものが、コミュニティー全体を良くしていこうという取り組みに広がっているんだ。これって、すごいことでしょ」北澤さんはこれまでに何度もアフリカを訪れている。しかし今回ほど“一つの試みが地域全体に広がっていくパワー”を感じたことはなかったという。

セネガルで訪れたもう一つのプロジェクトは、農地を塩害から守るためにユーカリなどの樹木を植え、天然資源の持続的管理や生活改善を図るもの。そこでは、コミュニティーの人たちに木を植える“意味”を寸劇で教えている。

「その寸劇を僕たちの前で披露してくれたんだ。木を植える意味、森を守る大切さをとても分かりやすく表現している。地域の人々みんなが同じ目的意識を持つための工夫なんだね」

また、南アフリカ共和国では草の根技術協力事業として、JICAがNGOのアジア・アフリカと共に歩む会と協働で実施している、ズバネ小学校の健康教育と菜園プロジェクトを訪れた。菜園づくりを通して農業を学ぶ取り組みだが、その成果は学校給食の質や量の改善に結び付き、子どもたちの生活環境と健康状態の改善に大きく貢献している。

「とにかく、みんな楽しそうなんだよ。自分たちがやっていることを話してくれる姿は誇らしげだしね。うん、あれは自慢だな。どうだ、見てくれってね」

なぜ、サッカーボールを贈るのか

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ストリートチルドレン保護施設の代表と、南アフリカ共和国の子どもたちが置かれている状況について意見交換する北澤さん。

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農村の人々の自立支援について、水管理委員会から説明を受ける北澤さんの表情は真剣だ(セネガル)

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南アフリカ共和国では子どもたちとサッカー交流も

2010年6月、南アフリカでFIFAワールドカップが開催される。アフリカ大陸で初めてのことだ。北澤さんは、今回の旅でサッカー関係者とも会っている。

南アフリカでは、ソウェト(旧黒人居住区)出身でサッカーの南アフリカ代表となったシャバララ選手。セネガルでは、フランスで活躍した元代表の選手たちが運営するサッカー選手養成校を訪問した。

「サッカーは少年たちに夢を与えている。『サッカーに熱中することで麻薬や少年犯罪から救われる子どもたちがいるはずだ』とシャバララは言っていたよ。養成校ではサッカーより、勉強にかける時間の方が多いんだ。サッカーの技術も大切だけど、まずは人間形成という考えなんだね」

ワールドカップは、アフリカの子どもたちに夢を与える大会でもある。南アフリカという国の枠を超え、アフリカ全土に広がる大きな夢だ。

「僕はよく、訪ねた地域で子どもたちとサッカーをやるんだ。そして、サッカーボールを寄贈してくる。アフリカには、その地域にサッカーボールが一つしかないことが多いからね」

「しかし…」と、北澤さんは続ける。「ボールがないからボールを贈るという単純な話で済ませたくない」と言う。「どうしてサッカーボールがないんだろう、そこまで踏み込んで考えてもらいたいと思っているんだ。理由は貧困かもしれないし、治安の問題かもしれない。来年のワールドカップでは、日本の人たちはみんな日本を応援するでしょ。でも、南アフリカのチームにも声援を送ってほしいと思うんだ。ほんの少しサッカーボールのことを考えながらね…」

いくつかの現場を訪れ、人々の明るいパワーとJICAの支援の成果の広がりを実感した北澤さん。アフリカの人々の明日に向けられたエネルギーがワールドカップを機に、さらに大きな広がりを持ってアフリカ全土を照らすに違いない。北澤さんは、セネガルや南アフリカで出会った人々を思いながら、今、心躍らせている。