サッカー・ワールドカップで脚光浴びるアフリカを北澤豪さんが訪問(2010年3月)

アフリカ大陸で開催される初めてのFIFAワールドカップ・南アフリカ大会。そんな記念すべきイベントを6月に控え、アフリカへの関心が高まる中、JICAオフィシャルサポーターの北澤豪さんがカメルーンを訪れた。

ルールを守り、勝つための工夫を考えてほしい

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サッカー教室は準備体操から。子供たちも見様見真似で北澤さんの指示にしたがう

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ボール1個あれば空き地は瞬く間にサッカーグラウンドに

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図工のクラスで貼り絵にチャレンジ。好きな布を自由に切り貼りしていく子どもたち

まもなく開催されるFIFAワールドカップ・南アフリカ大会。日本の予選リーグ初戦の相手、カメルーンを北澤豪さんが訪れたのは今年3月のこと。人々の活気に包まれた市内の通りには、さまざまな国のカラフルなサッカーユニホームを身にまとうたくさんの男性たちが。中には日本代表の格好をする人もいる。北澤さんは、カメルーンのエネルギッシュな人々に圧倒されただけでなく、サッカーに対する並々ならぬ情熱も間近に感じていたようだ。

首都ヤウンデから南東に車で30分、ンフーという町には日本の無償資金協力で建設された小学校がある。ここで教員として活動するのが、青年海外協力隊の野中三起子さん。2009年3月から、体育や図工など情操教育の普及を通じ、児童の創造力・想像力を養ったり、協調性・チームワークを育む取り組みを行っている。

北澤さんの現地訪問で恒例となっているのが、子どもたちを対象としたサッカー教室。今回は、この小学校が舞台だ。到着すると、大勢の児童が歌やダンスで北澤さんを出迎える。北澤さんも輪に加わり、その温かな歓迎に応えた。

サッカー教室に参加した子どもたちは1チーム約15人×4チームの計60人。準備体操に続いて、チームごとのドリブル練習が始まった。すると、話を聞いていない子、隣のチームをぼんやり眺めている子など、みんなの意識がばらばらなことに北澤さんは気付く。そして、指示を聞かず適当に練習する子どもには、単に練習メニューをこなすのではなく、“勝つための工夫”を考えさせるなど、ルールを守ることや考え努力することの大切さを伝え続けた。

また、チームワークを重視する北澤さん。「自分がボールを持っていないときでも、チーム全体の動きを把握して、チームが勝利するために自分に何ができるか常に考え、みんなで協力してほしい」と子どもたちに話していた。

その後、ミニゲームが行われ、北澤さんも参加。時には華麗なボールさばきで子どもたちを魅了し、また時には子どもたちのプレーを鼓舞するなど、積極的に子どもたちと触れ合っていた。ゲームに参加した子ども以外にも、大勢の子どもたちが応援に駆け付け、サッカー教室は大盛況。閉会式では、北澤さんから子どもたちにボールのプレゼントが贈られた。

個性や創造性を伸ばす情操教育を

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廃材を利用した手作りサッカーボールが隊員から紹介された

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野中ボランティアに積極的に質問を投げかける北澤さん

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カメルーンの市内はサッカーユニフォームを着た人々で溢れていた

このようなサッカー人気とは裏腹に、カメルーンではサッカーボールをなかなか手にできない社会の実情がある。子どもたちは、ボロボロに擦り切れたボールや、ぐるぐるに巻いた布をボール代わりにして駆け回り、きれいなボールがなくてもサッカーを楽しむことは忘れない。

こうした背景を踏まえ、野中隊員は、図工の授業で廃材などを利用した手製のサッカーボール作りを行っている。“サッカーを愛する心”を伸ばそうというこの取り組みに、同じくサッカーを心から愛する北澤さんも感動したようだった。

続いて、教室では張り絵づくりが始まる。人の絵が描かれた紙に、子どもたちそれぞれが好きな色や柄の布を自由に切り張りしていく。

カメルーンでは、授業時間が不足していたり、器具を入手できないなどの理由で、図工や体育などの情操教育が十分に行き届いていない。しかし、それでは子どもたちの個性や創造性を伸ばしていくことは難しい。

以前から、スポーツを通じて子どもたちの心の成長や個性を伸ばすことを尊重している北澤さんも、この授業をうれしそうに見つめる。また一方で、カメルーンの初等教育の実態に思いを巡らせながら、考え深げな様子だった。

北澤さんのサッカー教室で真剣に練習に臨み、プレーに歓声を上げる子どもたち。そして野中隊員の図工の授業で、自由に、そして楽しそうに布を切り張りする子どもたち。どの顔もみんな明るく輝き、学ぶ楽しさや表現する喜びが伝わってくる。時間がない、手間がかるというのを理由に、情操教育への取り組みが遅れているカメルーンだが、机に向かって先生の話を聞くだけの授業では得られない“モノ”がたくさんある。表現すること、協力すること、努力すること、それらのすべてが人間を大きくし、いずれ国をも成長させていく力になるのだ。