北澤豪さん in フィリピン 環境問題を見つめる(2011年2月)

ごみ問題やマングローブ林の減少などの環境問題を抱えるフィリピン。
今年2月、JICAオフィシャルサポーターの北澤豪さんが現地を訪れ、日本の支援の様子を視察した。

分別されないごみの現状を目の当たりにして

【写真】【写真】

JICAはごみとして捨てられたストローやジュースパックなどを活用した商品づくりも支援。ジュースのビニールパックを縫い合わせたかわいらしい帽子を見て、思わず北澤さんも試着

【写真】

サッカー教室には30人の子どもたちが参加。ルールの徹底を繰り返し訴える北澤さん

フィリピンでは経済成長が進む一方で、貧富の格差や環境問題などの課題を依然として抱えている。中でも深刻なのがごみ問題。有害物質の発生を防ぐためにごみの焼却が法律で禁止されているフィリピンでは、処理をせずに埋め立てているのが現状で、人々の健康にも影響が出ている。

首都マニラから南西のネグロス島サガイ市。今年2月、ここを訪れた北澤豪さんは、分別されぬまま投棄された“ごみ山”から金属やプラスチックなどを探し出し、それを換金することで生計を立てているスカベンジャーの姿を目の当たりにした。この状況を改善するため、JICAはこの地で衛生面に配慮した埋立処分場を建設するための技術協力や廃棄物から堆肥を作る施設を建設。また、青年海外協力隊(環境教育)・山崎晃生隊員が地域の学校を巡回し、ごみの適切な管理・処理、3R(注1)について教えている。

「自分にできることはなんだろう」。ごみの分別というルールすら守られていない現状を知った北澤さんは、スポーツを通じてルールの意味を伝えようと提案。地元の小学生を集めてサッカー教室を開催し、最後に「スポーツではルールを守ることがとても大切。ごみの分別も同じこと。みんながルールをきちんと守ることで町もきれいになるよね」と子どもたちに語り掛けた。

(注1)ごみを「Reduce(減らす)」、「Reuse(再使用)」、「Recycle(再資源化)」の頭文字を取って作られた言葉。

病気から人々を守る日本人と出会って

【写真】

面積は22ヘクタール、ビル5階の高さに相当するパヤタス埋立処分場。そのすさまじい規模に言葉を失う北澤さん

【写真】

金属やプラスチックなど現金化できるものを黙々と探すスカベンジャー。分別されず、あらゆる種類のごみが一緒に投機されている事実に、北澤さんは驚きを隠せない

一方、首都マニラ近郊でも、毎日1000トン以上のごみが運び込まれるフィリピン最大のごみ山「パヤタス埋立処分場」を訪問した北澤さん。ここパヤタスでは、周辺住民の多くがスカベンジャーとして一日中ごみ山を歩き回っている上に、貧困層であるため栄養状態も悪く、皮膚や気管支の疾患など健康被害が深刻だ。

そこで現在、周辺住民の保健衛生や生計の向上を支援するNPO法人アジア相互交流センター(ICAN)が診療所を運営し、医師による診察や病気を予防するための保健教育などを行っている。診療所を訪れる住民の多さに、「この診療所がどれだけ住民の頼りとなっているのか」、北澤さんは感心した面持ちだった。

環境への負荷や人々の健康を考えると、ごみ山は閉鎖されなければならない。一方でそれは、ごみを売って現金収入を得ている人々の生計手段を奪ってしまうことになりかねない。「環境問題と一口に言っても、さまざまな要素が絡み合って複雑化しており、幅広い取り組みが必要だ。まずは個人個人が、目の前にある自分にできることから取り組んでいくことが大切だし、そのために協力隊やNGOが草の根レベルで人々にできることを伝えていく活動はとても重要」と感想を述べた。

子どもと一緒にマングローブを植樹

【写真】

地元の子どもたちとマングローブの苗木を植える北澤さん。1950年代に約13,000ヘクタールあった西ネグロス州のマングローブ林は、500ヘクタールにまで減少している

フィリピンの環境問題としてもう一つ象徴的なのが、マングローブ林の減少だ。ネグロス島では、かつて見渡す限りマングローブ林だった海岸部が、養殖池への転換、農地開墾、材木利用などの要因によって大規模に伐採されてきた。また、台風の発生地としても有名な島国フィリピンは、毎年のように甚大な被害を受けている。小魚などの産卵・育成場所として重要であり、台風から家を守る防波堤の役目も果たすマングローブ林の再生が急務となっていた。

北澤さんは、この地でマングローブ林の再生・保全活動に取り組むNGOイカオ・アコの活動サイトを訪問。大きく成長したマングローブ林などを視察するとともに、地元の子どもたちと一緒になって苗木の植樹も体験した。「マングローブが成長し、魚たちのすみかになるほど大きく育つまでには10年、20年という長い歳月がかかることに驚いた。せっかく植樹をしても台風でダメになってしまったり、育てるのは本当に難しい。見てみると、植樹したばかりの苗木を筒で支える工夫をしたり、海の清掃を行ってきれいな状態に保つ努力をしている点が印象的だった」と話した。

ごみ問題とマングローブ林の消失、フィリピンが抱える環境問題をつぶさに見てきた北澤さんは、「こうした苦しい状況の中でも、子どもたちがみんな笑顔で明るく、とてもたくましいかった。問題の根は深いが若い世代が多い国だからこそ、未来を感じた」と最後にフィリピン訪問を振り返った。