「給水プロジェクトを通じて見たタジキスタン」松田 和美さん vol.2

2019年1月29日

前回は、タジキスタンの給水プロジェクトに携わる松田さんから、タジキスタン滞在中に考えたことについてお話を伺いましたが、今回は、主に松田さんの携わるプロジェクトについて詳しくお話を伺います。

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給水不良解消を目指して

-今回の技術協力「ピアンジ県・ハマドニ県上下水道公社給水事業運営能力強化プロジェクト(注1)」(2017年4月~2020年4月)では、どのような事業を行っているのでしょうか?

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ピアンジ上下水道公社の井戸の修理(2017年5月21日撮影)

現在この技術協力プロジェクトでは、実際に給水に関する運営管理を行う事業体であるピアンジ上下水道公社、ハマドニ上下水道公社の技術面・運営面の改善を行っていますが、その内容は、経営、施設の運転管理、料金徴収など多岐に渡ります。

ピアンジ行政郡では、前回のプロジェクト「ハトロン州ピアンジ県給水改善計画」(注2)」(2014年6月~2016年12月)により、対象給水エリアの約5000世帯の全てに水道メーターが設置されたので、飲料水使用者自身による水需要のコントロールができるようになりました。そのため、現在はピアンジ上下水道公社による従量料金制での料金徴収がうまくいっています。

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ピアンジ行政郡では現地コンサルタント(右)が水道料金の集金係(左)に研修を行っている(2017年8月23日撮影)

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ハマドニ行政郡における水道メーター設置工事(2018年5月24日撮影)

一方、ハマドニ行政郡では、本プロジェクトが開始される前は対象地域の各世帯に水道メーターがついておらず、水道料金は定額制であったため、特に夏季は、住民が家庭菜園の灌水のために水道の蛇口を開けっ放しにし、計画の3~4倍もの水量を配水していました。このため、夏季に断水や給水圧の低下により、給水できない区域がありました。

この給水不良を改善するために、本プロジェクトでは、同地域の一部に水道メーターを設置し、水道料金を従量料金制に移行することや、住民説明会の開催を通じて、蛇口を閉めることや壊れている蛇口を修理することなどの啓発活動を行っています。

現在、約1000世帯に水道メーターを設置して従量料金制に移行しているところですが、メーターをつけた段階で、水需要の抑制効果はだいぶ出ています。

その結果、メーターを設置した地区の給水不良は完全に解消しました。今夏はほとんど断水もありませんでしたよ。

(注1)「ピアンジ行政郡」・「ハマドニ行政郡」は、案件作成時によって「ピアンジ県」・「ハマドニ県」と呼び名が異なりますが、全て同じ地名です。

(注2)ピアンジ行政郡には各世帯に水道メーターが設置されていませんでしたが、「ハトロン州ピアンジ県給水改善計画」により、給水エリアの約5000世帯に水道メーターが設置され、水道料金が世帯人数に応じた定額料金制から、使った水の量に応じた料金を課す従量料金制に移行しました。

-水道料金を従量制にすることに関して現地住民の方から反発はなかったのですか?

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ハマドニ行政郡では水道料金の従量料金制に係る住民説明会が開催された(2018年6月7日撮影)

私もこれに関してはずいぶん心配したのですが、ほとんど反発はありませんでした。住民の多くは、使った分だけ払いたいと言っています。

そもそも、定額制自体が結構高いんですよ。定額制の料金は、世帯人数によって異なるのですが、一日一人100リットル水を使うという計算で、もし一家庭5人だとすると、1ヶ月で100リットル×5人分×30日の水道料金を取られてしまいます。でも冬は、家庭菜園への散水の量が増す夏とは違ってそんなに水を使わないので、従量料金制のほうが定額制より断然安くなります。

前回のプロジェクト「ハトロン州ピアンジ県給水改善計画」においても、最初は対象地域の約1000世帯において定額制から従量制への導入を行ったのですが、結果、水道料金が安くなった家庭の方が多かったです。

そういうピアンジ行政郡での経験も踏まえ、「本当に料金が安くなるんですよ」と、今回のプロジェクトでハマドニ行政郡の住民にも説明しています。

-各上下水道公社の運営面についてはどのような指導を行っているのですか?

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パソコンで作業を行うピアンジ上下水道公社職員(2017年6月9日撮影)

例えば会計についてですが、今まで各上下水道公社は旧ソ連型方式で会計をやっていました。しかし、その会計方法は国際基準に合っていません。会計基準が不明確だと、各上下水道公社の経営状況が分からず、ドナーも会計を信用しないですよね。だから、きちんと経営状況が把握できるように、国際会計基準に沿った会計をするよう指導を行っています。

また、顧客管理に関しても指導を行っています。もともと各上下水道公社の職員は各家を回り、その徴収料金を手書きで台帳に記載していました。ただ、それを集計するにしても、台帳に記載されているデータは全部手書きなので、今月はいくら収入があったかとういうことが分かりづらいんですよね。でも、今回のプロジェクトから会計ソフトを導入することにより、収益記録をデータベース化することにしました。これにより、上下水道公社の経営に必要なデータを作っていくことができるようになります。

治安が悪化する中「工事を続行して欲しい」と住民からの強い要望があった

-これまでに苦労されたエピソードについて教えてください。また、その困難はどうやって乗り越えたのでしょうか?

前回のプロジェクト「ハトロン州ピアンジ県給水改善計画」の際に、河向かいの隣国アフガニスタン国内の治安悪化により、日本人専門家が現地に滞在できなくなり、工事を中断して引き上げられるように勧告されました。

しかし、タジキスタン政府や現地の住民から、工事を続行してほしいと強い希望があり、安全施設の建設や警察による警備を付けることで、工事を続けることができました。この時は、大使館、JICA本部、JICAタジキスタン事務所、施工業者及びODAコンサルタントが連携することで、困難を乗り越えられたと思います。

工事が再開された後も、関係者の間で治安情報の共有と安全対策の徹底を行い、最終的に2016年11月にピアンジ行政郡の給水施設の工事を無事完了することができました。

灌漑水路の水をすくって飲む少女に衝撃を受けた

-プロジェクトにおいて印象深かったエピソードがあれば教えてください。

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ピアンジ行政郡にて灌漑水路の水を使用する少女

はじめてピアンジ行政郡を調査で訪問したとき、3歳くらいの少女が、庭先の灌漑水路から濁った水をマグカップですくって、ためらいもなく飲んでいたのを見て、衝撃を受けました。生まれた時から水道施設がなければそれが普通のことで、疑問に思うこともないんですよね。

タジキスタンの中でもハトロン州はもともと、一番給水施設が普及してなかった地域でした。灌漑水路の水を飲料水として飲んでる人たちもいるんです。また、冬は灌漑水路の水がないので、住民らは給水車から水を給水しています。給水車で1回給水すると、約600円かかるのですが、それを彼らは1ヶ月に4~5回買うんですよね。そうすると、月3000円ほどの出費になってしまいます。

-東京の水道代とほとんど変わらないですね。

タジキスタンの物価は日本の十分の一(外食が100~200円程度)なので、彼らにとっての3000円は、3万円なんですよ。(注3)だから、現地の住民は水道をつけてほしいと切望しているんです。

現在は、「ハトロン州ピアンジ県給水改善計画」で整備されたピアンジの給水施設により、この少女も安全な水を飲めるようになっています。

(注3)タジキスタンの一人当たりのGDPは800.8USD、日本は38,450USDです。(2017年:IMF推計)

水の味にうるさいタジク人?

-業務をされていて何か困ったことはありませんでしたか?

実は、タジク人は水の味にとてもこだわりがあるんですよね。タジキスタンではお茶の生産はされていませんが、日本と同じようにみなお茶が大好きで、食事中にはお茶を飲む習慣があります。なので、お茶を煮出すために使われる水の味にはとても敏感です。

ピアンジの給水施設から給水される水には消毒のための塩素が添加されていますが、給水中の残留塩素濃度が高いと住民からクレームが来るんですよね。なので、安全とされる飲料水の基準を守れる最低限度(0.1mg/l)の塩素注入を行うように調整しています。

今回は、主に松田さんの携わるプロジェクトの事業内容についてお話を伺いましたが、次回は給水プロジェクトのこれから、また、国際的な課題SDGsの水道分野における取り組みについてもお話を伺います。

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プロフィール

開発コンサルタント
松田 和美さん(株式会社エイト日本技術開発 国際事業本部 水インフラ部)

大学卒業後、エイト日本技術開発に入社し、約35年間世界各国での水道関連のODAプロジェクトに携わっている。タジキスタンでの業務には2013年から約6年間従事している。

聞き手
松田 実樹
JICAタジキスタン事務所による大阪大学との連携に基づく学生インターン。
活動期間2018年10月~2019年1月