【ボランティア通信】シリーズ3 プライマリースクールでの活動

2019年9月18日

大学連携 短期派遣ボランティア
福岡教育大学4年 林 直希

2019年2月から3月の1か月間、福岡教育大学の学生7名が昨年に引き続き、野球の指導および普及活動のために大学連携(注)の短期野球ボランティアとして派遣されました。

シリーズとして、活動されたボランティアから活動内容を順次紹介していきます。

(注)1)途上国の開発への貢献、2)グローバル人材の育成を目的とし、JICAと特定大学が連携をし、ボランティア派遣を行っています

プライマリースクールの子どもたちの様子

いつも私たちが学校に到着すると、見渡す限りの教室の窓から、子どもたちの顔がびっしりとこちらを覗いてきており、大はしゃぎしています。それもそうです。彼らからすれば、見たこともない人が、見たこともない服装で、見たこともない棒などを持ちながら、訳の分からない言葉を話しているのです。地域によっては、アジア人を見ることさえ初めてという子がたくさんいる学校もあったようで、少し離れて様子を窺う子がいれば、ちょっかいを出してすぐに逃げる子もいました。

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日本の小学生にあたる、タンザニアのプライマリースクールの子どもたちは、スワヒリ語しか話せません。彼らと心が通じるかどうか、最初は不安もありましたが、ひとたび彼らと共に野球をすれば、一気に心の距離は縮みます。ヒットが打てた、ボールが飛んだ、1つ1つのプレーに素朴で大きな歓声が上がります。活動が終了する頃には、子どもたちがいくつかの日本語を覚えてくれていたり、サインや握手を求められたり、私たちが帰る時、車の周りを囲まれて、しばらく身動きが取れなくなったり、芸能人のような体験をして驚きました。最終的に、彼らは、野球と日本人に対してとても良い印象を持ってくれたようでした。

プライマリースクール向け野球ルールの意図と概要

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タンザニアでは、かつてJICAボランティアが活動した学校でない限り、ほとんどの子どもが野球を知りません。しかも、「野球の知らなさ」が日本の比ではありません。というのも、日本では野球を知らない方といっても、友人がしているのを見たり、スポーツニュースを見たりして、野球がどのようなものかは大雑把になら想像できるものですが、タンザニアの子どもたちには、それすら一切ありません。そのため、私たちは、初心者に分かり易く、それでいて本来の野球の特徴を大きく損なわないルール作りが急務でした。試行錯誤の末、作り上げたルールは以下のようなものです。まず、私たちボランティアが打ちやすいトスを上げて球を打たせ、1)打った打者は1塁手がボールを捕るまでは走っても良い、2)1塁を踏むと1点、2塁まで踏めば2点、3塁で3点、本塁で4点とする、3)打った打者は得点ごとに集まって座る、というルールを作りました。このようにすることで、それぞれ、1)走者の進塁が分かりやすくなる、2)走者に次の塁を狙う意識が生まれる、3)同じ子どもが何度も打つことを防ぐことができる、といった効果が得られました。

このように、野球の普及が発展途上の国では、子どもの実態に即して、ルール等を簡単なものに変更することが有効でした。ただし、子どもに簡単なルールのみを教えただけでは、簡単なルールが野球の正式なルールであると誤解してしまうことがあり、実際に、高校生になってもルールを誤認していた例が報告されています。そこで、今後は、技術やルール理解の発達段階に応じて、ルールを正式なものへと段階的に修正していくことが必要であり、このことを初期から見据えてプライマリースクール向け野球ルールも提案するべきであると考えられます。

おわりに-なぜタンザニアの子どもに野球を教えるか-

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タンザニアでは、サッカーが盛んに行われています。サッカーと比べ、野球は必要な道具が多く、ルールも複雑なため、普及のためには多くの課題があります。では、既にサッカーがありながら、野球を発展させようとする意義はどこにあるのでしょうか。ここでは、私が1ヵ月間の派遣を通して、自分なりに感じた野球の意義について挙げたいと思います。まず、野球には打順やポジションがあり、どの選手にも出番と責任が与えられます。ここに野球の大きな教育的意義があると私は考えます。また、野球は競技における動作の種類が多く、これも野球が難しい理由の一つとされますが、見方を変えれば、体の小さな選手であっても、バントなどの技術を熟達させることで、十分にチームの力となる可能性を秘めているともいえます。つまり、野球は、誰もが、どこかで輝けるチャンスを与えてくれるのです。派遣前、私は、タンザニアには本当に野球のニーズがあるのか、彼らに私たちの野球の魅力を押し付けることにならないか、半信半疑なところが正直ありました。しかし、1ヵ月間の派遣を終えてみて、野球は言語の壁を越え、人々を熱狂させ、感動させることができました。今、タンザニアの地に野球のニーズが確実に拡大し、いくつかの学校で野球が根付きつつあります。私自身、この活動に微力ながら貢献することができ、非常に幸せでした。

今回の活動にご協力いただいた、すべての方々に感謝するとともに、タンザニアにおける野球がますます発展することを心からお祈りいたします。