【アフリカ地域稲作収穫後処理】収穫後の処理技術向上で質の高いコメ作りを/オンラインで課題別研修を実施

2022年3月3日

コメの生産拡大に欠かせない、収穫後の処理技術

2019年に日本で実施した研修の様子

アフリカでは1990年代以降、経済成長や人口増加などに伴い、コメの消費量が急激に増え続けています。しかしながら需要の増加に対して国内でのコメの生産が追い付かず、大半を輸入米に依存する国が少なくありません。さらに2000年代後半の世界的な穀物価格の急騰は貧困層を中心に食糧不安を引き起こし、国産米の増産は急務となりました。こうした背景からJICAは2008年、国際NGO・アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)と共同で『アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)』を設立。アフリカの稲作を支援するさまざまな取り組みをスタートしました。

そのひとつが課題別研修『アフリカ地域稲作収穫後処理』です。この研修は、コメの生産拡大を目指すにあたり、栽培技術と並んで重要となる「収穫後処理(ポストハーベスト)技術」の改善を目指すものです。アフリカ諸国では、適切な収穫時期の見極めや、収穫後の品質評価方法・保管方法など、基本的な知識や技術の不足から起こるコメの品質低下や生産ロスが大きな課題となっています。輸入米に比べ品質に劣る国産米は需要が低く、流通価格も安価となります。稲作振興のためには、市場での競争力を持つ、品質の高いコメを増産する必要があるのです。

オンライン実施となった2020年度研修は、帰国研修員からの学びの場に

帰国研修員が参加した2020年度のオンライン研修

本研修では例年、山形大学農学部や地方自治体、企業、JAなどの協力のもと、研修員を日本に招いて稲刈りの実習や稲作関連施設の見学、大学での講義などを行ってきました。しかし2020年は新型コロナウイルスの感染が拡大。はじめてオンライン研修を実施することになります。この研修には、過去に同研修で学んだ研修員が参加し、帰国後の活動や現在の課題について共有を行いました。どの国も、農業普及員やリーダー農家に向けて講座を開催するなど、日本での学びを自国に根付かせる取り組みを続けており、カメルーンの研修員からは、収穫後のコメの正しい保管方法を生産現場で実践したとの報告も。湿気や病害を防ぐためのパレットを製作し、倉庫内の衛生管理を改善した事例を共有してくれました。

2021年度研修に向けた初の試み「動画教材」の制作

山形大学の協力で制作した動画教材

その後もコロナ禍は収束を見せず、2021年度研修もオンラインでの実施が決定。2度目のオンライン研修では、新たな試みとして動画教材を導入することになりました。本来は実習で伝える知識や技術を、オンラインで少しでも効果的に学んでもらうための工夫です。動画の制作は山形大学が主導し、春頃から検討を開始。夏から秋にかけて大学の研究室や農場で撮影を行いました。完成した動画は、コンバインやバインダなどの農業機械の構造や使い方、適切な収穫時期の判定方法、コメの品質評価方法などを解説したもので、それぞれ英語版・フランス語版を用意しました。

こうして迎えた2021年度研修には、東部・西部アフリカを中心とする16カ国から、農業指導に従事する行政官ら計27名が参加。開催日程は11月と12月に設けました。参加国は英語圏・フランス語圏に分けられ、各国の時差も考慮してスケジュールが組まれました。

限られた機会を最大限に活用し、意欲的に学ぶ研修員たち

オンラインセッションでは情報共有や質疑応答が活発に行われた

作成したレポートをもとに、動画教材からの学びを発表する研修員

研修は計2日間のオンラインセッションと、動画教材を使ったオンデマンド学習で構成されます。研修初日のセッションでは、研修員が事前に作成したカントリーレポートを発表し、各国の課題を共有。続いて約1カ月間、研修員はLMS(オンデマンド学習管理システム)を使って各自で動画教材を視聴し、そこから得た学びをレポートにまとめて提出します。最終日のセッションではその内容を発表し、質疑応答を通して学びを深めます。セッションには山形大学の教授が講師として参加し、課題へのアドバイスなどを行います。

同研修では初となるオンデマンド学習。研修員たちは通常業務をこなしながら学習時間を確保することになりますが、その取り組み姿勢は非常に意欲的でした。参加国にはインターネット環境が不十分な国も多く、途中で接続が切れてしまうことも珍しくありません。そんな中でも、全員がすべての動画を視聴し、学んだ内容をびっしりと書き込んだレポートが次々と提出されました。最終日のセッションでは講師への質問が絶えず、終了時刻を延長するほど。限られた機会から最大限に知識を吸収しようとする熱意が感じられました。動画教材については「アフリカ諸国が抱えるコメの収穫後処理に関する課題を明確化していて、非常に興味深く、役に立つ内容だった」との声が多く聞かれ、研修員たちは「学んだ知識を生かして、自国の稲作技術の向上に取り組みたい」と語ってくれました。

困難な状況だからこそ生まれた、研修の新たな可能性

2019年の来日研修での実習風景

制約を抱えての研修は、新たな可能性を発見する機会にもなりました。コロナ禍収束後に向けて現在JICAが検討するのは「事前にオンラインで基礎知識などの講座を実施したうえで来日研修を行う」といった、オンラインとリアルを組み合わせた研修スタイル。JICA東北の俵山伊歩職員は「例年とは異なる取り組みに挑戦したことで、これからの研修のあり方の幅が広がり、我々にとっても貴重な経験になりました」と話します。今後状況が整った際には、コロナ禍で来日が叶わなかった研修員に対しても改めて日本での研修を実施したいと考えており、研修員たちもその日を心待ちにしています。