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【草の根技術協力】『藤崎町りんごわい化栽培研究会』の取り組み ウズベキスタン/リンゴ栽培技術の改善で農家の所得向上を目指す

2022年1月24日

ウズベキスタンの農業の近代化に貢献する、リンゴのわい化栽培

中央アジアの新興国ウズベキスタンにおいて、農業はGDPの約25%を占める基幹産業です。旧ソ連時代は綿花の生産が経済を支えましたが、1991年の独立後はより経済性の高い果物や野菜への移行が進みました。しかし、栽培技術の遅れから品質は輸入品に劣り、取引単価も低いため、農家の収入向上にはつながっていません。

こうした課題に取り組むのが、日本を代表するリンゴ品種『ふじ』発祥の地、青森県南津軽郡藤崎町を拠点に活動する『藤崎町りんごわい化栽培研究会』(以下わい化研究会)です。“わい化栽培”とは、リンゴの木を通常よりも小さく育てる栽培方法。木が小さいため、面積当たりに植えられる本数が増え、収量の増加や作業効率化が図れるといったメリットがあります。わい化研究会では、藤崎町や弘前大学の協力のもと、2019年からJICA草の根技術協力事業としてウズベキスタンのリンゴ栽培技術の向上と農家への普及を目指すプロジェクトを行っています。

ふじ栽培への思い、事業継続を願う声に応えた第2のプロジェクト

タシケント農業大学のモデル園地(写真提供:弘前大学)

ウズベキスタンでは、かねてより「ふじを栽培したい」という希望がありました。過去のJICA草の根技術協力事業での果樹栽培支援でふじリンゴが現地に紹介された際、そのおいしさと日持ちの良さが強い関心を呼んだのです。しかし、リンゴは果樹の中でも栽培が難しく、特にふじは適切に管理しなければ実りません。
そこで2015年から2年間、弘前大学農学生命科学部の荒川修教授が中心となって弘前大学と藤崎町が連携し、リンゴ栽培の技術支援を実施。わい化研究会も参加して栽培技術の指導や、現地の大学にモデル園地を開設するなどの活動を行いました。リンゴは植えてから実るまでに3~4年かかるため、収穫を見ることはできませんでしたが、果樹の順調な成長を見届けて事業を終えました。

これに続く活動として始まったのが現在のプロジェクト「リンゴ栽培の改善と農家への普及プロジェクト」です。プロジェクトマネジャーの神 昭彦さんは「前回の活動終了時、ウズベキスタン研修員から“実践的なプロジェクトなので、事業を継続してほしい”との声があがりました。さらに、現地で果樹栽培を研究するボティロフ・アリシェルさんが弘前大学への留学を決めていたことも追い風となりました」と説明します。

指導者層から生産者に指導対象を拡大。両国での研修で感じた熱意

ウズベキスタンでの剪定指導の様子(写真提供:弘前大学)

ウズベキスタンでの研修では、モデル園地で収穫されたふじを初めて確認することもできた(写真提供:弘前大学)

今回の活動で目指したのは、大学だけでなく、生産者にも実践的な技術を普及すること。日本語が堪能なアリシェルさんの通訳で、理解度の向上も期待できます。プロジェクトが始まり、2019年12月にはウズベキスタンでの研修を実施。わい化研究会の太田直人会長と会員の中村孝也さんが講師となり、大学のモデル園地のほか、地元農家でも剪定セミナーを行いました。中村さんは現地のリンゴ園について「病気なども見られ、まだ初期段階と感じた」と話します。しかし参加者の意欲は高く、荒川教授が「積極的に学ぶ姿勢が見えた」と語るとおり、セミナーには100人近くが集まることもあったといいます。

翌年2月の来日研修でも、参加対象を大学関係者と生産者とし、特に地域への普及員である農民組合メンバーや、前回の活動後わい化栽培のリンゴ園を開園した農家から選出しました。希望者は定員を超え、自費参加を含む計7名の研修員が藤崎町を訪問。日本のリンゴ栽培を直に見て学びました。しかし、この研修から間もなく新型コロナウイルスの感染が拡大。プロジェクトは中断を余儀なくされます。

コロナ禍で計画を大幅に変更。リモート指導の難しさも痛感

作業を解説した動画教材(写真提供:JICA東北)

摘果収穫(写真提供:JICA東北)

苦心しながら行ったZoomでの剪定指導(写真提供:藤崎町りんごわい化栽培研究会)

コロナ禍の混乱とともに2020年は過ぎ、年が明けても収束のめどは立ちません。活動期間に限りがある中、両国の往来による直接の指導は断念せざるを得ませんでした。代わりに実施したのが、リンゴ栽培で特に重要な3工程「剪定・摘果・収穫」を解説した教材動画の制作です。2021年の初夏から秋にかけて摘果と収穫を、2022年1月に剪定を撮影し、2022年3月までに一連の作業をまとめたDVDを完成させる予定です。

弘前大学での留学を終えて現地に帰国したアリシェルさんの協力で、Zoomでの剪定指導にも挑戦しました。大学のモデル園地や農家の園地で、剪定する様子を日本とオンラインでつなぎ、荒川教授や太田会長他わい化研究会員のみなさんに指導してもらうという方法です。しかし、映像から枝の位置を立体的に把握するのは非常に難しく、太田会長は「うまく意図が伝わらず、詳しい手順を十分に説明できなかった」とその苦労を語ります。

現地に生まれた協力体制、さらなる国際協力…未来をつなぐリンゴ栽培

今は画面越しのやり取りですが、また両国を行き来できる日を楽しみにしています(写真提供:藤崎町りんごわい化栽培研究会)

プロジェクトは2022年3月に終了します。太田会長は「予定通りに活動ができていたら、という思いはありますが、現地と日本で一度ずつでも技術を直接伝えることができて良かった」と振り返ります。コロナ禍に翻弄されながらも、ウズベキスタンでは大学関係者や地域農家のリーダーの協力体制が構築されました。今後は学んだ技術を各農家に定着させ、所得向上につなげることが期待されます。

わい化研究会では今後も同国と交流を続ける予定で、「状況が落ち着けばまた園地を視察したい」と話します。将来的には農業を学ぶ外国人研修生の受け入れ先として活動する構想も。ホームページなどで活動について情報発信し、国際協力に関心がある国内のリンゴ農家とのつながりも広げたいと考えています。2つの国をつないだリンゴ栽培は、さらなる未来に向けて発展を続けます。