【インドFRIENDSHIPプログラム】「新素材を開発し、母国で女性活躍の裾野を広げたい」東北大学スリ プラグナさん

2021年5月6日

人口増による深刻な就職難に苦難するインドの優秀な研究者たち

(C)JICA
2002年に開通した地下鉄デリーメトロ。総延長は東京メトロを超える373km。

現在、インドは、13億人を超える世界第2位の人口を抱える大国となり、その経済規模は世界第5位に達しています。インフラの整備は人口増大のスピードに追い付かず、社会開発面では多くの課題に直面しています。人口の4割以上が20歳未満で、毎月100万人以上が労働市場に加わることにより若者の就職難が深刻な社会問題化しています。教育や技術習得などの人的資本の拡充とともに、製造業など新たな雇用機会を創出する産業基盤の強化が不可欠とされています。

(C)JICA
人口増大によって交通網も拡充している。2017年は約18億人がデリーメトロを利用し、世界第7位の利用者数を記録した。

急速な経済発展を続けるインドにおいて、国内最高峰の理系高等教育機関である国立大学群のインド工科大学(Indian Institute of Technology、IIT)に求められる役割は増し、2016年までにインド各地に次々設置されたIIT は23校にのぼり、優秀な人材の育成に大きく貢献してきました。幼いころから学習塾に通い、数十倍の倍率を経て入学した秀才たちが、国内一流の教授陣の指導を受けることで卒業生の活躍は全世界的に目覚ましいものがあります。

日本がインド工科大ハイデラバード校との産学研究ネットワークを構築

2020年度3月に卒業したJICA留学生修了式の集合写真

IIT-H からの留学生スリさんも2年間の修士課程を修了しました

インド国内で高まる人材育成のニーズに対応すべく日印協議の結果、2008年、アーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバードに創設されたIITハイデラバード校(IIT-H)を日本が支援することになりました。5分野(環境・エネルギー、デジタル・コミュニケーション、デザイン&マニュファクチャリング、ナノテク・ナノサイエンス、都市工学)を重点分野として相互補完的な協力を展開しています。

中でも、人的資源開発の側面から、博士課程への研修員受け入れや学術人材交流を軸にした「IIT-H 日印産学研究ネットワーク構築支援(FRIENDSHIP)プロジェクト」が年々成長を遂げています。IIT-Hの学生が日本の大学の修士・博士課程に留学できる「研究人材育成プログラム」では、年々留学人数が増加し、卒業後に日本企業に就職するインド出身の学生も増えています。JICA東北では東北大学への留学生を2017年度に1名、2018年度に2名、2019年度に3名、2020年度に2名(20年度は新型コロナウイルスの影響により一部来日延期中)を受け入れています。これは日本の大学・産業界とIIT-Hとの間で産学の研究ネットワークを形成し、将来にわたって連携体制の構築を目的とするものです。

留学生に対し日本での活動を担当者が丁寧にサポート

留学生に対してJICAでは、現地での留学プログラム説明会からはじまり、留学生の選考、渡航の手続きや日本での生活面のフォローなどを行います。サポートを担当するJICA東北の井澤仁美職員は、「留学生には学費や一定の生活費を支給し、研究に専念できる環境を準備しています。このプログラムが日本とインドの将来の架け橋になることを目指しています」と語ります。

留学生のスリさん「来日してしばらくは環境に慣れることに苦慮した」

地域の夏祭りにボランティアとして参加するスリさん

積極的にイベントに参加し交流を深めました

スリ プラグナさんは、IIT-H の学部卒業後、2018年9月に研究生として来日し、その後東北大学大学院工学研究科修士課程に在籍。材料の分野で世界をリードする東北大学で金属の研究を重ね、2021年3月に修士号を取得しました。修論テーマは『Fe-Co-Mn系の相平衡と拡散』。さまざまな温度で異なる配合による溶融合金の熱処理についての研究を進めています。この春からは博士課程へ進学し、さらに留学期間を3年間延長し次なるステージに歩みを進めました。

「来日したばかりのころは、言葉や宗教、文化など、自国との違いを心細く感じていました。研究室の同僚には男性しかおらず、女性は私だけ。余計に孤独を感じました」とスリさん。「次第に日本の方たちは正直で優しく、見ず知らずの方から受ける親切に感動することも。研究室で女性ひとりという環境にも次第に慣れました」と笑います。いつの間にか日本が大好きになり、新型コロナウイルスが感染拡大する前には地域のお祭りにJICAの留学生スタッフとして参加するなど、積極的に交流を楽しんでいたようです。
「日本は研究環境が素晴らしい。インドでは、実験装置一台をシェアすることが多く、しばらく待った末に壊れていて使えないこともよくありました。日本では待たずに利用でき、いつも正常に動きます。研究に専念できる環境が整っていますね。また、昨年はJICAのサポートを受け日本企業でインターンを経験できました。日本人の働き方などいろいろと学ぶことができ、社員の方が親切でフレンドリーなところも安心しました。卒業後は日本企業に就職することを希望しています」。

「インドでも女性研究者が研究に没頭できる環境をつくりたい」

将来は自国に貢献したいというスリさん

「材料科学は、理系の中でもとりわけ女性の少ない分野です。ましてインドは日本よりもさらに少ない。将来はインドで科学や工学を研究する女性研究者を増やすことにも貢献していきたいです。研究者としては強度の高い新素材を開発し、大型建築など高いレベルで活用されることが目標です」とスリさんは話してくれました。

IIT-H とのFRIENDSHIPプロジェクトでは、今後も多くの留学生を受け入れ、日印両国の人材育成や技術協力によって産学ネットワークを強固にし、互恵的な取り組みを増やしていく予定です。