• ホーム
  • JICA東北
  • トピックス
  • 2021年度
  • 【医療機材管理・保守A-Cコース】すべての人が適切な医療を受けられるよう、医療機材のメンテナンスを通して医療を支える人材を育成

【医療機材管理・保守A-Cコース】すべての人が適切な医療を受けられるよう、医療機材のメンテナンスを通して医療を支える人材を育成

2021年7月20日

ビデオ会議システムを使った個別研修で、研修員のあらゆる質問や悩みに応える

大内所長とモーセスさんとの個別研修の様子

機材を映し質問を受けながら説明する。輸液ポンプの仕組み、操作、点検方法について

新型コロナ感染症流行の影響で来日での研修が叶わず、オンラインで個別指導をしています。ケニアの研修員モーセスさんは、18の診療科を抱え1日約1,500人の外来患者を受け入れるナクル県の総合病院に勤めるバイオメディカルエンジニア(医療機器保守管理技術者)。8名のスタッフのうち、彼以外の多くの同僚が近く退職予定のため、医療専門学校を卒業したモーセスさんが研修に参加しています。

課題に感じているのは、「機器の使用者が正しい使用法を理解していないこと」、「機器が足りない・あるものが古いこと」、そして「保守担当者の学びの機会がなく、また技術取得や能力向上が難しいこと」の3つ。モーセスさんは、「今まで技能向上のための研修の機会がなかったので今回の研修を楽しみにしていました。血液検査に関わる機器のほか、さまざまな機器について学びを深めたいです」と意気込み、熱心に研修に取り組んでいます。

本研修を実施するエア・ウォーター東日本株式会社メディサン研修所所長の大内 学さんは、20年以上にわたり研修員への指導を続けています。「モーセスさんは、時間に正確で受け答えもスムーズ。この機会にさまざまなことを吸収しようという姿勢が感じられ、一枚のスライドに対する理解の速さも素晴らしいものでした。いつの日か再会した時には、良いメンテナンスシステムが構築されたと聞けることを期待しています」と語ります。

日本の医療機材マネジメント法が、世界の保健医療サービスの質的向上につながる

「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことを意味し、すべての人が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを享受することを目指す国際社会の指針、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)。持続可能な開発目標(SDGs)においてもUHCの達成が掲げられており、日本もUHCの推進を目標として掲げています。日本は、他の先進国に比べ、低コストで世界一の長寿を達成した保健医療のノウハウを持ち、JICAは、貧困層を含む国際社会のすべての人々が享受できる基本的な保健医療サービスに、このノウハウが組み込まれるよう、取り組んでいます。

具体的には、保健医療サービスを人々に提供するための人材・施設・資機材などの保健システムの強化です。特に途上国では、電気や水などのインフラの不足に加え、土ぼこりやネズミによる被害、また消耗品の不足などによって、医療機材が活用できていないことがあり、せっかく導入したのに使えない、使える人がいないなど、本来の目的を達成できていないのです。病人やけが人が遠くの町からやっとの思いで医療施設にたどり着いても、医療機材が故障していたら正確な診断ができません。また、「表示の文字が読めない」、「使い方がわからない」と、残念ながら使わずに放置されてしまうこともあります。

医師をはじめとした現地の医療従事者が適切な医療機材を選択・調達でき、適切に使用できるようにならなければ保健サービスの向上は叶いません。そのため、本研修では医療機材を長く使うための計画的予防保守を学び、その方法を習得します。この計画的予防保守で故障を減らし、大切な機器が長く使われることを目標にしています。

JICAでは、1984年から38年にわたり112カ国859名の医療機材担当者を指導

来日研修の様子。福島県郡山市メディサン研修所にて滅菌装置の説明

eラーニングシステムによって配信された研修用動画

あらゆる国で医療機材が適切に管理され、安全で質の高い医療サービスが提供されることを目標に、1984年から始めた『医療機材管理・保守』のJICA研修。各国から日本に集まった研修員は、約8週間の日程で講義や実習を受け、病院見学や医療メーカーの工場見学を行ってきました。研修の対象となるのは、地方病院から首都の大きな病院までさまざまな医療機関に勤めるバイオメディカルエンジニアが主体です。内容は、機材の動作原理から構造、使用方法、メンテナンス方法、機器管理表の作成、機材のスペアパーツの取得方法、予算取得についてのノウハウなど多岐にわたります。

2020年度は来日での研修が叶わず、オンデマンドで学べるeラーニングシステムを導入し、研修員は基礎となる生体物性など10講座(計3時間程度)の受講を終えました。この事前学習を復習しつつ、より実践的な科目を習得するため、4月から個別オンラインライブ研修をスタートさせました。相互コミュニケーションが可能なビデオ会議システム「Zoom」を使い、医療機器を使った実技研修を中心に実施しています。ここでは事前学習を済ませた32カ国33名が対象となります。研修時刻は現地に合わせているため、日本では夜中のスタートとなることもあります。

医療機材マネジメントを永続的に行うための5SやKAIZENの手法を活用

研修の最後にはアクションプランと呼ばれる帰国後の活動計画を作ります。5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)、KAIZEN(作業効率や安全性の確保を見直す活動)、総合的品質管理を学び、自分たちの職場の医療機材が適切に使用され、長く稼働していくためには何が不足していて、何が必要かを考えて、まず容易に取り組めることから計画します。研修終了後に実践となりますが、まずは小さなことからスタートし、継続することにより、安全で質の高い医療サービスが人々に提供されることを目指します。