【草の根技術協力『ザ・ピープル』の取り組み】

電気のないミクロネシアの離島/島を守る女性たちがものづくりで収益を上げ自立を目指すために

2021年9月3日

いまだに電気の通っていない、島しょ国ミクロネシアの離島の生活

青く広がるミクロネシアの海(写真提供:JICAミクロネシア支所)

ミクロネシア連邦はいくつもの島で構成される島しょ国です。島々の中には、未だに電化されていない地域があり、自家発電装置を持てない家庭では電気のない暮らしをしています。非電化地域の島民たちの希望は、自然エネルギーを活用した発電によって夜間に明かりがもたらされ、電気を利用した機器を使用出来るようになること。ミクロネシアでは、これまでも支援物資としてソーラーシステムの提供を受けた経緯があるものの、そのメンテナンス技術の共有がなされなかったため、適切な使用や管理ができず、結局すぐに壊れて使い捨てのように廃棄されるということを繰り返していました。

電気を管理することで、女性主体のコミュニティビジネスを創出

屋外キッチン(写真提供:JICAミクロネシア支所)

福島県いわき市を拠点に活動する『NPO法人 ザ・ピープル』では、この流れを打開するため草の根技術協力事業として、離島の一つであるフォノトン島においてソーラーシステムのメンテナンス技術の提供、指導を行い、住民たちが自立的に利用・管理できるようになることを目指し2019年10月からプロジェクトを実施しています。ミクロネシアの離島の男性は出稼ぎのために他の離島やグアム、アメリカ本土まで出向いていることが多く、コミュニティを支えているのは離島に残る女性たちです。女性たちは自立に向け小さな規模のビジネスを手がけたいとの希望を抱いているものの、実際に取り組むにあたっての企画力、運営力、財力が伴わずに動き出せない状態にありました。

『NPO法人 ザ・ピープル』の代表である吉田恵美子さんは、「私たちは、地域課題を地域の女性が自ら解決するために生まれたNPOです。地元の福島では東日本大震災以降、特に地域の女性が主体となって持続的なコミュニティを生み出すことを支援してきました。遠くミクロネシアの地でも私たちのノウハウを活かし、単に電気を自由に使えるようにすることだけでなく、現地の方が望むように電気を活用した新たなコミュニティビジネスの創出のきっかけ作りを支援することにしました」と語ります。

必要とされたのは、電気を使うための保守の技術と女性たちが自立するための技術

日本からのオンライン指導により島民が設置したソーラーパネル。(写真提供:NPO法人 ザ・ピープル)

きっかけは、2015年に開催された『太平洋・島サミット』でミクロネシアの大使とつながりが生まれたこと。2016年には現地を訪問。当時現地に派遣されていたJICA海外協力隊の案内により、現地をくまなく視察することができました。再生可能エネルギーの専門家で本事業ではプロジェクトマネジャーを務める島村守彦さんは、現地で目にした光景について「せっかく提供を受けたのに使えなくなったソーラーシステムがたくさんあることに驚いた」と語ります。修理やメンテナンスの技術を伝えることができれば、使い捨てのように放置されることは減りそうだと考えました。また、吉田さんは「『電気が通るようになったら何がしたい?』と現地の女性に尋ねると、『電動ミシンを使ってムームー(現地衣装)を作って売りたい』との答え。自分たちの力で収入を得る方法を支援できると思った」と現地の人との交流で事業のアイデアが膨らんだといいます。

ソーラーシステムは故障…コロナ禍で現地入りできず…プロジェクトは苦難の連続

現地の女性たちにソーラーシステムの繋ぎ方と仕組みを伝える。(写真提供:NPO法人 ザ・ピープル)

プロジェクトがスタートし、2020年1月にはソーラーシステムを設置しミシンの技術指導のために現地に赴きますが、当日に予定のソーラーパネルが調達できていないことが判明します。島村さん達は、急遽島内で放置されているソーラパネルを集めて、滞在期間中に急ごしらえで独立型電源システムを構築。「初めから大きなトラブルで頭を抱えたが、島の方はパネル集めにも大変協力的に取り組んでくれていた。システムが動かなくなったら諦めて放置されていたソーラーパネルを整備し、限られた部材を活用して仮の電力システムを完成させたことで、『彼らは技術を伝えにきた、本気なのだ』と理解してくれたように感じる」と島村さんは振り返ります。残念ながら、現在は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、ミクロネシアへの出入国も規制され、予定していた現地訪問は叶っていません。しかし、ミクロネシアのポンペイに在住する現地業務補助員の大村剛正さんが、現地コーディネーターと丁寧なコミュニケーションを図りながら、ミクロネシアと日本をつなぎプロジェクトを推進するための補佐を行っています。設置したシステムが雷で故障した際には、大村さんがフォノトン島に入り、日本から送られた修理動画を見ながら手作業で補修。島の人たちにもその方法を伝えるなど、携帯電話での連絡さえも不安定なフォノトン島でのプロジェクト推進を現地から支える強力な人材です。

10代の少女たちが主体的に技術を習得し、離島の未来を明るく照らす

10代が中心となって電動ミシンを練習しています。(写真提供:NPO法人 ザ・ピープル)

まずは小物の製作に取り組み、品質の向上を目指します。(写真提供:NPO法人 ザ・ピープル)

現在、電動ミシンは、有志で集まった10代の少女たちが中心となり技術を磨いています。現地の女性にとって商品を作って売り収入を得ることはハードルが高く、さらにそれが電力を用いた技術であれば、なおさらです。その機会を得た離島の未来を担う10代の少女たちは、目を輝かせ熱意を持ってミシンの縫製技術習得に取り組んでいます。現地の女性団体の協力を得て、商品としてのクオリティを磨きつつ、まずは自立を支える技術となるように支援しています。

島村さんは、「ソーラーシステムでミシンが動くことに島の人はカルチャーショックを受けていました。うちの島でもできないか、と他の離島の方が言っているとも聞いています。技術を身につけたいと願う他の離島の人にも機会が得られるような、横の広がりが生まれることを願っています」と展望を語ります。吉田さんは、「このプロジェクトを通してフォノトン島の女性が地域の課題を自分たちの力で解決するきっかけとなれたら嬉しい。こんな改善がしたいと、声が上がったときにはまたぜひ協力をしたいです」と長期的な支援の可能性も考えているようです。予定通りに進まないこともありますが、現地の方との信頼関係は厚く、さらなる技術向上を目指して現在もプロジェクトは進行中です。