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【JICA民間連携事業を経て海外進出に追い風】JAPANコンストラクション国際賞受賞 株式会社菅原工業(気仙沼)のインドネシアでの取り組み

2021年9月6日

震災後の需要を見据えて、海外展開という未知の事業展開を図った地方の土木会社

インドネシアでのリサイクルアスファルトの舗装状況。

我が国の競争力の強化と更なる海外進出を後押しするため、海外で先導的に活躍している建設関連企業を表彰する国土交通省の『第4回JAPANコンストラクション国際賞』国土交通大臣賞を受賞した、宮城県気仙沼市で土木工事業を営む株式会社菅原工業。「質の高いインフラ」を代表する海外建設プロジェクトとして表彰されたのは、菅原工業が2015年から始めたインドネシアでのリサイクルアスファルト事業です。
代表取締役の菅原渉さんは、2011年の震災後、今までとは全く異なる新しい事業構想に着手しました。それは、昔から気仙沼に縁の深いインドネシアの人材を育成し、現地に進出。日本と並行して、インドネシアでも道路工事事業者として事業を展開するというものです。当時、東北では復興需要バブルが起こりましたが、10年後の需要減少を見越し海外での事業展開を計画しました。

民間レベルでは全く動きのなかった交渉が、JICAの「中小企業・SDGs支援事業」によってスムーズに展開

リサイクルアスファルトのプラント1号機(インドネシア)

菅原工業では、アスファルトを輸入に頼るインドネシアにおいて、リサイクルアスファルトの普及に着目。道路に敷いたアスファルトを剥がして再利用するという日本では一般的な技術ですが、インドネシアではほとんど行われていません。そこにビジネスの勝機とインドネシアへの貢献を見出して、2015年、インドネシアに合弁会社を立ち上げ、1基目のプラント建設に乗り出します。さらに、その事業基盤を確固とするため、日本企業の海外展開を支援するJICA「中小企業海外展開支援事業」(当時:現名称「中小企業・SDGsビジネス支援事業」)「案件化調査」を活用し、『アスファルト廃棄物を活用した循環型舗装技術の導入』をインドネシアで行うための本格的な現地調査を開始しました。調査の結果、インドネシアの政府機関を対象に、同社の製品技術の有効度がわかるデモストレーションなどのセミナーを開催するなど、認知度向上に取り組みました。
「それまで、インドネシアの自治体や政府で事業展開の交渉を進めようと動いても、最終決定権を持つ人物にたどり着けなかったり、たらい回しにされたりと、思うように進まず大変苦労したのですが、JICAの事業で取り組むという後ろ盾ができたことで、驚くほどスピーディに交渉が進むようになりました。さらにJICA「中小企業・SDGs支援事業」の「案件化調査」に参画したコンサルティング会社や研究機関の優秀な人材にサポートしてもらうことで、海外での商慣習を含め、物事の進め方やリスクマネンジメントについて学ぶことができました。これらのことを通した事業化の調査を基に、リサイクルアスファルトに不可欠な再生添加物の技術開発も進めることができ、充実した調査期間となりました」と菅原さんは語ります。

地道な技術開発によって、環境に配慮した製造システムを構築

インドネシアの現地法人のスタッフたち。

こうしてJICA「中小企業・SDGs支援事業」で活動基盤を強化したインドネシアの拠点では、現在、現地でアスファルトのリサイクル骨材(剥がした道路を破砕し粒度を調整したもの)の製造を主に行っており、リサイクルアスファルトに必要な日本から輸入した再生添加剤を現地規格に適合させ、インドネシア全土で使用可能とするなど精力的に事業を展開しています。2017年に1基目のプラントを西ジャワ州カラワン(ジャカルタから東に50km)に建設し、今は、カラワンからさらに東に130km離れたマジャレンカに2基目のプラントを建設中です。このプラントは、現地産のバイオマス燃料で稼働させることができ、二酸化炭素の排出量を抑えるなど環境に配慮したシステムを採用しています。
また、新たに現地の材料を活用し植物性の再生添加物の開発に成功。これまで日本からの輸入に頼っていた再生添加物を現地で簡単に手に入り、材料で、しかも植物性の材料で製造できることとなり、輸入コストの大幅削減だけでなく、事業全体の二酸化炭素の削減につながっています。

日本で技術を習得した技能実習生をインドネシアで採用する、人材還流の仕組み

路面切削工事の様子

JICAの「中小企業・SDGs支援事業」とは別途平行して、2014年に初めて技能実習生を受け入れてから、これまでにのべ15名のインドネシア実習生が菅原工業で技術を磨いてきました。日本で主に道路舗装工事に従事し、ローラーに乗って転圧や敷き慣らしの作業をおこなっています。3年の実習期間を経て帰国することが多いですが、実習生本人が望めばさらに2年間の延長が認められています。
菅原さんは「もうすぐ2基目のプラントが完成するので、来年からはインドネシアで念願の道路補修工事がスタートします。実習生には、気仙沼で学んだ技術を自国で活かして自国の開発に貢献してもらいたい。すでに、インドネシアでも一緒に仕事ができるよ、と伝えていて、実際にインドネシアで菅原工業の仕事がしたいと希望する実習生がいます。日本での3年の経験がある実習生は現地の当社法人で職長として採用する可能性もあります」と語り、さらには、より将来的には、日本本社でも働いてもらうことも視野に入れた、日本とインドネシアの人材還流による企業活動の構想を実現しようとしています。

インドネシア料理店にモスクなど、多文化共生のスポットを気仙沼にオープン

菅原工業の関連会社(株式会社S)が運営するインドネシア料理店(気仙沼市)。

ムショラと呼ばれる小さなモスク。料理店のすぐそばにあります。

菅原工業の技能実習生たちから、「ハラル食品が少なく食事に苦労している」「豚肉エキスが入っているのでカップラーメンも気軽に食べられない」「週末の度に仙台のモスクまで行っている」という話を聞いた菅原さんは、福利厚生の一環としてインドネシア料理店と自由に礼拝ができるモスクを気仙沼市内に作ることにしました。2019年にオープンした料理店とモスクは、寄港する船のインドネシアの乗組員にも気軽に利用してもらえるよう港のすぐ近くにあります。モスクは無料で利用できます。



「インドネシアの実習生は目標を明確にして来日しています。さまざまな夢が見られるように日本での生活をサポートするのはもちろん、インドネシアに戻ってからも国を支える人材として活躍する場所を提供できたらと思っています」と菅原さん。インドネシアでの事業はまだ始まったばかり。来年度からの現地の道路補修工事開始に向けて、着々と準備を進めているようです。