【民間連携事業】デング熱世界最多発生国インド/ウイルス感染者を判別する簡易PCR検査キットで命を救いたい【株式会社TBA】

2021年10月29日

蚊が媒介するデングウイルスに年間10万人が感染する、感染者世界最多のインド

主にネッタイシマカ(蚊)が媒介するデングウイルス。数年前、日本でも発生が確認され話題になりましたが、デング熱の発生はインドが世界最多であり、年間10万人以上が感染しています。今年(2021年)9月には、インドにおいて、重症化したデング熱とみられる熱病によって50名以上の子どもが亡くなったという痛ましいニュースが流れました。デング熱はワクチンの副反応が大きく、予防手段が一般化されていません。蚊の多い地方や農村部では特にリスクが高く、感染の発見や治療が遅れることで重症化し死に至る危険性があります。求められるのは、感染の早期発見と、医療施設へ出向き速やかに治療を受けること。デングウイルス感染の早期発見と適切な医療処置が叶えば、特に子どもたちのリスクが軽減できるのです。

東北大学発のベンチャー企業が簡単に目視で感染症診断ができる試験紙を開発・製造

蚊媒介ウイルス検査キット

モバイル型のPCR検査用小型機器(サーマルクライスラー)

2013年に東北大学発ベンチャーとして創業した『株式会社TBA』は、簡便な遺伝子検査法『STH法』を用いて、感染症を簡単に発見できるPCR検査キットの開発・製造を行っています。検査キットをインドにおけるデング熱の感染判断に活用する可能性を探るべく、JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業に応募し、「インド国地域の感染症医療サービス向上に向けた簡易PCR検査導入の取り組み案件化調査」として2020年に採択されました。『株式会社TBA』のPCR検査キットは、高度な検査技術や高価な検査機器が不要であり、取扱いも簡単、かつ目視で判定できるため、都市圏の中央病院だけではなく、地方の医療現場でも使用できます。また、複数のウイルスを同時に検査できるため、新型コロナウイルスとインフルエンザA・B型の同時検査も可能です。現在、インドにおける本検査法の活用可能性について調査を進めています。

『STH法』は、『株式会社TBA』で開発・製造している細長い短冊状の目視判定検査紙(PAS)を使用します。検査の方法は、まず、採取した検体を試薬と混ぜてウイルス遺伝子をPCR増幅させます。この増幅工程は、大きさ30センチほどの持ち運び可能な小型PCR機の使用により可能で、1時間ほどで完了します。その後、PCR増幅液に展開液(色付け剤)を加え、検査紙(PAS)を浸します。検査紙(PAS)には増幅したDNAが反応する特殊なDNAがライン状に印刷されており、ウイルス遺伝子の一部が増幅したDNAと反応するとラインが着色され、結果が目視できる仕組みです。複数ウイルスの同時検出が可能であるため、検査にかかる時間や費用、また患者の身体的負担も軽減することができます。

インドで必要とされているのは、専門知識を必要としない簡単な検査キット

現地診療所での検査の様子

『株式会社TBA』のCEOであり、東北大学大学院医工学研究科教授の川瀬三雄さんは、インドでの調査について「発展途上国の医療現場で幅広く必要とされるのは、高額で全自動の大型機器ではなく、専門知識がなくても簡単に手動操作ができる小型機器です。高額な大型機器は設置のハードルも高く、保守管理の面でも課題は多いものです。現地の地方で求められているのはハイエンド(高価格帯)機器ではなく、ローエンド(低価格帯)。安価で使いやすい遺伝子検査の小型機器さえあれば、私たちのPCR検査キットも無理なく導入することができます。まずは、現地の状況をよく把握し、現地の課題に合った医療サービスを検討することが必要です」と語ります。
インドでは、デング熱疑いのある患者が即日検査の可能な総合病院に行くためには何時間もかかり、交通手段や費用の面でも簡単ではないとのこと。気軽に受診できないことが診断遅れの理由になるそうです。わざわざ都市圏の病院へ出向かずに地方の医療施設で簡単かつスピーディに診断することができれば、すぐに治療を開始でき、デング熱で重症化する人は明らかに減るでしょう。また、感染の早期発見は、感染拡大の抑制にも大きく貢献します。

簡単で安価だからこそ世界中で必要とされる、検査サービスのビジネスモデル

特殊なインクジェット加工で試験紙(PAS)を製造

『株式会社TBA』の『STH法』は、感染症診断はもちろんのこと、医療分野以外にもペットの疾患診断、養殖魚病検査、食中毒菌検査や畜産品の品種鑑定など、健康・環境管理分野や食品衛生検査分野での活用が進んでいます。開発コンセプトは、誰でもどこでも実施可能な遺伝子検査技術。世界中のあらゆる市場へ展開することを目指しています。すでに中国やベトナムではプロジェクトが進行中であり、それぞれの国の体外診断薬としての申請を行い、認可を待っているところです。

発展途上国における医療サービスの質の向上を目指して

オンラインを活用した現地調査の様子

TBA社によるJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業の案件化調査は、来年(2022年)7月まで続く予定です。計画当初は現地渡航を予定していましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により渡航は難しくなり、リモートによる現地調査を行っています。現地のコンサルタントや調査員による現地調査チームを結成し、川瀬さんはオンラインで調査を指揮しています。川瀬さんは、「今回の調査は、私たちの技術が現地でどのように役に立つか、カウンターパート(現地州政府)の方とともに調査し、STH-PAS検査キットの導入がインドの感染症対策に役立つ可能性を秘めていることを検証することがゴールです。私たちの技術は先進国ではなく発展途上国に必要とされています。検査の裾野を広げ、安価で検査ができる現場を増やし、健康で安心安全な社会の実現に貢献していきたい」と語ります。