「字が読めないって、想像したことありますか?」

【画像】

「女性の教育推進セミナー」に参加した研修員たち

皆さんは識字と聞くとどんなことを想像しますか?
日本ではあまり聞き慣れない言葉ですが、狭い意味では文字の読み書きと計算ができる能力を指し、ユネスコの定義では、「日常生活で用いられる簡単で短い文章を理解して読み書きできること」となっています。
日本の識字率はなんと99.8%であり、ほとんどの人が文字の読み書き、計算ができる状態です。
これは男女を問わず誰もが教育を受ける機会が提供された結果と言えるでしょう。しかし、世界には、学ぶ意志があっても教育を受けられない人たちがたくさんいます。

現在多くの国々で小学校の義務化が進み、子供の識字率は上昇傾向にあります。しかし、かつて学校に通えなかった15歳以上の大人については未だに深刻な問題となっています。特に女性は家事や子育てといった手伝いを優先させられたり、「まず男の子が先に学校に行く」と言う男性優位の考え方、さらには、「どうせ女の子はいずれ結婚をして他の家の人になるのだから教育なんて必要ない。投資をするのは無駄だ。」と考えられたりすることも多く、その結果、世界の非識字者の3分の2は女性なのです。

現在JICA東京で研修を行っている「女性の教育推進セミナー」では学校教育はもちろん、成人に対する学校外教育(ノンフォーマル教育)の問題についての解決策も模索しています。

この研修にはネパール、ラオス、ニジェール、ジンバブエ、マラウイ、ガンビアと言ったアジア・アフリカ諸国の教育に携わる行政官が参加し、女子・女性の教育を推進するために日本の知見を学ぶと共に、自国の問題についてお互いに情報共有しながら議論を深めています。

【画像】

熱心にディスカッションする研修員たち

では、実際に読み書きができないと生活にどんな問題が出てくるのでしょう?

先日ユネスコアジア文化センターで行われた「女性と識字」についてのワークショップでの議論を取り上げてみます。
家族の主な稼ぎ手が病気になったとします。その家のお母さんは文字が読めません。どんな問題が起こるのでしょうか?
(1)家に薬があったとしても正しい薬のビンが分からない。
(2)病院に行って薬をもらおうとしても町へ行くためのバスの表示が読めない。
(3)字が読めないためにどこで降りたら良いのか分からない。
(4)処方箋をもらって薬局に行ってもそこに書かれている価格が計算できない。
(5)用事を済ませて家には帰れたが字が読めないことで大変なストレスとなり、時間も浪費してしまった。
識字率99.8%の日本では、想像できないかもしれませんが、このような事態は全て文字が読めないことから起こっているのです。

では、女性であっても識字教育を受けられるようにするにはどうしたらよいのでしょう?
(1)町や村の公民館などで識字教室を開き、女性もそれに出席する(ノンフォーマル教育の充実)。
(2)夫や家族が教育の重要性を認識し、女性であっても識字教室に通えるよう家事を手伝う。
(3)政府がもっと識字教育やノンフォーマル教育を推進する。
(4)地域や家族を巻き込んで識字教育の重要性についてのキャンペーンをするのが良い。
など、といった意見が出され、議論を深めていました。

【画像】

開発された識字教材

さらに、午後からはユネスコアジア文化センターが開発した識字教材のデモンストレーションや、模擬授業を行ったりしました。字が読めない人たちにどのような絵を描けば適切にメッセージが伝わるのか、どのような言葉で表現すれば良いか苦労している研修員も多く見られました。

研修員の多くは学校教育における女子の就学率を高める仕事に従事しているので、このように成人の非識字率や識字教育についてじっくり考えたのは新鮮な経験だったようです。
研修はまだまだ続きますが、この1日が研修員にとって実りある一日であったことを確信しています。

JICA東京 人間開発課 定家陽子